女性最強の若手冒険者の私に、もう相棒など不要だ!

甘い秋空

前編 私に相棒など不要だ!


「ソロのお姉ちゃん、俺の相棒にならないか?」

「私は、ソロが好きなんだよ」


 さわがしい冒険者ギルドでの、いつものやり取りである。



 剣と魔法が支配する世界は、魔法ネットによって格段に進歩し、冒険者による討伐の成功率も上がり、おかげでギルドは賑わっている。


 私の名前はアルテミス、金髪碧眼で、ソロの女性冒険者だ。

 討伐対象の魔獣を倒し、賞金で生活している。


 若手の中では、飛び抜けて成績が良い。


 成績が悪ければ、ある日、突然いなくなるから。

 あの人のように、、、



 ◇



 街の外、私はソロで岩場に身を潜めている。


 討伐対象のリザーゴンが近づいて来る。

 こちらには気が付いていない。


 指輪型の端末で、魔法ネットへ接続する。

「シリウス、このリザーゴンの推定スペックを」


# トカゲ型魔獣 火属性 炎での攻撃、防御が得意

# 短距離の飛行能力を持っています

# 身長 2メートル08センチ 英雄ジャイバーバ様と同じです

# 体重 287キロ 英雄コニャンシキ様と同じです


 頭の中に、渋い男性の声が聞こえてくる。


「余計な情報は、いらない!」




 策も無しに突っ込むと、危険だな。



「シリウス、リザーゴンの倒し方を検索」


# まず羽根に穴を開け、飛行能力を下げます

# 次に、尻尾を切り落とし、尻尾攻撃を封じます

# そして、頭を攻撃し、失神させます


「いつもありがとう、シリウス」


# どういたしまして、アルテミス様


「行くぞ!」





 冒険者ギルドに、リザーゴンを討伐した動画を見せ、賞金を受け取る。

 家族用の屋敷が買えるくらいの貯金はできたが、今はもう、そんな屋敷など必要無い。


 酒場スペースは、依頼を終えた冒険者で騒がしい。


「アルテミス、俺と結婚してくれ」

「相棒がいると、攻撃に幅が広がるぜ?」


 酔っ払いが、いつものように、からかってくる。


「私は、ソロが好きなんだよ」


 私への相棒の誘いは、よくある話だ。



「よう、俺の相棒にならないか?」

 中堅の冒険者が、珍しく声をかけてきた。


「あんたには相棒がいるだろう」


「あいつは、電気ウサギにビビって気絶したんだぜ、もう組めねぇよ」


「電気ウサギの電撃なんて、初心者でも耐えるだろう? 他をあたってくれ」


 以前は、相棒が欲しいと思っていた。

 でも今は、魔法ネットで、十分足りている。



 ギルドを出ようとした時、受付嬢が走り寄ってきた。


「アルテミス様、支部長室によろしいですか?」


「支部長が? まぁ時間はあるが、、、」





 支部長室に入り、勧められた応接セットに座って、支部長と向き合う。


 支部長は、黒髪で黒の瞳で、私とは幼馴染である。

 若くして支部長を任され、兄くらいの年齢だが、老けて見える。



「リザーゴンを、ソロで倒したそうだな」

 相変わらず渋い声だ。


「魔法ネットの支援があれば、たいした事じゃない」


「まだ、相棒は考えられないのか?」

「いらない!」

 キツく言ってしまった。


「弟の事は、すまなかった」

「兄の貴方が頭を下げる必要はない」




「それより、私を呼んだのは、何か用事があるのだろ?」

「魔法ネットがバージョンアップした」


「古い端末は、新しくしろと通達が来たのか?」

「そうだ、そろそろ、その古い指輪を替えないか?」


「まだ使える! 多少、文句を言うようになったが、問題ない」

「魔法ネットが文句を言う? 何を言っているんだ?」




「実は、受け取ってもらいたい物が、、、」

 デスクの引き出しから、何か出そうとしている、、、


 受付嬢が慌てた様子で走り込んできた。

「大変です、支部長! 街中に、サンダーレッドが降り立ちました!」


「至急、冒険者を向かわせろ!」

「アルテミス、おまえも手伝え!」



 ◇



「これがサンダーレッドか、でかいな!」

 目が赤いので危険な状態だ。


 建物への被害が出ている。


「シリウス!」


# わかってます

# 幻獣種バード型魔獣 雷属性 全周囲への電撃攻撃が得意

# 身長 3メートル14センチ 体重92キロ 飛行可能です

# 大型の個体です 冒険者レベルA以上を推奨します



 冒険者たちと一緒に、大型のサンダーレッドを、街の中央広場へ追い込んだ。

 サンダーレッドの周囲を包囲する。


「よし順調だ、魔法ネットで連携しろ、同時に攻撃するぞ!」

 支部長のゲキが飛ぶ。


 いきなり、サンダーレッドの周囲に閃光が!


 不意打ちの電撃攻撃!

 雷鳴がとどろく。



 とっさに身を低くする。

 閃光で目がチカチカしている。

 視界を戻すのに3秒ほしい。


「シリウス、何が起きた?」


# 電撃のショックで、魔法ネットがフリーズしました

# 再起動も失敗、周囲の冒険者は無限ループで固まっています

# 魔法ネットのバージョンアップでのバグです



「動けるのは、私、一人か!」

「シリウス、サンダーレッドの弱点は?」


# 水による電撃のショートです

# 大丈夫です、アルテミス様と私が組めば、勝てます


「了解、視界が戻った、行くぞ!」



 ◇



 街の中央広場、噴水に浮かび気絶しているサンダーレッドを前に、私は一息つく。



「シリウス、私は、、、いや、お前はなぜ動ける?」


# この程度で動けなくなる事はありません

# 私は、ネットの海の底に住む生命体です



「魔法ネットの市販プログラムだろ?」


# いいえ、私は生命体です

# プログラムなどと一緒にしないで下さい



「バグなのか?」


# 私にも、愛という感情があります

# 私が、アルテミス様の『相棒』を名乗ることを、承認願います


「相棒? 何を言っている、、、」




「おまえは、私の前から突然消えることは、ないのか?」


# 私の本体は、アルテミス様の体の中にあります

# こんな私じゃ、信頼できませんか?



「シリウスとの付き合いは長い、、、信頼している、、、」


# 私たちが出会ってから 2,501時間が経過しました

# 私もアルテミス様を信頼しております




「承認する、よろしくな、相棒」


# 期待どおりの回答、ありがとうございます




 古い指輪は、、、替える時が来たようだ。




あとがき

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 よろしければ、★★★などを頂けると嬉しいです。

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