14.居移気


 とんでもない金額の飲食をしてから数日間、星雲は衣食住を整えるために色々とやっていた。主にIEAに行ったり、銀行を回って、不動産屋を回っていただけだが。

 星雲は住居兼、製作所になるような物件を探していたのだ。そして思い出す、そう言えばあいつを起こしていなかったと。


 と言うことでやってきました、山深い暗く陰気な場所へ。ホテルでよかったじゃないかって?バカ言っちゃあいけません。今からあいつを叩き起こして殴り殺すと決めているのですから。

 私の今の格好ですか?もちろん、フル装備ですとも。そして空間から取り出したるはキメラの体と魂の結晶。もちろん体は木にミスリルワイヤーでグルグル巻きです。ついでにチカさんから一時的にアンチスキルを借りています。そして魂の結晶を胸に押し込みます。


―おい、どこだここは!?なんでワレの体が縛られているのだ!―


 聞こえませんねぇ、ホレ、さっさと起きなさい。


「おい、状況を説明しろぉ!なぜワレがこんな仕打ちを受けなければならない!」


「おや、ようやく悪魔が起きましたか」


「んなっ!誰が悪魔だ!ワレはお前を鍛えてやったむしろ恩人だろうが!」


「ハンっ!そう!それですよ、ソレ。一万もの敵と対峙させられた異常性を私は知らされたのです!一流が大人数で半年かかる量を半月でやらせたらしいじゃあないですかぁ、安心して下さい。一発で首を切り落として差し上げます。それくらい呼吸をするのと同じくらい自然にできます。あなたが鍛えてくれたお陰でねぇ!では、さらば」


「うん!?スキルが発動しない!お前アンチスキルまで持ち出して本気で殺す気か!?」


「本気ですが何か?」


 星雲の目はイッチャッテルゥ!


「ま、ま、待て待て!確かに!確かに無茶をした自覚はある!あるにはあるがお前が鍛えてくれと言ったから鍛えただけであってだなぁ!」


「辞世の句はそれで良いですね?」


「いやいやいや!お前だって早くダンジョンから出たかっただろう!?それにホラ!スキル!スキルだってきちんと抑えられるようになったじゃないか!あと、アレだ!金!金だって沢山手に入れられただろう!?どうだった!?大金が舞い込んできただろう!?」


「えぇ、まぁ確かに。だから?」


「だ、だからだと!?」


「それは私が頑張った結果であって貴様が頑張った結果ではありませんね?」


「いや、だから、しかし、その・・・」


「死ねぇい!」


「ヒィッ!ごめんなさい!私が悪かったです!外の世界が見たくて無茶をさせました!」


 星雲の剣がノアの首元で止まる。


「ふぅ、まぁいいでしょう」


「ゆ、許してくれるのか?」


「私が成長したのは事実ですからね。はぁ、あんなハードな訓練にしなくたってよかったじゃあないですか」


「その・・・ごめん」


「いいですよ。それより起こすのが遅くなってすいません。色々とバタバタしていたので」


「構わんよ、それよりこれ解いてくれないか?」


 星雲はワイヤーを切ってノアの体を自由にしてやる。


「ほら、これでも着てください。あとこれも付けて」


「服か?ありがとう。このデバイスは?」


「私が付けているMDと同じものですよ。身分証やら支払いやら通信やら、まぁ色々できる便利アイテムです」


「ほう!こちらの世界の技術の通信機器というわけだな!・・・ところで、なんでこんな山奥にいるのだ?」


「ノアを殺したあと埋めようと思っていたので」


「えぇ〜・・・」


「冗談です。あなたはこの世にいない人間です。街中にはそこら中にカメラがあってほぼ常に監視されています。その監視網から抜けて起こすとなるとこんな山奥になってしまったという訳です」


「なるほどなぁ、うん?ワレの身分証があると言ったな?なぜだ?」


「IEAのお偉いさんに空間内にいたノアの魂を感知されたんですよ。星付きだから分かったと言っていました。多分異世界人だとも気付かれています」


「・・・そいつは始末した方が良くないか?」


「良くありません、IEAとはこれから仲良くやっていくつもりですし。それに良い人ですよ、話は聞きたいと言っていましたので時間ができたら事情聴取くらいあるかも知れませんが」


「そうか、なら良いか」


「えぇ、良いのです。それよりも重要なことがあります!」


「重要なこと?」


 星雲は胸を張り宣言する。


「住むところが決まりません!」


「・・・はぁ?」


 ノアは何が何やら分からない。


「ここ数日、IEA、銀行、不動産屋!周りに回ってきましたがここだ!という物件が決まらない!いくつか良さげな物件がありましたが中々どうしてビビビがない!」


 ノアはちんぷんかんぷんだ。


「その、ビビビとやらは何なんだ?」


「運命です!」


「はい、そうですか」


「ですから運命的出会いです!」


 ノアは呆れている。


「住むところなんて雨風に晒されずに寝られて強盗に襲われずにご飯が食べられればいいじゃないか」


「私とノアの工房と住処ですよ!?ノアはいいんですか!?適当な建物に決めてしまって!そこで心行くまで開発ができますか!?心行くまで寛げますか!?」


 ノアは納得してしまう。


「うむ、言われてみれば中々どうして!ここは理想の物件でないといけない気がするな!」


「そうでしょう!?と、言うことでノアも一緒に見て回らねば意味がないではないかということに気が付きましてですね!ここで起こしておくのがベストだという判断です」


「よくやった、セイウンよ!正にその通り、では行こうではないか!理想のお部屋探しへ!」


「「ハッハッハ!」」


 2人は意気揚々と山を下って行く。文字数がもったいないので諸々割愛、そしてやっと理想の土地へと辿り着いたのだ!


「「ビビビ!きちゃー!」」


 2人が見つけたのは第4地区トウキョウの郊外にある空き地を見て声を揃えていた。

 そう、空き地である。2人は1週間ほど物件を探し回った。しかしビビビに出会えない。そこで不動産屋から言われたのだ、もういっそのこと一から作ればいいじゃないですかと。

 2人の脳に電流が走る。正に天啓、そうだ、ないなら作ればいいじゃない!と言うことで土地を探しここに行き着いた。

 トウキョウはダンジョンの暴走モード突入で一度更地になって都市の再生が著しい場所だ。ちなみに星雲の元実家兼会社もトウキョウにあった。そしてX等級のダンジョンがあると言うこともあり一流のエクスプローラが居を構えやすいように色々と優遇されている都市でもある。


「では。ココでいいですか?いいですね?はい、契約書にサインを、登記簿は今送りました。一括払いですね?はい、はい、これでオッケーです。では、私はこれで失礼しますので」


 付き合わされた不動産屋の担当は2人の異常なテンションに辟易としていたのでさっさと帰っていく。


「よし、建築士に相談に行きましょう!」


「そうだな!理想の我が家を建てねば!」


 2人は評判のいい建築事務所に予約を取り金はいくらかけてもいいのでとにかくいいモノを建てろと捲し立てる。あれやこれやと注文を言いながら変態建築士もアイデアを出し設計図は完成、あとは施工を待つのみ!なんと倍の料金を払えば倍速で建物が出来上がるというので星雲はもちろん支払う。星雲とノアは家が早く建って嬉しい!業者はお金が沢山貰えて嬉しい!正にWin-Win!

 ということで、現代の技術を持ってして2ヶ月かかるところを金で解決し、1ヶ月で建物は完成!入居の日を迎えることになる。


「「おぉー!出来てるぅー!」」


「ハッハァ!どうですか?一切の手抜き無し!パーフェクトに仕上げておりますとも!家具などはサービスで一流のメーカーからオーダーメイドでご希望に沿う形で作らせましたので!」


「「スンバラスゥぃー!」」


「では今日から住めるようにしてありますので。あっ!工房の方も機器類は預かった物もご注文頂いた物も全て配置してあります!」


「「んん〜パーフェクツ!」」


「はい、では後金の方を・・・はい!ではこれで手続きは全て終了です!この度はありがとうございましたー!何かあればご贔屓に!」


 変態建築士は去っていった。2人は工房を見に行くことにしたようだ。義肢装具を作るだけなら製作所でも良かったがノアも武具防具を作るので工房と言うことにした。

 そこには宝物庫にあったキンゾ君が鎮座しコンゴー君シリーズ(買い足した分も含む)が整然と並び、更にはノアの要望で作ったピカピカの鍛冶スペースが荘厳な雰囲気を纏っていた。

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