IF 2-6 投身
「……」
電車に揺られていた。
二人、ガラガラの郊外行きの電車に。
どちらも何も言わなかったから、その時間は静かなまま過ぎていった。
でも、確かな事は……このまま二人の向かう先は逃避で、行き着く所は息の無くなった二の元命という事。
それだけは、どうやったって変える事の出来ない未来だった。
「……れいちゃんは、最後何か言わなくて良かったの?」
今更だけど僕がそんな風に聞くと、れいちゃんは答えた。
「良いよ。そんなにだし」
「……そっか」
れいちゃんの言葉を聞いて、ふと思う。
……れいちゃんと僕とでは、似ている様で全くちがったんだ。
僕らは満足に愛情を貰えなかったけど、僕はそんな無い愛に依存していたし、でもれいちゃんの方はそこまで関心が無いみたいだし。
親の態度も僕の方は無視なのに、れいちゃんの方は自分本意って感じだったし……でもやっぱり、どっちも花火にもどこにも連れてって貰えなかったのには変わりないんだ。
「ふぁ……」
「……眠いの?」
……そんな事を考えていたのも、隣で小さくあくびするれいちゃんに、跡形も無く消し去られてしまう。
「寝てもいいよ、どうせ終点まで乗るんだし」
「ん……」
郊外に行くにつれ、各駅停車とはいえ駅と駅の間隔が広がっていって、扉もボタン式になって毎回開かなくなったから、ただ冷房の効いたのと暖かい日差しだけが僕らを包み込み続けていた。
****
「……さん……お客さん、」
「!」
ついうとうとしているうちに、僕まで寝てしまっていたみたいだ。
「……すみません、すぐ降ります。……れいちゃん、起きて、れいちゃん」
「んー……」
僕はすぐさま目を覚まし、隣で眠っているれいちゃんを起こそうと揺する。
「……電車着いたよ、降りよう?……眠いなら、どこか探してちょっと寝てから行ってもいいからさ」
「……。んー……」
結構ちゃんと眠ってる様で、起こすのはちょっと可哀想だったけど、とにかく僕は半分寝ているれいちゃんを支える様にして電車を降りた。
そして、そのまま帰っていく電車をぼんやりと見送ってから、僕は気を取り直してれいちゃんに話し掛ける。
「どうする?結構端まで来ちゃったからネカフェとかは無いだろうけど、ベンチぐらいならどこかに……」
「……いい」
とりあえずちゃんと寝させてあげようと思って言ったけれど、れいちゃんは眠そうなのにそれは良いのかそれよりも早く……といった風に眠り眼を擦りながらもちゃんと立っていた。
「わ……かった。……じゃあ、行こっか」
「うん」
僕らは手を繋ぎ、二人の死に場所へ。
誰にも見つからない様に、遠く遠くまで来たのだから、今度こそ、僕らは死ぬんだ。
……あの棺が恋しくなる事もあった。
でも、僕らはもうあそこで死んでいるんだと思えば、不思議と辛くなかった。
僕は結局、あの時殺せなかったんだから……もう二度と、繰り返さない様に。
「……それは違うか」
「ん?」
「あっ、……ごめん。何でもないんだ」
二度と繰り返さない……は、違った。
今度こそ、ハッピーエンドになれる様に。
来世に賭けて来世に賭けて来世に賭けて、結果を出さないままにまた来世。
きっと何十何百と繰り返して、未だに僕らは幸せになれないんだろう。
……それでも良かった。
だって……やり直せないよりは、幾らかマシだから。
どれだけ何もかもに痛めつけられて堕とされて絶望の底に沈んだって、れいちゃんが居るなら僕はもう一度やりたいって感じてしまうって思うから。
だからきっと、これは僕の呪いなんだ。
れいちゃんを巻き込んでまで、何度もハッピーエンドを望んで。
……いつか、本当に来るのかな。
きっと一生終わらない旅を続けてしまうのだと思っても、どうしても見えない程の小さな希望に縋りたくて堪らなくなる僕が確かに居たんだ。
……ねぇ、れいちゃん。
もし……もしも僕らが本当に、本当にハッピーエンドを迎える事が出来たら、その時は……。
……僕の事、ちょっとだけ褒めて欲しいんだ。
頑張ったねって。
そしたら僕はきっと、何億年分でも救われると思うからさ。
「……行こっか」
「うん」
……そんな事を思うのもこれでおしまいにして、僕らはまた違う世界で二人巡り会える様に、でも最後だけはお互いの事だけ考えながら眠れる様に、しっかりと繋いだ手を離さないようにまっすぐと戻り道のない所を進んで行った。
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