同じクラスの美少女の身体と俺の身体が入れ替わってる!?…と思っていたら、どちらも俺だった。あいつの人格は何処に消えた?

体育座り

俺が自分に惚れるまでのプロローグ

第1話 なんだこの状況

俺の名前は『非行ひこう 全一ぜんいち』。至ってパッとしない普通のレベルの高校に通う普通の高校1年生だ。趣味はゲームだとかアニメ鑑賞で、学校では俗に言う陰キャポジションにいる。

ここでは詳しく言わないが、幼少期に自分の性格がひねくれている事が分かって以降、出来るだけそれを表に出さない様に過ごしてきた。

今ではクラスに趣味が合う友達が4人いて、そのグループでいつも学校で固まって過ごしている。入学して2か月経過した所だが、友達は出来たしボッチは回避出来た。


ま、そんな俺の話は別にどうでもよく、うちのクラスにいる一人の女の子の話をしよう。

善田ぜんだ優雅ゆうが』、一言で彼女を言い表すなら『完璧』だ。

運動、勉強、素行、コミュ力、ルックス、スタイル…なにをとっても完璧だ。正直学力も俺らとは格が違い、どうしてそんな人がこの偏差値50前後の都立高校に来たのは知らないけど、とにかく全パラメータがカンストしてる様な人だ。


これは捻くれた性格をしている俺と、そんなのと交わってしまう可哀想な彼女、二人の物語。





・俺が自分に惚れてしまうまでのプロローグ。


その日、非行は珍しく授業中に居眠りしてしまった。そして不幸な事にその授業の先生が厳しい先生だったので放課後に階段を掃除を一人でやらされていた。

昨日発売したオンラインゲーム、『リアルファンタジー』を夜遅くまでプレイしてしまい眠気に勝てなかったのだ。

罰は東階段の4階から2階までを綺麗にするというもので、今は一人で階段を掃いている。ゲームの事を考えながら。


(今日はキャラの育成に時間を掛けようかな。それに取り逃したアイテムも沢山ありそうだしそれらの回収も…あっ昨日夜遅くまで遊んだ『YUGA』さんがオンラインならまた今日も一緒に遊ぼ)


そんな事を考えながら適当にホウキで掃いていると、注意不足のせいで階段を降りてきた者の足にほうきを当ててしまった。


「いたっ…」


「え、あっ、すみません」


謝罪しながら非行が顔を上げると、そこにあったのは芸能人顔負けレベルの整った顔。同じクラスの『善田ぜんだ優雅ゆうが』の顔だった。

ぱっちりとした大きな目、透き通るような白い肌、ふっくらとした頬っぺた、艶のある綺麗な黒い髪。目に入る彼女の全てが美しかった。

彼女は身長およそ150センチで身体は細く小柄な方だが、胸はCカップ程には成長いている。かわいい系とも美人系とも取れるその容姿はブス専以外の誰の好みにも合うであろう。


その美しい顔を近くで見て思わず見惚れてしまいそうになり、非行の心臓は爆発するような勢いで心拍数が上がる。だが彼女の後ろにいた者の声によってそれは落ち着く。


「ちょっとアンタ!なに優雅にホウキを当ててんのよ!」


彼女の友人の『春川 あかね』だ。

クラスメイトだから彼女がどんな人なのか非行も何となく知っている。善田とは幼馴染で、気が強い性格でいつも善田の傍にいる。

高身長で空手を習っているのもあり、彼女は善田の守護者とも言われているのを耳にした事もあるぐらい彼女にべったりだ。

そんな彼女に責められ、非行の恋に心高ぶりそうだった胸の鼓動は落ち着きを取り戻した。


(はぁ…気が強い奴って苦手なんだよな。昔からそういう奴と関わって嫌な経験しかない。やっぱ俺の性格に合わないんだろう。

…嫌な事思い出した。クソ、ふざけんなよ春川)


そうは思うも本心は口には出さない。


「あ、大丈夫だよ~そんなホウキぐらいで怪我なんてしないし」


「そうだけどさ、このホウキって結構羽が硬いやつで痛いでしょ?そんなので優雅の足に…」


「だから大丈夫だって~上履きの上からだったし。

邪魔してごめんね非行君、掃除頑張って!」


「は、はい…」


春川を宥め、微笑みながら手を振りそう言う善田から目を放せず、非行は少し肩に力が入りながらそう返事をした。

近くで見ると良く分かる、彼女に惚れ、無謀にも告白する者達の気持ちが。

彼女の笑みを一身に浴びてさっきまであった嫌な感情は、浄化される様にみるみるうちに消滅していった。

これにより、非行は彼女の周りにいる者達が皆笑顔である理由も分かった。


(凄いな…あの人には周囲の者を癒す特殊能力でもあるんだろうか。ただの美人の笑みなのに、ただ応援されただけなのに、胸がポカポカする。男なんて絶対に選び放題なんだろうな……

…あ、なんかあの人に彼氏がいると思うとムカムカしてきた)


善田の癒す力も、性格が捻くれている彼の前では数秒しか効果が無かった。

ただ、彼がさっきまでゲームの事を考えていた頭は、今は善田の事のみを考える頭になっていた。彼女の笑みが頭から離れないのだ。


(羨ましい…善田もその彼氏も、俺には無いものを沢山持ってる。欲しいなぁ…俺にもそんな特別なモノがあったらなぁ…)


力を手に入れようと努力をしてこなかったくせに、嫉妬だけは一人前、それが彼だ。



非行は彼女の事が頭から抜けずに呆けた顔で適当に階段を掃き続け、ようやく掃除が終わりそうと気が緩んだ所で、急いでこちらに上がってくる足音がする。

さっきの善田みたいに足に放棄をぶつけない様にする為、非行は一度掃くのを止めてその者が通り過ぎるのを待つ事にした。


ただ、その上がって来た者はさっき下ったばかりの善田だった。

忘れ物を取りに戻ってきたのか今は春川は一緒ではなく、鞄も持っていない。

彼女は非行と目が合うと、ニコッとまた笑う。


「ごめんね、また通り過ぎるよ~忘れ物しちゃった!」


「あ、そ、そうなの…ね」


どう返せば良いのか分からず小さな声でそう言う。女子とまともに話した経験が片手で数えられるほどの回数しかなく、まともに目を見て話せない。

善田は彼の前を通り過ぎる時に手を顔の前に出して立て「ごめんね」というジェスチャーをしており、そんな一挙手一投足に非行は再び目を奪われた。


だがここで、善田がよそ見をして階段を上がっていたので、非行が数段上に置いてあったチリトリを踏んでしまった。チリトリを踏んで片足が前に滑り、善田は後ろに体勢が崩れる。


「あっ」

「あっ」


「やらかした」と思った。非行は自分があそこにチリトリを置いていたから善田が怪我してしまうと。

そしてそんな思いが身体に伝わったからか、気が付けば彼女の落下先へと身体が動いていた。自分でもらしくないとは思うが、咄嗟に身体が動いてしまった。受け止められる訳も無いのに。


(やっべー!なんで俺受け止めようとしてんの!?

絶対に俺の足腰じゃ受け止められないし、彼女のクッション替わりにしかならないだろ!

クッションになるのも嫌だって…痛いの怖いし!そもそも善田ってただクラスメイトで仲良くないし、怪我してでも助けたって惚れてくれるわけでもないだろうから無駄じゃん!

てか俺がチリトリをあそこに置いてたせいで起きてしまったと一瞬は思ったが、これって別に俺悪くないしな。掃除をしてたらチリトリを置いておくのは当たり前だし、よそ見して勝手に転んだ善田が悪いはずだ!)


彼女を受け止める為に動いてしまった自分を悔やんだ。

彼は人の為に人助けなどしない、するとしても自分の為に人助けをするのだ。

今回、怪我をするというデメリットと、善田と仲良くなれるかもしれないというメリットを天秤にかけてみたが、彼の中ではリデメリットの方が大きいと判断した。

だがその判断が出来た頃にはもう落ちてくる彼女の真下に入っており、避ける事も出来ない状況だった。


(ああ…もうこれ絶対怪我するじゃん。

ならせめて、これを機に善田と仲良くなれるって褒美が無いとやってられん、そこから発展して付き合ってキスとか出来たらなぁ…いや、無理だ。そもそも女子とまともに話せない俺じゃチャンスがあっても十中八九それを掴み損ねるな。

クソ!善田に関わるんじゃなかった!)


自分は一切悪くないと、こんな状況でもそんな事を思う。非行とはそういう男だ。

そして非行は落ちてくる彼女の身体の下敷きとなった。

彼女の背に視界が覆われ、自分も後ろに倒れる感覚がする。


そして身体に衝撃が走った。

鈍い音と、コンクリートが割れる様な音と共に。





(…あれ、痛く…ない?)


善田を受け止め身体に衝撃が伝わる感覚はした。だが不思議と身体は何処も痛まない。

閉じていた目を開けて頭を触るも、頭の何処にもたんこぶは無い。手に血だって付いてない。


その時、自分の視界に映った腕は明らかに自分の腕ではなく、白く綺麗な細身な女性の腕だった。


(え、あれ…これ誰の手…って、俺のだよな。

ん…頭に違和感があるって思ったら髪がやけに長くなってるし、それになんか身体に違和感もある…特に胸。

…なんだこのふっくらとしたやつ)


自分の手で自分の胸を触ってみると、そこには自分の胸にあるはずがないモノがあった。

そして妙にお尻がひんやりとするなとも思い、彼は下を向いて自分の身体を確認した。


目に入ったのは女性の下半身だった。自分が着ているはずのないスカート、そして男の自分にあるわけがない胸。全てがおかしかった。

そしてその傍らには見慣れた姿の男が倒れていた。


それは鏡の前でしか絶対に見る事が出来ないであろう者の姿だ。


「えっ……俺?」


自分の口から出た声が自分の声ではない事に驚くも、今発した声で倒れていた男が目を開ける。


「あぐぅ…はぁ………いってぇ……ァァ」


男は幸い下に置いていたバッグのお陰で頭を地面に強打する事は無かったが、腰を打ってしまったのか腰を抑えて悶絶していた。


(いやっ、こんなん有り得んだろ。なんで…なんで俺は…自分が苦しんでる姿を見ているんだ!?

幽体離脱…ではないな、普通に物に触れるし)


彼…善田の身体の彼は困惑して頭を抱える。

そして下を向いて自身の女性の身体を再び見て、状況を理解し始めた。


(ひょっとして善田の身体に俺が入り込んだのか!?

じゃ、じゃあ今の俺の身体の中には…)


「おい!大丈夫か!?」


「ァ…あ…だ、大丈夫です。腰の痛みも少しずつ引いてきたから…」


「そうじゃなくて!俺の顔を見てみろ!」


「…へ?」


善田の身体に入り込んだ非行(以降は偽善田と省略)は、腰を抑えて悶える自分の顔を掴んで無理やり自分と顔を向かい合わせる。そして顔を近づける。

痛みに悶絶していた非行は、状況を理解出来ないまま偽善田に顔を向かい合わされ、顔を赤くし始めた。そして何故かゆっくり目を閉じた。

まるでキスを期待して目を閉じたかの様な行動だ。

その行動のキショさと、善田の顔を見て驚かない事から、偽善田の頭に一つの考えが浮かぶ。


もしかしてこれって…身体が入れ替わったんじゃなくて…


「お前、非行ひこう 全一ぜんいちか?」


「え、あっ、はい。そうです。名前を憶えててくれたんですね…」


中身が善田だったら、名前を言われたら「え」という反応になるはずだ。

なので彼のこの反応により偽善田の頭に浮かんだ予想はより強固なものになってしまった。


「…どうやら俺、善田の身体に入り込んじゃったみたい……」


「…????」


これは捻くれた性格をしている非行が、完璧な少女である善田の身体に入ってしまった物語。この物語には本来ヒロイン枠であろう本物の善田は居ない。

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