ゲーム

第1話 欲しかったらあげる

俺には幼馴染がいる

俺はアイツのことをよく知っている

逆にアイツも俺のことをよく知っている

はず

名前はカスミという

俺よりツーランク上の高校へ行き

料理も出来るし…歌も上手い

もちろん頭も良い

俺よりこの世に必要な存在なのだ

そんなアイツが

自殺するとは思わなかった





救急車のサイレンが聞こえた

母は

大したことことない

って

ぜんそくだ

って

そんなわけない、俺はアイツのことをよく知ってる

アイツは健康でぜんそくみたいな持病もない分かってる

しかも、雰囲気でわかる

カスミののったストレッチャーに寄り添うカスミの母の顔を見れば分かった

ただものじゃない雰囲気だった

バカでも分かる




「ねえ、ヒロ」

「どうした母ちゃん」

「新聞…見てみて」

「何がどうした?」

俺のお気に入りの番組が今日は特別な番組に切り替わったとか…だと思った

そんなしょうもない考えは母の顔を見れば吹き飛んだ

新聞にはこう書いてあった


【自殺者急増、原因は薬の闇取引】

大袈裟なと俺は思った

けど実際その薬を買っている人は多く

下に自殺者、自殺未遂者の大まかな情報が書いてあった

そのひとつに目を引くものがあった

都立高校に入学したばかりのKさん

薬を買った理由として

〈猛勉強のすえ志望校に合格し、目標を見失った 燃えつき症候群〟に陥ったと見られる〉

そんなことがあるのか?

…あるんだろうな

「ヒロ、カスミちゃんがあなたに会いたいんだって。病院行ってあげて」



扉を開けると眠そうにベッドに寝転んでるカスミがいた

「やほー」

「あほだろお前」

本心だ、本当に馬鹿

俺よりこの世に必要な人間なのに

「怒ってたりする?」

「怒るだろ、自殺しようとするから!」

チッ

舌打ちしながらベッドの横にある丸椅子に座る

「自殺って知ってるんだ」

「そりゃあな」

少しの沈黙

「私、燃え尽き症候群らしいよ」

「…そうなのか?」

「だいたい…ちょっと違う理由だけど」

「じゃあなんで…」

「ゲームがしたかっただけ、なんだか刺激が欲しくて」

「はあ?」

「ゲームはゲーム、薬を使った」

薬…

「ゲームってのは、瓶の中の薬を毎日三つずつ飲むの、薬は1ヶ月分ある」

急に説明し始めた自殺の原因なんて聞きたくもないのに

「瓶の中には、ビタミン剤、睡眠薬、そして一つ青酸カリが入ってる」

「青酸カリって」

「そう、あれ死んじゃうやつ」

「三つのうちひとつでも青酸カリがあればアウト、睡眠薬三つだと致死量でアウト」

「じゃあお前は何を食ったんだ」

「睡眠薬二つ、危なかった」

なんだか話に乗せられたが

そんなことするまで追い込まれてたのかコイツは

いつも元気だったはず

カスミのことはなんでも知ってたはず

まだ無知だったんだ

「その瓶まだ余ってる、メーターボックスに入ってる」

「捨てろってこと?」

「いや、欲しかったらあげる」





何故か走って帰った、メーターボックス…

あった瓶だ

まだまだ残っているようだ


部屋でなんとなく瓶を見つめていた

これをアイツは自分の意思で買って

自分で飲んで

刺激ってバカバカしい

手を伸ばして

一個手に取ってみた

これがビタミン剤か睡眠薬ならセーフ

青酸カリなら一発アウト


パクっ

そういう効果音がつくぐらい勢いよく飲んでみた

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