私を好きなおキツネさま
三屋城衣智子
第1話 知らない男の人が部屋にいる!?
「おにぎり、テーブルに置いといたからちゃんと食べてね!」
「いつもごめんね。いってらっしゃい」
母親の、少しすまなさそうな声がこたえる。少女はどうせならありがとうがいい、と思いながらも気にした様子を出さないよう、さらに言葉を返した。
「いってきます!!」
青い空。気持ちのいい風を受けながら玄関のドアを閉めると、少女は紐のついた鍵を首にかけ服の下に入れる。
背中には五年ほど相棒をしている水色に薄ピンクの縁取りのついたランドセル。今日はお道具箱を持って行く日だから、左手には水色で薄ピンクのリボンがあしらわれた手さげ袋を持っている。
沿道の木々はまだ青々した葉の出始めで、どこか頼りないけれど、春の予感でいっぱいだ。たんぽぽが、黄色く可愛い花を咲かせて揺れている。
少女は、ショートボブのちょっと寝癖がついたところを直しながら、その道をてくてくと学校へと歩いていた。
「あ、おはようハルカ!」
「おはよー、ヒナタ」
彼女は
「ウェーイ!」
「ウヒョー!」
「きゃっ!!」
「あっ、コラー!!」
今「ウェーイ」とか情けない声を出しながら、日向のスカートをめくって逃げていったのは、彼女たちのクラスの
(腹立つ!)
遥が自身の吊りがちな目をさらに上にして追いかけようとしたら、日向に止められてしまった。
「遥ちゃん、いいよぅ」
「いいの?」
「うん、黒パンはいてたし」
「もうっ、高元ったらちょーしのりやがるんだから。シネ」
「ハルカったら」
死ねは言っちゃダメだよ、と遥は日向になだめられながら歩き、学校へとついた。
これが彼女の日常だ。
※
放課後。
遥は近所の男の子数人と、山の沢を登って秘密基地を見つける遊びをすることになった。
そこは彼女たちが住む団地の裏の山すそで、たまに石積みの古墳の朽ちたような穴などがあり、みんなのお気に入りの場所。
勝手知ったるなので友達は結構なハイペースで進んでいくのに対し、遥は沢のそばでぬかるんだ足元に気を取られすぎて、少し遅れてしまっていた。
「おーい、早くしねーと置いてくぞ!」
「ちょ、待ちなさいよ!」
前まで簡単に追いついていたのが、最近男子の速さに少し追いつけないことが増えた。遥はぎゅっと唇をかむ。
(なんで女の子は男の子みたいに体力底なしじゃないんだろう)
小学校低学年までなら、遥の足は誰よりも早かった。力だってそんじょそこらの子より強くて、いじめっ子にだっていつも勝っては捨て台詞を吐かれる側だった。
(なのになんで――)
そんなことを考えながら進んでいると、友達の気配が消えた。慌てて周りを注意深く見る。どうやら、一人遅れすぎてはぐれてしまったらしい。沢も、遠くの方にあり、ルートを遥が外れてしまったようだ。
流石に山の中で道がわからなくなったら
(今誰か、呼んだ……?)
誰かに呼ばれたような気がして。振り返ると、そこに、古ぼけた小さな
その祠は、遥の百五十センチある身長くらいしかなかった。七十センチくらいの四本足で支えられたその祠は、格子などではなく一枚板の木戸がついており中は見えない。素材は木で、その木材も苔むしたり虫食いがあったりとボロボロになっていて、お世辞でも綺麗とは言えなかった。
(忘れられた神様かな?)
祠には、神様がいるとお母さんから教えられていた遥は、なんの気負いもなくポケットをガサゴソ手であさると、おやつにと入れていたチョコレートの包みを五つその祠の前に置いた。ついで、手を合わせて目をつぶり、頭を下げる。
(神様、どうかこの町と、ついでができれば私たち家族を見守ってください。お願いします)
そうして願いを済ませ頭を上げると満足して、沢の方へと足を向けるのだった。
沢に戻って登っていき、友達と遊んでくたくたになって団地へと戻ってきた遥は、お腹をグゥと鳴らせながら玄関のドアを開けた。
「ただいまー!」
「……お帰りなさい、今日はご飯できてるから手を洗って……ってあらあら、泥だらけじゃないの。着替えてらっしゃいね」
「はーい」
元気のいい返事をしながら、遥は言われたとおり脱衣所で汚れた衣服を脱ぐと、そのまま二階の自室へとあがっていく。
そうしてついた部屋のドアを開けると、
「やぁ」
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