★とんだ夏の思い出 2

「おう! ハク坊、今日も見学か?」

 夏毛のオコジョさんが元気に声をかけてくる。

「ここに座っているだけでも涼しいよ。湖の水は冷たいから、無理に泳がなくてもいいかも」

 なんやかんやと、自分に言い訳をしている僕。

 いまだに浮き輪がないと泳げないのだ!

「無理することもなかろう。ハク坊やの運動音痴は筋金入りだからのう」

 ニコニコ笑顔のナガレさんは、無自覚に僕をディスってくる。

 運動音痴は死んでも治らないと言われた言葉を、僕は忘れない!

 ううう……。

 あとで足だけ水に浸けに行こうかな……。

 僕はそれで十分だもん!


 僕が泳がないと判断したのか、バートンがお菓子や軽食を並べていく。

「どうぞ、ナガレさんとオコジョさんも召し上がりください。グリちゃんたちの分は、戻ってきたらご用意いたしますので、遠慮なさらずに……」

「おお! うまそうだな!」

「いただくのう」

 この二匹が遠慮なんて言葉を知っていると思う?

 オコジョさんは両手にサンドイッチを摑むと、交互にガツガツと食べ始めた。

 ナガレさんの前には、山盛りてんこ盛りのキュウリが置かれている。

 準備がいいとは思うけど、サンドイッチやお菓子の横にキュウリはおかしいと思う。

「新鮮なトマトもございます。スイカもいかがですか?」

「これはうまそうだのう。……ガリボリ、シャクシャク」

 ナガレさんも忙しそうに、キュウリとスイカを二刀流で食べていた。


 しばらくすると精霊さんたちとカワウソさんがやってきた。

 全員で車座になってワイワイやっていると、木の上からニャンコズも下りてきて、ちゃっかりお菓子を食べている。

 グリちゃんたちとカワウソさんは食欲旺盛で、用意した軽食やお菓子が見る見る消えていくんだ。

 さすがのバートンも給仕が追いつかない感じ。

 すると精霊さんたちは、自分のマジックポシェットから料理を取り出して食べ始めた。

 ちゃんとカワウソさんたちにもお裾分けしているよ。

 みんなの食べっぷりを見ているだけで、僕は胸焼けしそうだ!


 そっと視線を逸らすと、転移門のほうからメエメエさんがやってくるのが見えた。

 温泉で一汗流してスッキリしたのかな?

 白地にハイビスカス模様のアロハシャツを着て、ハーフパンツを穿いているよ。

 まぁ足が短いから、あれがハーフパンツとは断定できないけどさ。

「皆さ~ん! 食べ終わりましたら、スイカ割りをしましょう!」

 到着するや否や、メエメエさんはシートを広げて、そこにドデカいスイカをポンと置いた。

「畑で巨大化したスイカがありました! 見てください、二倍どころか三倍はありそうでッス!」

 まん丸の巨大スイカにあ然としたよ!

「ちょっとメエメエさん! ここにいるメンツだと、スイカ割りじゃなくて粉砕になるんじゃないの?」

 力をセーブできなくて、周囲に飛び散っちゃうと思う!

 何しろここにいいるのはゆる~い姿をしているけど、立派な精霊王たちなんだよ!


「そこはご安心ください! スイカ割り専用グローブを着用のうえ、この専用棒で叩くと力がセーブされます! 逆に貧弱小僧のハク様には、威力マシマシアイテムをご用意いたしました!」

 どんなときも僕へのディスりを忘れずに、メエメエさんは茶色いミトン型グローブを差し出してくる。

 なんか怪しさ満点だね。

 バートンもしげしげと興味深げに眺めている。

「ものは試しです! 早速ハク様からやってみましょう!」


 有無を言わせない勢いで、メエメエさんに手を引っ張られ、スイカの前まで連れていかれる。

「はい、はめてください!」

 グローブを押しつけられたので渋々装着すると、すぐに目隠しをされた!

 手には長めの棒を握らされる。

 普段の僕なら振りかぶるのは無理そうな棒も、このグローブをはめると軽々と素振りすることができた!

「わわ! 凄く軽いね!」

「だから特別なグローブだと言ったでしょう!」

 呆れたようにチクリと言われちゃった!


「目隠しをしたハク様に、皆さんはスイカのある場所を教えてあげてください! さぁ、行きますよ、ハク様!!!」

 メエメエさんは言い終わると同時に、僕をその場でグルグルと超回転させたんだ!?

 ちょっと!

 人間に出せる速度を超えているんじゃないのッ!?

「ぎゃあぁぁぁ~~ッ!」

 思わず悲鳴が漏れた!

 回転が止まるとすぐに、「今です、皆さん!」とメエメエさんが声を上げる。

 するとみんなも一斉に声を発した。

「右だ、右!」

「いやいや、左だのう!」

「ハクちゃん! 後ろ、後ろ!」

「ちょっと! なんでフラフラしているのよ!? もっとちゃんとやって!」

 言葉が達者なユエちゃんから、手厳しいツッコミが入ったものの、三半規管がおかしくなった僕はそれどころではない。

 とりあえず、スイカを叩かなければ終わらないと思い、方向がわからないながらも頑張って棒を振り下ろした!

 次の瞬間。


 ドーンッ! と大地が揺れて砂や小石が舞い上がり、僕に向かって襲いかかってくる!

「ギャッ!?」

 棒が地面を打った衝撃が腕に伝わったと思ったら、僕は吹き飛ばされていたッ!

 ぎゃあぁぁぁーーッ!!!


「坊ちゃま!」

「ハクーーッ!」

「ハクちゃ~ん!」

 そんな絶叫が聞こえていたけれど、目隠しされたままの僕には何が何やらわからないまま、次の瞬間には湖の中へドボンと落下していたッ!?


 ◆◇◆◇◆


 どうやら僕は気を失っていたようで、目を覚ますと木陰のシートの上で寝かされていた。

 目を開けるとすぐに、七人の精霊さんの顔が飛び込んでくる。

 眉を下げて心配顔のグリちゃんたちのほかに、カワウソさんとオコジョさんとナガレさんの姿も見えた。

 僕が寝込んだときの、毎度お馴染みの光景だね。

 また心配させちゃったみたい。

 そんな彼らの外側から、バートンが僕の顔をのぞき込んでくる。

「目を覚まされましたか、坊ちゃま。どこか痛いところや、気分が優れないなどございませんか?」

「……うん、どこも痛くないよ。僕、あれからどうしたの?」

 飛ばされて水に落ちたところまでは覚えているんだけど……。

 横たわったまま聞いてみれば、バートンはホッと安堵の息をついていた。

 最前列に陣取っている精霊さんたちをササッと横に寄せて、僕の枕元に膝をつくと、おでこや首筋に手を当てて熱を測っている。

「お熱はなさそうですね。しばらくそのまま横になってお休みください」

 それからバートンは事の顛末を話してくれた。

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