😈【完結】あまあま吸血鬼とおうちごはん🍴✨〜吸血を回避するために手料理を振る舞っていたら、いつの間にか吸血鬼たちに溺愛されていました!?〜

みやこ。@コンテスト3作通過🙇‍♀️

本編

瀕死の吸血鬼、拾いました。


 聖園みその紅音あかねは14歳の中学二年生。帰宅部で趣味は料理。カフェを経営する両親のようなシェフやパティシエになることを夢みているどこにでもいる普通の女の子。

 しかしある日突然、紅音の平穏な日常は呆気なくももろく崩れ去った。

 ただ、ほんの少しの正義感と親切心を見せただけだというのに——。



✳︎



「やばいやばいっ⋯⋯委員会で遅くなっちゃった! 早く帰らないとっ」


 夕日が沈み所々に配置された街灯にぼんやりとオレンジ色の灯りがともる頃、紅音は自宅に向かって通学路を猛ダッシュしていた。


(⋯⋯まあ、どうせ急いで帰っても誰も居ないんだけどね)


 息を切らしながらそんな事を考える。

 紅音の両親はちまたで人気のカフェを経営しており、多忙を極めている。その為に彼らは主に事務所で寝泊まりし殆ど自宅に帰る暇も無いほどである。なので帰宅が遅くなったとしても紅音をとがめる者は居ない。

 しかし、この道は最近不審者が出たとかで担任の狼谷かみや先生が夜遅くには出歩かないようにと帰りの会で厳重注意をうながしていたのだ。

 そのことを意識すればするほどムクムクと恐怖心は膨れ上がり、それに比例するように足を動かすスピードも速くなる。早歩きが小走りに、そして駆け足になったところで視界の隅に黒いものが飛び込んできた。


「っ! 今何か見えたような⋯⋯気のせい?」


 紅音は思わず立ち止まった。

 自宅に程近いゴミ捨て場、チカチカと不規則に点滅する電灯。目を凝らしライトで照らされたコンクリートの一画を見下ろすと、そこには小さく黒い塊がうずくまっていた。


「モ、モモンガ? ううん、これはコウモリ⋯⋯?」


 恐る恐る手を差し伸べるとコウモリはキュウキュウとか細い声で鳴き、甘えるように紅音の手に擦り寄ってくる。

 それに、見たところ薄汚れたコウモリは羽から血を流しており、自力では飛べないみたいだ。


「怪我してるみたい。でも、どうしよう⋯⋯」


 紅音はコウモリを見たのはこれが初めてだった。動物病院で治療してもらえるのだろうか。

 否しかし、相談しようにもこの時間では病院も閉まっているだろう。などぐるぐると頭の中で自問自答を繰り返す。


「でもこんなに酷い怪我してるし、放って置けないよ⋯⋯」


 恐らく、紅音がここで見て見ぬふりをすれば、このコウモリの命の灯火はいとも簡単消えてしまうことだろう。

 しかし、目の前で苦しそうに羽を震わせ血を流す小動物を前にしてそんなことは出来なかった。


「家に連れて帰ろう」


 決断するや否や紅音はプリーツスカートのポケットからハンカチを取り出し、優しくコウモリの身体を包み込むと自宅に向かって駆け出した。



✳︎



 紅音は帰宅するなり傷付き汚れたコウモリの身体を清潔にし、簡単な治療を施した。



「う~ん⋯⋯コウモリって何食べるんだろ? 取り敢えず、温めたミルクで大丈夫かな?」


 自室に戻り、ティースプーンで人肌に温めたミルクをすくって小さな口元に運ぶ。


「ふあぁあ⋯⋯」


 ひと段落したところで紅音はひとつ大きな欠伸あくびをする。まだ寝るには早い時間だというのに何故だか強烈な眠気が襲って来た。

 着替えさえもひどく億劫おっくうに感じて、制服のままよろよろと引き寄せられるようにベッドへと足を向ける。


「ちょっとだけ⋯⋯」


 誰に言うともなく、言い訳するようにそう呟くと仮眠を取ろうとベッドに潜り込んだ。



✳︎



 チュンチュンと可愛らしい小鳥のさえずりでフッと意識が浮上する。

 いつも通りの朝。しかし、おかしな事にベッドには自分(とコウモリ)しか眠っていない筈なのに、すぐ近くに人の気配を感じる。

 紅音は恐る恐る重いまぶたを持ち上げた。


「っ!?」


 すぐにハッと息を呑む。

 何故なら、コウモリが居た筈の場所に見知らぬ男が横たわっていたからだ。

 しかし夢かうつつか、まだ僅かにぼんやりとする頭で、紅音の隣ですやすやと安らかな寝息を立てる男にほうっと目を奪われる。


(⋯⋯まるで造り物みたい)


 男は夜の闇を吸い込んだような濡羽ぬれば色の髪に、それとは対照的なまでに生まれてから一度も太陽の光を浴びた事がないと言われても納得の白磁はくじの如く白く滑らかな肌、思わず目を奪われるぷっくりとした赤い唇。芸能人も顔負けの整った顔立ちをしていた。

 そして、顔から首に、更にはその下へと視線を動かすにつれてとある事に気付く。


「⋯⋯⋯⋯」


 ——余りにも白い。かろうじてシーツが引っかかっているものの、恐らくその下は一糸まとわぬ姿である。


 頭がえるにつれて、自分の置かれている状況を理解する。


「きっ、きゃあアアアア!?」


 紅音は悲鳴を上げるなり、思わずその男をベッドから突き落とした。

 男の姿が見えなくなった後、直ぐにゴチンと大きな音がする。どうやら床に強く頭を打ちつけたようだ。


「ッん~? なんなの⋯⋯」


 ベッドから突き落とされた男は、長い睫毛まつげをふるりと震わせるとようやく固く閉じたまぶたを開いた。

 真っ白な瞼が持ち上がり、まるで紅玉ルビーのように輝きを放つ瞳と目が合う。



「ありゃりゃ⋯⋯戻っちゃったのか」


 男は焦る様子も無く、打ちつけた頭をさすると茹で上がったタコのように真っ赤になった紅音を見上げる。

 そして、さらりと頬にかかる髪を細長い指ではらうときゅっと赤い唇を上げ笑みを見せた。


「おはよ」


 男は旧知の友に語りかけるようにそう言うと、狼狽うろたえる紅音の身体をふわりと優しく包み込む。


「昨日は助けてくれてありがとう。これからお世話になります」

「は、はだっ⋯⋯裸!!」


 ヒヤリと冷たい肌の感触が伝わって来て、紅音はますます頬を赤く染める。


「こういうのはイヤなの? う~ん⋯⋯」


 妙にれ馴れしい態度の男はすぐに腕を解くと「日本式の挨拶はこうかな?」などとぶつぶつと呟きながら三つ指をついて深々と頭を下げる。


「ってか誰なのよ、アンタ!?」


 ベッドの上の紅音は声を荒げながら後退あとずさる。

 その言葉を聴いた男は顔を上げるとわざとらしく眉を下げて言った。


「誰って酷いなあ⋯⋯昨日は優しくしてくれたじゃない」

「しっ、知らない⋯⋯!」


 そうは言いつつも、余りにも気安い態度の男に、もしかすると自分の記憶の方がおかしいのかもしれないと思い始める。

 黙り込んだ紅音にしびれを切らしたのか、男は頬をふくらませながらも口を開いた。


「おれの名前はルカだよ。ル・カ! 昨日コウモリ姿のおれを助けてくれたでしょ?」

「⋯⋯!!」


(コウモリが男の子に!? ありえない、意味がわからない!)


 紅音は到底理解の及ばないルカの言葉に戸惑いを隠せなかった。しかし、真剣な表情からは冗談を言っているようにも見えない。



「それで、あんたの名前は?」

「あ、紅音⋯⋯だけど⋯⋯」

「アカネちゃんね。じゃ、お互いに自己紹介も済んだところで⋯⋯そろそろいいよね?」

「!? やっ、近付かないで!!」


 ルカは紅音の静止を聴くこと無く、ベッドに足を掛け距離を詰めると首筋に鼻を寄せ、スンと鳴らす。途端に恍惚こうこつとした表情を浮かべたルカは、はあと熱い吐息をらした。


「う~ん⋯⋯昨日から思ってたけどいい香りだよね。はぁ⋯⋯もう限界だよ⋯⋯我慢出来ない。それじゃあ、いただきま~す♡」


 ルカはとろんと熱に浮かされた顔でちろりと真っ赤な舌を見せめずりする。


「!」


 本能が逃げろと警告する。しかし、後ろは壁だ。紅音に逃げ場は無い。どうする事も出来ないまま、紅音を抱く腕に力が込められた。

 首筋をくすぐる熱い吐息にぬるりと舌がう感触、それに柔らかい髪がくすぐったくて身をよじる。


 それでもルカはおびえる紅音に構うことなく、まるで何かを探すように唇を首筋に這わせ続けた。


「っひ⋯⋯!」


 膨れ上がった恐怖心に引きった声が喉を駆け上がる。


 ピタリとルカの動きが止まった。


(終わった、の?)


 束の間の安堵あんどの後、間髪入れずにひたりと鋭いものが押し付けられる感覚がした。








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