向日葵とリセット 二話

 でもまだ中学生の私には、その時の姉にいったい何が起こっているかを理解するには幼すぎて。その事を、ただの物忘れ程度にしか思っていなかった。


 そしていつの間にか母の死から何度目かの夏が訪れて、気がつけば私は高校生になっていた。その頃の私は、女子高校生らしくクラブ活動に熱中し、学業はほどほどに、そして人並みに初恋みたいな物も経験して、次第に亡くなった母との思い出も引き出しの奥へと片付けられていった。


 それでも、毎日家に帰るとモニター越しに姉が優しく私の話しに耳を傾けてくれて。だからこそ私の姉に対する違和感は毎年の様に大きくなり続けて……。ある日とうとう私は耐えきれなくなってしまった。




 そして、その年の母の命日。私は姉が父の研究対象である高性能AIだという事を、ついに父から聞き出したのだった。



 特殊な病気で、物心ついた頃から姉とはモニター越しにしか合うことが出来ないと言われていた。

 それならばと、何度も姉のいる病院へ見舞いに行きたといっても、遠いからといつも断られていた。

 そんな状況を私はひとつも疑問に思わなかった。そんな事は無かったけれど……。


 まさかお姉ちゃんがAIだったなんて思ってもみなかったけど。でも、その時。私の心の中で積もりに積もっていた違和感がこの時ようやく消えたような気がした。


 だけども、それと同時に、私の心の中に突如として芽生えた小さな怒りの種。それがまたたく間にに私を包み込んで行くのが分かった。


 なぜ私はこんなにも腹を立てているのだろうか……。


 私は理由もわからないまま、心を支配していく怒りの感情に自問自答をくり返す。

 

 それは、家族全員が私の事を騙していたから?


 いや、そんな単純なことなんかじゃ無い。そりゃ事実を知らされた瞬間はショックだったけど。私にとって姉の正体がAIだったからって何が変わるわけでもないし、絶対に変えたく無い。


 じゃぁ、いったいこの怒りの源は………。


 それは多分。


 私がその時。父が毎年母の命日の日に姉の記憶をリセットしていたことに、気がついてしまったからなんだ。

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