4話 星が見れるなら

ワタシは、ドリーム・ドール。

この名前の由来を誰も知らない。

「夢のある人形」じゃない。

「夢を見せる人形」だ。

それはどんな夢でもいい。

形を変えればどんな夢にもなる。

幸せな夢。

悪夢。

一方は─────

白昼夢、か。

ドリーム・ドールはご存知の通り、人に‪”‬近い‪”‬知能を持っている。

誰にでも言うこと。

本当に人にはなれない。

それでも、ワタシを人のように愛してくれた人間がいた。

あれは、確か─────


西暦2890年。

ドリーム・ドールが売り出され、流行っていなかった頃。

レビューも殆ど信用出来ないものばかり。

というか、少ない。

それでも、信じて買ってくれた少女がいた。

何歳だか、14歳くらいだったはず。

その子は、学校が原因で自殺してしまった。

ワタシを買うまでは、誰からもいじめなんてされていなかった。

ワタシを買って、学校に持っていった。

そこから、問題は始まった。

「なにそれー!かわいー!」

同じ言葉を重ねて言うクラスメイト。

少女は「いいでしょー!」と自慢げに話した。

そしてさらにこう言った。

「なんだか、特別にさせたみたい!」

と。

捉え方を変えれば、「私が人形を特別にさせた」のように聞こえるが、

更に捉え方を変えてしまうと「少女がクラスメイトに特別にされた」のように聞こえる。

クラスメイトは引きつった笑顔を見せ、そそくさと教室の外に出た。

少女は追う気はなかった。

丁度トイレに行こうと、教室を出ただけだ。

それが更に、誤解を産んだのだ。

「あいつ、調子乗ってるくね?」

手を洗い、 話す1人の女生徒。

「てか、あたし達があいつをわざと特別にさせたみたいじゃん。うざ。」

そしてそれに乗るかのように、メイクを治しているもう1人の女生徒。

少女がトイレに行くと、悪口の罵詈雑言が始まっていた。

「…………」

黙る少女。

少女は気のせいだと思わなかった。

他人のことだとも思わなかった。

諦めの早い性格だからかもしれない。

他人のことだと思っても、疑心暗鬼になるのは変わらないと思ったのかもしれない。

ただ、普通に条件が噛み合っているから分かったのかもしれない。

夢のお人形さんじゃ語りきれない謎の闇がそこには広がっていた。


少女はそれからひっきりなしにいじめられるようになった。

貶めようとする戯言が飛び交い、誰も庇いなどしなかった。

ワタシは最初の1日しか学校に連れて貰えなかったため、それを知る由はなかった。

様子がおかしいと察した時から、無理やりついて行けばよかったと誰もが

後悔していた。

そして少女は悲しきセオリー通りに自殺。

先生が「なぜいじめを止めなかった」と聞くと、教室は静まり返った。

すると、1人の女生徒が口を開けた。

主犯、とも言える。

「急にいじめが止まっても、コワくなっちゃうかもと思って。」

という、舐め腐った話をしたらしい。

すると回りの生徒たちが口を揃えて同意した。

それからワタシは、悲しいことなのか嬉しいことなのか、

色々な感情を覚えてしまった。

普通、人工知能が感情を覚えることは無い。

それでも、その壁を超えてしまったのかもしれない。

ワタシはドリーム・ドールが流行って以降、客が店に来るようになっても、

信じられなくて、人から離れ、死角に隠れたりと近づかないようにしてきた。

そして西暦2900年。

2人の男女が来客した。

恐らく、夫婦だろう。

そして、店長にこういった。

ちなみに店の店長はロボットだ。

店長はとても長く生きていて、漢字は使うことが出来る。

店長が「ナンデスカ」と問いかけると、その2人の男女はこう言った。

「1番大人しい子はいますか?」

そして店長は迷うことなく私を前に出し、紹介した。

紹介の後、頷く2人に店長はこう付け加えた。

「タダ、コノ子ハ中古品デ、元ノ飼イ主ガ死別シテシマイマシテ、ソレカラ人間不信ニナッテシマイマシテ、オ子様ト仲良クナレルカハワカリマセン。」

店長の話を聞けば買うのをやめるだろうと私は安心した。

ただ、2人はこう口を揃えて言った。

「その子で大丈夫です。なにか、会った時にビビッときた気がしたんです」

という子供のことを考えていないような発言。

そして、会ってからは驚きの連続だった。

髪を洗っていないとは思えないほど綺麗な銀色、毛先は紫色のストレートの髪の毛。

そして、それを更に主張させる透き通った水色の瞳。

それだけで見とれてしまう。

でも、1番驚いたのは。

彼女の寿命。

残り3年であり、それでも自らの死は望まない。

あの日の少女と似ているような、似ていないような。

それでも、少女と楽しみたいと思うのは間違いなかった。

ある日、同じ事を思っていたように少女は医者に問いかけ、

そして医者は言った。

『心臓の痛みを止める薬がある。ただ、テストプレイ中で寿命に弊害があるかも

しれない』

と言った。

正直正確にそう言っていたかは覚えていない。

まとめて言うとこうだった気がするくらいだ。

ワタシは思わず反応を取ってしまった。

今までこんなことは無いくらい、気が動転していた。

…まぁ、それはそうかもしれない。

だってワタシはAI。

…何回この言葉を言ったか。

そして医者の言葉に少女はこう言った。

「弊害があってもいい。あと残り少ない寿命だから、ヤトリと笑っていたい」

きっと、きっとこう言っていた。

…嘘じゃないと思う。

でも、いつもの少女の笑顔から、嘘じゃないと思う。

ワタシは、本当にいつか人になってしまうのか。

なってもいい。

いつか死ぬ体になってしまってもいい。

むしろ、いつかそれを望む時がくるかもしれない。

昔いた気がするお姉ちゃんも、今は死んでいる気がするから。

…………直感だらけだけど。

薬は「今日の夜に渡される」ということになり、一旦その時間まで寝ることになった。

少女は寝るまで「嬉しい!」とはしゃいでいた。

それから、ワタシを抱いて少女は──────────

いとあ は、すぐに寝てしまった。

ワタシは今まで言えなかった思いを口に出した。

「……馬鹿ね。」

こう1人の時でも言えるようになったら、あの日の少女も、

誰もが救われたのかもしれない。

そう思いながらも、眠るという形で、ワタシは電源を落とした──────────

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