妖精界に帰ったドリーさん
なんとか無事に、妖精界のドリアードの森に辿り着いたドリーさんとダルタちゃん。
「これ、ダルタ! 痛いところや変わったところはないかい?」
ドリーさんが確認のために声をかければ、ダルタちゃんは元気に返事をした。
「平気ニャ! ピンピンしているニャよ!」
身体を結んでいた紐をほどけば、ダルタちゃんはピョンピョコ飛び跳ねていた。
そのようすを見てホッと一安心したドリーさんは、周辺の森を見回す。
そこは丁度自分の本体の、大木の根元だった。
天高く伸びる梢を見上げ、自身もようやく一息つくことができた。
「ちょいと! だれかいないかね! 妖精王に連絡を取ってほしいんだけど!」
ドリーさんが声をかけると、近くでようすを伺っていたドリアードの妖精が、おずおずと顔をのぞかせた。
けれどだれもドリーさんに近づこうとしない。
「? どうした! 近くへおいで!!」
怪訝に思ったドリーさんが声をかけても、ドリアードの妖精たちは困ったような顔をしているだけで動かない。
そのようすを見てダルタちゃんが気づいた。
「ドリーちゃんの姿が変わってしまって、気づかないニャよ!」
ダルタちゃんがピョーンと飛び上がって大きな声で叫んだ!
「みんな~~! ドリーちゃんは人間界で若返ったんだニャ! ボクと同じで、お耳も生えちゃったニャ!」
そこでドリーさんはようやく自分の姿が変わってしまって、妖精たちが不審に思っていることに気がついた!
「おやまぁ! こんな弊害があるなんてね!!」
ドリーさんは慌てて自分の本体に手を当てて、妖精魔力を循環させると、本体のドリアードの大木が光輝き、みるみる生命力がみなぎってゆく。
老いて朽ち果てるだけだった大木の葉が、瞬きのあいだに生き生きと姿を変えた!
その強い力を感じて、ほかのドリアードたちはようやくドリーさんの存在に気づくことができた。
そしてやってきたのは、カンファオールに生まれた美形の少年妖精だった。
「女王様! 人間界からご無事でお戻りになられたのですね! しかもなんと、我が生みの親たる小さき精霊王様の御力をみなぎらせて! なんと喜ばしいことでしょう!!」
カンファオールの妖精美少年は、薄っすらと涙をたたえてドリーさんの手を取った。
「おや、お前さんにはわかるんだね? 向こうでハク坊やの魔力を分けてもらったのさ! そしたらご覧のとおり、美女に戻してくれればいいものの、へんてこな耳までついちまって、しかもこんな幼女の姿に成っちまったのさ!!」
ドリーさんはプンスコしだした。
「ドリーちゃん、お耳はかわいいニャ!」
ダルタちゃんが的外れなフォローをしていた。
「まぁね! お陰で耳が良く聞こえるようになったのさ! 変な尻尾はないから安心おし!」
ドリーさんは秒で機嫌がよくなった。
幼女になってしまったが、元気に駆けまわれるようになったのは確かだ。
今なら妖精王城までひとっ走りで駆け抜けられそうだと思った。
「そんなわけさ! だれか妖精王にダルタを迎えに来るように、使いを出しておくれ! ついでにケットシー国の親元にも連絡をしておあげ!」
その一声で遠くから眺めていたドリアードたちが動き出した。
それを見てからドリーさんはダルタちゃんに向き直る。
「ドリアードの道ですぐに連絡がつくからね! 迎えが来たらお前さんは妖精城に行って、向こうで買ってきた品物を高値で売りつけるんだよ!」
「わかったニャ! いっぱい買ってもらうニャよ!!」
ダルタちゃんはマジックバッグをしっかりと抱えて、大きくうなずいた。
そして妖精王城からお迎えが来るまで、ドリアードの木の上でお昼寝をすることにしたようだ。
ドリーさんはドリアードの妖精たちに、ハクからもらってきたバラの苗木をたくさん手渡した。
「これは人間界でもらってきた美しいバラの苗木なんだよ。日当たりの良い場所に植えとくれ! たくさんあるから森のあちこちに植えるんだよ! そりゃあ見事な花が咲くからね!!」
ドリーさんが輝く笑顔で叫ぶと、ドリアードたちがこぞって苗木を持っていった。
「私にも一株ください! 小さき精霊王のバラを側で大事に育てます!」
カンファオールの美少年妖精が満面の笑顔で手を差し出した。
「そうさね。お前さんとは特に相性が良さそうだね。大事に育てるんだよ!」
「はい!」
ドリーさんはカンファオールの妖精に数本の苗木を手渡した。
カンファオールの妖精が大喜びで飛んでいくと、木の影からドリアードの新女王が飛び出してきて、ドリーさんに抗議をした。
「もう! お婆様! バラの妖精が生まれたら、カンファオールが恋をしてしまうかもしれないわ!」
「そういえば、お前さんはあ奴といい感じだったねぇ……」
新女王の顔をマジマジと見たドリーさん。
だけどしばらくすると、ドリーさんは口の端をニヤリと上げて、それから新女王の背中をたたいた。
「きっとお前さんが懸念するようにはならないと思うよ! お前さんもバラの苗を持っていって近くに植えるといい! 特別に大輪のバラをあげようね!」
ドリーさんはバラ苗を手渡し、「すぐに植えな!」と新女王の背を押して追いやった。
新女王は不満そうにしていたけれど、特別なバラといわれると悪い気がしない。
しぶしぶ自分の本体の下へ戻っていった。
「やれやれだね! さてと、あたしも植えようかね!」
自分の本体の近くで、日当たりの良い場所を見つけると、穴を掘って若い苗木をそのまま埋めた。
近くの水場から水を運んで大地をたっぷりと湿らせる。
「これでよし! あとは立派に育つんだよ!」
ドリーさんはバラの苗木に自分の魔力をたっぷり注いだ。
しばらくすると妖精王城から使いの者がやってきて、ダルタちゃんを連れて戻っていった。
「お前さんの親父さんもすぐにそっちに向かうから、一足早く行って、妖精王にご馳走を食べさせてもらうんだよ!」
「わかったニャ! またね、ドリーちゃん!!」
ダルタちゃんはこうして妖精王城に旅立っていった。
ダルタちゃんとパパが妖精王の元から帰る途中、ドリアードの森を通りかかったとき、
森から飛んでくるものがあった。
「なんだニャ?」
ダルタちゃんが不思議に思って目をやると、それはバラのお花の色をした、きれいな小鳥の群れだった!
ダルタちゃんの頭の上に止まった小鳥からは、素晴らしい香りが漂っていて驚いた。
「なんと! これは素晴らしい羽根を持った小鳥かニャ!」
ダルタパパさんが感嘆の声を上げると、小鳥はビックリして飛び立った!
「パパ! 驚かせちゃだめニャ! あれはきっとハクちゃんのバラの妖精ニャよ! ハクちゃんのお庭にはきれいなバラがたくさん咲いていたのニャ!」
ダルタちゃんは街道の上空を優雅に飛び交う、美しいバラの妖精たちに手を振った。
ドリアードの森に新たな妖精が生まれたことは、瞬く間に噂となって広がってゆく。
それを目当てに観光客が訪れるようになるのは、もう少し先のお話。
かつては鬱蒼とした薄暗い森だったドリアードの森が、光と緑があふれる森に姿を変えていく。
その空を優雅に舞うバラの妖精鳥は、素晴らしい芳香を漂わせながら、今日も森の中を自由に飛び交っている。
その光景を見上げて、ドリーさんはひとりで笑った。
「ああ、良かったよ! ヘンテコネズミに化けたらどうしようかと思ったけどね!!」
「プイ! プイ!」
ドリーさんの下から抗議の泣き声が上がった。
見ればドリーさんは大きなモルモットさんに騎乗していた。
ハクの植物園にあったドリアードの苗木を持ち帰って植えてみたら、巨大モルモットの妖精が生まれたのだ。
それはドリーさんの、ほんの出来心だった。
「お前さんもドリアードの仲間に違いはない! 次にハク坊のところに行ったら、お前さんの仲間を増やそうじゃないか!」
ドリーさんはモルモットさんの頭をなでで、そして走るように促した。
「ダルタのところに赤ん坊が三匹生まれたっていうじゃないかい! さっそくお祝いに行くよ! 気合いを入れて走んな!!」
「プイ! プイ!」
モルモット使いが荒いと抗議しているようだ。
こうして、なぞの高速モルモットさんに乗ったネズミ耳の幼女が、妖精界でたびたび目撃されるようになったとか。
妖精界は今日も平和だね!
***
ハクの植物園のドリアードの苗木を持ち帰って植えたら、カヤちゃんを通り越してモルモットさんに進化してしまいました。
ビックリしたドリーさん。
けれどモルモットさんが自分の騎獣に丁度良いと気づいたようです。
ほかのドリアードの妖精たちが羨ましそうに見ているので、モルモットさんを増やす気になったみたい。
こうしてハクの精霊獣が、妖精界でも侵略を始めるようです(;´∀`)
ネズミ耳のドリーさんとモルモットさんが、ケットシーの国で無事でいられるのかは、作者にもわかりません……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます