ヒナがくれた首輪、私があげた証明

上埜さがり

第1話

 私が生涯守ろうと誓った幼馴染の『ヒナ』、こと、久世雛菊は今日も可愛い。


 『瀬奈にヒナちゃんの世話をみてもらおうと思うんだけど』と私の母親に頼まれた時は、なんで私が、むっつも年齢が離れてる女の子の世話をしなきゃいけないんだ、なんて思ったりもした。


けど、ひと目見た瞬間にそんな考えはどこかへ飛んでいってしまった。


 くりくりの目、透き通った肌、小さな小さな口。


髪色をベージュブラウンにした時は、その少女然とした顔つきや身体と似合いすぎる様に思えて、本当に童話のお姫様の様だと思った。


いつ顔を合わせても、少しだけ困った様に寄せる眉も、控えめで奥手な彼女の性格を表していてとっても愛らしい。


私が大学に入り、ヒナが高校に入学しても、背丈以外の彼女の容姿は殆ど変わりがないように思えた。神様はきっと、その時点がヒナの完成形であるとして、彼女を作ったに違いない。いつか神様とは酒を酌み交わしたいものだ。


 私はヒナとは、何もかもが違う。私の髪色は暗めのブラウンだし、目つきなんかも鋭い。背丈に至っては、一時期に髪をショートボブにしただけで、男と間違えられたくらい。それ以来髪はある程度伸ばす事にしている。


 私は幼馴染としてヒナのそばにいて、彼女を守ろうと、ひと目見た時に決心した。


 そんなヒナの事を、バイト終わりに夕日が差し込む帰宅路を歩きながら考えている。ポニーテールを纏めていた髪ゴムをきゅっと取り払って、そのままチラリと後ろへ視線を送ると、電柱のそばの人影と目があった。


 なんで私は、ヒナの事を考えているのか。


 それは彼女がそばにいるから。


 私の後方、7メートルの電柱の陰に。


 今日の可愛いヒナは、私をストーキングしていた。




「ヒナ、一緒に帰ろ」




 気づいたから、というよりも、最初っからわかっていた事だから、目があったタイミングで声をかけることにしている。


最初から隣に来てくれれば良いものを、ヒナはどうしてか私の背後を取るのが好きみたい。


だけどこうやって声をかけてしまえば、彼女は小動物じみた反応で身体を跳ねさせて、それから怯えた様に私の隣へ歩いてくる。私としても、後ろにいるよりよっぽど見守りやすいから、この方が嬉しく思う。


 今日も、いつも通り『ひぃっ』なんて可愛い鳴き声をあげた後、諦めたようにとぼとぼと私のそばに歩いてきた。




「こ、こんばんは、せなねぇ。えへへ、今日も綺麗だねっ」


「ヒナも可愛いよ。いつもどおり、ヒナの家に行こうと思うんだけど、大丈夫?」


「う、うんっ。今日はむしろ、来てくれた方が嬉しいかな、えへへへ」




 これがいつもの私たちのやりとり。


 ……なんだけど、今日は少し違和感を感じる。ヒナの困り眉の角度が5°くらいおとなしいし、『来てくれた方が』という言い回しは、ヒナが私のストーキングを始めてからの424日間の間にはたったの3度しかなかったはず。


 これは、何かあるな。

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