★とんだ夏の思い出 3

 メエメエさんの用意したグローブの効果が絶大すぎて、僕が地面を叩いた瞬間に周囲の土が大きく抉れて、爆発するように吹き飛んだのだそうだ。

 その衝撃をまともに食らった僕は、土もろとも飛ばされて湖に落下し、ナガレさんとカワウソさんが慌てて救出してくれたんだって。

「おお、泳げないハク坊やが溺死しては大変だと思い、我は必死に走ったぞう! しかしこの身体では速度が上がらず、カワウソに追い越されたのう。ほっほっほ~」

 でしょうね。

「僕も頑張って走ったよ! だけど水に入ってからは、水龍のおじちゃんに敵わなかったの!」

 カッパさんのほうが泳ぐのに適していると思うよ。

「おう! ワシはここで、ナガレとカワウソを信じて待っていたぞ!」

 オコジョさんに多くは期待していない。


「ぼくも、とんで、いったの!」

「ぼくも!!」

「わたしは、みずを、ドバーってやったよ!」

「ぼくは、ハク、かわかした!」

「わたしもー!」

「ボクはとりあえず、みんなの応援をしたよ!」

「あいあい!」

 精霊さんたちは小さな拳を握りしめて、それぞれが必死に主張していた。

「うん、みんなありがとうね。いつも心配かけてごめんね?」

 なんとか笑顔を作って声をかければ、全員が頭をブンブンと振っていた。

「いいの!」

「ハク、まもるの!」

「わたし、たちの!」

「ぼくらの!」

「やくめ、だもん!」

「ボクもあんまり役に立たないけど、がんばるから!」

「あいあい!」

 みんなの必死な声に、バートンは目頭を押さえていた。

 うんうん、いい子たちだねぇ。

 僕もホロリと来ちゃったよ。

 

 ところで諸悪の根源はどこへいったの?

「あっち」

 グリちゃんが指さす先を見れば、木の枝に宙吊りにされたメエメエさんが、ニャンコズに猫パンチをお見舞いされていた。

 メエメエさんはバンバン叩かれ、あちらこちらにブラブラと揺さぶられている。

 お仕置きで吊るされたのだろう。

 ニャンコズが楽しそうにしているね。

 当の本人は無の表情で打たれている。

「少しは反省しているようです」

 神妙な面持ちでバートンがつぶやくと、そっとスイカ割りの事件現場に視線を走らせた。

 僕も釣られるように見てみると、湖岸が大きく抉れてクレーターになっているんだよ!?

 そこに湖の水が流れ込んで、小さな池が出来上がっていた。

 離れた場所に巨大スイカとシートがポツンと残されている……。

 いろいろツッコミどころが盛りだくさんだね!?


「坊ちゃまが地面を叩いた瞬間に、地面が粉々に砕けたのです。坊ちゃまのお力であれほどの衝撃を生み出すとは、なんと強力なグローブと棒でしょう! 湖まで吹き飛ばされたときは心臓が止まるかと思いましたが、幸い擦り傷程度の怪我で済みましたので、ポーションで治療いたしました」

 はたから見ているとコントみたいに見えたんだね……。

 ちょっとどころか、かなり恥ずかしい。

「メエメエさんは三日くらい吊るしておいて!」

「かしこまりました」

 当然といったふうにバートンはうなずいた。


「監視は我がしておくのう。メエメエさんはちとやり過ぎたのう」

 ナガレさんも目を細めてメエメエさんを見つめている。

「使い手に合った道具を用意せねば、このような事故につながるのだ。ここが植物園であったからいいようなものの、外でほかの者を巻き込むようなことがあっては大変だぞう」

「まったくでございます。村人が腰を抜かしてしまいます!」

 バートンが難しい顔をしながら相槌を打っていた。

 その横で緊張感のないオコジョさんが、残ったお菓子をバクバクと平らげていたよ。



 それから少し休んで、そろそろ屋敷に戻ろうと立ち上がった。

 帰りがけにポコちゃんがチラチラと例のグローブを見ていることに気づいた。

「もしかして、あのグローブが欲しいの?」

 声をかければウルウルお目目で見上げてくるんだ。

「うん!」

 コクンと大きくうなずいて、ソワソワしているね。

「あのグローブ、いっぱい、ちから、だせる!」

 ポコちゃんのトレードマークは茶色のグロームだもんね。

「あのグローブは思った以上に力が出ちゃうから、使い方に気をつけなくちゃいけないよ? 普段はいつものグローブで、いざというときだけ使うって約束できるなら、ポコちゃんにあげてもいいけど?」

 メエメエさんが持ってきた物は、僕の物といっても間違いないからね。

 むしろメエメエさんに持たせておくよりも、うんと安全な気がする。


 ポコちゃんはパッと顔を輝かせて、コクコクと何度もうなずいた。

「ここ、いちばん、ってときに、つかう! やくそく、するー!」

 キュッとグローブを握りしめておねだりされたら断れない。

「ポコちゃんにあげるよ。大事にしてね?」

「うん!」

 顔をクシャッとさせて凄く喜んでいた。

 ほかの子たちが「よかったね~」「かっこいいよ~」と、声をかけて笑っている。

 いやいや、僕の精霊さんたちは本当にかわいいわ~。

 マジ天使みたい!

 ほら、バートンとナガレさんも目尻を下げてほほ笑んでいるよ。


 そのあと、グリちゃんがフヨフヨと飛んでいって例の棒を吟味していた。

 もしかして気になるのかな?

 だけどそれは危険だよ。

「グリちゃん、その棒はやめたほうがいいよ! 欲しいならラビラビさんにかわいい杖を作ってもらうといいよ」

 そんな危険な棒は植物精霊のグリちゃんには似合いません!

 僕が「めっ!」すると、グリちゃんは素直にうなずいた。

「は~い! ぼく、ぼう、いらな~い!」

 そう言って笑顔で僕に抱きついてきた。

 よしよし、素直ないい子だね。

 頭をなでてあげれば、ほかの子たちもくっついてくる。

 こうして精霊さんたちを身体にくっつけたまま、僕とバートンは屋敷に戻ったのである。


 ◆◇◆◇◆


 その後、メエメエさんとはしばらく顔を合わせることがなかった。

 約束どおり三日間吊るされて、訪れるジジ様やアル様に笑われたみたい。

 解放されたあとも、ラビラビさんによって座敷牢に放り込まれたんだって。

「ちょっと待って? 植物園に座敷牢なんてあったの? えぇ?」

 衝撃のワードに驚いた!

 するとラビラビさんは力強くうなずく。

「ええ! こんな日も来ようかと、前々から作っていたんです! 鳥かご、猛獣舎、監獄、針のムシロ! 選り取り見取りそろえておりますが、メエメエさんには魔法封じの座敷牢だと思ったんです!」

 針のムシロは違うと思う。

 文字どおり、ガチで作っていたら怖いよ!!


 ラビラビさんは自信満々でグッと兎手を握って力説しているけど、それってメエメエさんにとってはご褒美じゃないの?

 座敷に横になってグータラ三昧しそう。

 それってお仕置きにならない気がする……。

「おやつの持ち込みは一切できません! 与える食事は三食牧草にしました!」

 草をモシャモシャ食べるメエメエさんを想像してしまった。


「羊なんだから、それって普通な気がする……」

「えぇッ!?」

 ラビラビさんは罰の執行が終わったあとで、ようやくその事実に気づいたみたい。

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