『精霊の森商会』一周年記念セール 4終
そんなわけで、九月一日から三日間に渡って、『精霊の森商会』開店一周年記念セールを開催したよ!
朝から冒険者さんが大勢並んでいたのは、セール期間中のみ、味変ポーションをひとり五本まで購入可能としたからだ。
僕が作った味変ポーションは飛ぶように売れていった。
たとえ大銅貨一枚の普通品でも、味は保証つきだからね!
ちょっとした栄養剤感覚で飲んでいるみたいだよ。
冒険者さんの行列があまりに長かったので、店の外に特設販売ブースを作ったそうだ。
そこで水筒の実演販売がおこなわれ、瞬く間に完売したとか。
冒険者ギルド長が何名かの警備員を派遣してくれたんだよ。
おかげでトラブルも起きなかった。
ありがたいよね~。
冒険者さんのブースを作ったことで、店内ではご婦人方が安心してお買い物をすることができたんだ。
数量限定・大銅貨三枚のストールとカーディガンはやはりお高いので、遠巻きに眺めているだけだったみたい。
ところが商業ギルドの女性職員さんたちが、お昼休みにやってきて、数名で全部買っていってくれたんだよ。
「彼女たちは常に品質の良い品物を見ているからね。あの手触りを確認しただけで、価格以上の品物であると見抜いたのさ。大銅貨三枚なんて破格もいいところだよ」
もっと高値でも売れたのにと、リオル兄が肩をすくめてボヤいていたよ。
僕が大銅貨三枚なんて言ったからかな?
リオル兄の見立てでは、銀貨一枚でもよいくらいの品質だったみたい。
「それであのとき、バートンと揉めていたんだね?」
「さようでございます」
バートンがにっこりほほ笑んでいた。
僕の意見を尊重して、リオル兄には負けずに、価格を押さえてくれたんだ。
「ありがとう、バートン!」
「いいえ。今回は特別な売り出しでしたので、目玉商品は必要でございましょう?」
バートンが軽くウィンクをするので、僕は笑ってしまったよ。
リオル兄もバートンには、まだまだ敵わないね!
ラビラビさんの新作化粧品も飛ぶように売れた。
事前にセールの告知と、新発売の宣伝をしていたので、皆さんお金を貯めてセール当日に備えていたらしい。
四品全部買っていったお嬢さんもいたそうだよ。
四品セットには、おまけでローズマリーのフローラルウォーター(小ビン)がついたんだってさ。
それを見た別のお嬢さんが、お菓子を諦めてでもセット購入したらしい。
美容にかける熱量がすごいね!
干しブドウのパウンドケーキは、ご試食パワーのおかげで午前中に完売した。
スコーンも夕方までには用意した分がすべてなくなった。
それ以外の定番品も棚が空になってしまったそうだよ。
閉店時間には売り子さんたちもヘトヘトになっていたみたい。
こうして三日間に渡って開催された、怒涛の一周年記念セールは無事に終了した。
売り子さんと護衛の元冒険者さんには、朝から晩までがんばってもらったからと、リオル兄が閉店後に特別ボーナスを支給したそうだ。
翌日は定休日なので、みんなはいい笑顔で帰路についたとか。
ちなみにセール期間中は孤児院三人組を応援に駆り出して、在庫の補充をしてもらったんだよ。
マジックバッグに品物をたんまり詰めて持たせたから、限定品以外は無限ループで荷出ししていたんだって。
閉店後に定番在庫を補充してきてくれたんだよね。
三人もヘトヘトで帰ってきていた。
お疲れさまね。
そんな三人にも特別手当が支給され、ニコニコと喜んでいたんだよ。
「孤児院出身の奴らに奢ってやるか!」
三人はそんな相談をしていたみたい。
ミリーもその話を聞きつけて、旦那さんと赤ちゃんを連れて参加し、ちゃっかりゴチになったんだってさ。
抜け目がないね。
怒涛の一周年記念セール後に、商業ギルドのギルマスさんが、わざわざルーク村のお屋敷に乗り込んできたんだ。
「フローラルウォーターをぜひ販売させてほしい!」
鼻息も荒くリオル兄に迫ったんだってさ。
さすがのリオル兄も、海千山千の商業ギルド長には勝てなかったみたい。
「何か出せるものはない?」
渋々といったようすで相談に来たので、ラベンダーとカモミールの二品を数量限定で卸すことにしたんだよ。
商業ギルドで現在販売している、ハンドクリームの香りつけにはエッセンシャルオイルが使われているから、その製造段階でフローラルウォーターが生産され、それ自体はエッセンシャルオイルよりは安価で出せるんだよね。
小ビンを各五十本ずつで手を打ってもらったよ。
ギルド長はホクホク笑顔で帰っていったとか。
ついでに村の無人販売所の品をたくさん買っていったみたいだよ。
商品補充の黒子ちゃんたちがアワアワしていたもん。
当然のように、話を聞きつけたベンジャミンさんが乗り込んできて、地団駄を踏んでいたけど……。
なかなか帰ってくれないので、ドライフルーツの販売をお任せすることにした。
ドライフルーツは単価の高い商品になるから、さっきとは一転して、ベンジャミンさんはニコニコ笑顔で帰っていった。
リオル兄はグッタリしていたよ。
「まだまだでございますね」と、バートンが涼しい顔でつぶやいていた。
リオル兄、ガンバ!
僕はといえば、そんな慌ただしさとは無縁なので、いつでもまったりしているのさ。
のほほ~んと精霊さんたちとジュースを飲んでいたら、ラビラビさんが飛んできて叫んだ。
「味変ポーションの在庫が切れましたよ! 普通ポーションはハク様にしか作れないのですから、遊んでいないでとっとと増産してくださぁーいッ!!!」
えぇぇ?
その後、朝から晩までポーション作りをさせられた。
うっかり五本販売なんてしなければよかったよ!
来年はこの企画を外そうと、僕は心の中で硬く誓った!!
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