第52話

音楽祭の準備が始まって数日後───


今日も放課後に音楽室に行って練習をしようとしたのだが急に先生から音楽祭の休止が伝えられた。


奏介のクラスには少なかったが、他のクラスの人達が反対して校長を超えて理事長に反対意見を言いに行ったらしい。


そして反対意見が多かったため校長は理事長に怒られて、この音楽祭も中止になったらしい。


「結構楽しみにしてたんだけどなぁ……」


「まぁこういうのが嫌いな人もいないわけじゃないんだから、反対も多少はあると思ったけどそんなに多かったのかな?」


「中止ってことはそれだけ反対意見の人がいたということでしょう」


奏介たちは歌ったり楽器を触ったりすることを楽しんでいたので中止なったことは少し残念だった。


それでもこの意見が覆ることは無いと思うので練習に行こうとしていた奏介たちは外に出て家へと歩き始めた。


俺はいつも通り部屋に入るのだが真夏と付き合う前からずっと考えていることがある。


(俺はこのまま、何もかも貰いっぱなしでいいのだろうか)


付き合う前からずっと真夏には色々貰ってばかりで色々思うところがあったのだが、付き合ってからよりそう思うようになった。


俺は買い物の時に支払いをした回数は少ないし、晩御飯も作ってもらってる、やっていることが全然ないことをずっと気にしていた。


プレゼントを渡したことはあるが、それはたかが一瞬の出来事であり、ご飯などのいつも貰っているようなことは出来ていない。


「真夏、何かやって欲しいことは無い? 今だけじゃなくて毎日やって欲しいこと」


奏介は自分の部屋でくつろいでいた真夏にそう聞いた。


「急だね……強いて言うなら甘やかしたり、でもぶっちゃけ一緒にいるだけで十分かな」


そのとても可愛い答えを聞いた俺は無言で真夏が恥ずかしいと言うまで頭を撫で続けた。


撫で終わったあと「可愛いかった」とだけ言ってその場を去ろうとすると顔を真っ赤にした真夏が抱きついてきて「バカ……」と呟いてきた。


(全く……真夏の方がよっぽどバカだよ)


「俺だって男だ、そんな男を簡単に信用して……少しも危険を感じずに無防備で甘えてきてる真夏の方がバカだよ、もしかしたら手を出すかもしれないのに」


「大丈夫、奏介くんはそんな事しないって。この世界で1番信じてるし、奏介くんにそんなことをする勇気なんてないでしょ?」


それで奏介の何かに火がついたのか、奏介はソファーの上で真夏を押し倒して口付けをした。


「俺だって……その気になれば色々しちゃうかもしれないから……次からはそんなことを言わないようにな、いつ俺が真夏の可愛さに耐えれなくなって暴走するか分からないから」


真夏は言葉にならない恥ずかしさの声を上げて近くにあったクッションで顔を隠した。


俺は近くにあったブランケットを持ってきて真夏に被せたあと胸の辺りまで抱き寄せた。


「普段貰ってばかりだからさ、俺が甘やかすだけでいいのなら俺は毎日甘やかすよ」


「恥ずかしい……からさ、限度を考えてね?」


「それは真夏の可愛さ次第でより甘やかすかもしれないかな。それじゃあ個人的な買い物に行ってくるから」


奏介は真夏の頭を撫でてから外に出ていった。


(反則だよ……奏介くんは)



※※※



真夏に甘やかすことでいいと言われたものの、それだけでは自分がモヤモヤするのでいつもの場所に贈り物を買いに来ていた。


(何を買おうかなぁ……)


とりあえず店に入って俺は商品を眺めているのだが真夏はネックレスと髪飾りは持っていて、髪留めは自分であげたのでその3つは選択肢から外れる。


「そもそもアクセサリーっていう考えから離れた方がいいのかな?」


奏介はその店から出ていって他の店を探すため歩いていたのだが、ふと目に入った店の前で立ち止まった。


(さすがに気が早すぎる気もするけど……)


そう思いつつも俺はそのお店に入った。


奏介が入ったのは指輪やで普通の指輪や婚約指輪までなんでも売っていたが、奏介はそこまでお金を持ってきているわけではなかった。


(俺の持ち金で買える指輪でなんか見た目がいいやつないかな)


そこで目に入った5000円の指輪を手に取った。


一目見てこれだ! と思ったのでこれを2つレジにまで持っていき購入して家に戻った。


早速俺は真夏にこれを渡そうとしたのだが、さすがに婚約というのは気が早すぎるし調子に乗りすぎだと思ってしまったので、指輪をポケットに閉まってしまった。


(高校を卒業する時に渡そう……それまで真夏と関係が続いているのならだけど)


この世界で絶対なんて言葉は信用ならないし、どれだけ真夏と奏介が仲が良くて付き合っていても、ちょっとしたことや、もしかしたら大きなことで関係が崩れてしまう可能性も0ではない。


俺が真夏に依存するようになったらもし離れることになったとして、叶の時と同じ末路を辿ってしまうかもしれない、そう考えたので真夏に甘やかされてばかりではダメなのだ。


(そんないつ来るから分からない【いつか】のことを今考えても仕方ない、今は今のことを考えるだけだ)

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