第23話 裁きの戦士・リブロ

こうして、僕らは迷いの森の主、蜘蛛の化け物のアラクネを討伐した。


元・生贄候補の人々10人を救出し、大所帯となった僕らは、帰路を示してくれるはずだったアリアドネの糸を駄目にしてしまった今、迷いの森をどう脱出するか頭を抱えていた。


「お腹空いた!」

チャラガが駄々をこねる。

「でも蜘蛛は食べれないなぁ」

なんで焼いたものすぐ食えるか検討するんだこのは。


僕は声を絞り出した。

「とりあえず歩くしかないかぁ…」


僕らはぞろぞろと歩き出した。

みんな僕の父さんのように目が死んでいる。

そういや父さんは今ごろ、拷問されたり処刑されたりしていないだろうか。

早いとこ身の潔白を証明して父さんを救出せねば…。


さっきまで襲いかかってきた土蜘蛛がもう出現しないところを見ると、アラクネを警護するための使い魔的なものだったのだろう。


鬱蒼うっそうと茂った暗い森の中、歩を進める。


すると何やら少し遠くで金属がち合う音がする。誰かが戦闘している…?!


僕はみんなに待つように言って、音のする方に近づいて行った。


すると、ジェア神のようなドレッドロックをした黒い肌の青年が、どデカい斧を振り回して、化け物と戦闘していた。


「しっつけーんだよ!」


化け物は獅子の頭に蛇の尻尾、だが身体は山羊ほどの大きさで軽快な足さばきで青年に襲いかかり続けている。

—————あれがキマイラってやつか!

よく勇者の詩に出てきたけど、実物を見るのは初めてだ。


ふいにキマイラが火炎を吹いた。


「おわっ!あっつ!!」

青年が倒れこんだ。

その上からキマイラが降りかかっていった。


—————ダメだ!助けないと!


〽「

たわむれは (しま)

この指から放つ

雷は


僕の指から電撃がキマイラ目がけて放たれる!


『ギャギッ!』


キマイラが感電している隙に、僕は青年に手を差し伸べた。

「大丈夫?!」


「おう、ありがとう!」

青年は僕の手を掴んで起き上がった。

「すげえな、魔法使いかなにかか?」


「僕は吟遊詩人のアストラ。君は?」


「俺はリブロっていうんだ。ツンフトっていうところに登録した冒険者さ」


身長はざっと180㎝くらいだろうか。

たくましい体つきだが、威圧感はなく、爽やかで軽快な印象だ。


「おっと、アストラ、おしゃべり中だがヤツの第2波がくるぜ」


キマイラが吠え猛る。

『グロォォォオォォオォオオォォ!!!』


「ふぃー。おっかねえなぁ!でもそろそろトドメ刺させてもらうわ!」


【スキル発動! 断獄】

リブロの斧が真ッ赤に染まり、彼の眼光が赤く光り出した。


「でやあぁぁぁぁああぁああぁ!!!」


斧がキマイラに向かって一直線に振り下ろされる!


しかし、なんとキマイラは斧に噛みついた!

そして、リブロの斧を食い止めた!


キマイラは斧をくわえたまま、息を深く吸い込んだ。


まずい、火炎放射しようとしている…!


しかし、リブロは退きならない体勢になってしまっている。


僕は咄嗟に言霊を編んだ。


〽「(いぶ)としても 貴様に

の 兄貴に 

吐き出してみな、 鉄をも

貴様に撃ち返す 


キマイラが火炎を吐き出した。

しかし、その炎はリブロの背後から突然発生した強風により、口から外へ吐き出されず、喰いとめていた斧を溶かし始めた。


『ゴポッ?!』


斧を手放し、リブロが後方へと飛び去った。


『ゴボゴボゴボゴボデュルルルルルルルルルルルルル…』


斧の鉄は溶解し、キマイラの口へと流れ込んだ。

そして、次第に固まっていった。

キマイラは動かなくなった。


「うおお…危なかったぜ……斧は…もう駄目だなこりゃ」


キマイラは窒息死した。


「ありがとうな、アストラ。助かったわ。これで宝石を持ち帰れば俺のクエストは完了だ」


「どういたしまして。じゃあ今度はを助けてもらっていい?」


「………え?」



*     *     *



リブロは僕ら遭難者の一行パーティへ合流した。

「心配すんな!これを知ってるか?『アリアドネの糸』だ。これさえあればツンフトまで確実に帰れるぞ」


僕とチャラガは満面の笑みで返答した。

「うん知ってる」


「知ってるのに用意しなかったのか?この高悪名ノトーリアスな迷いの森でか?変な奴らだな。まああのアラクネをたった2人でブッ倒しちまうなんて、そもそも普通じゃねえけどな。じゃ、行こうぜ」


「ああ!行こう!帰ったら祝杯だ!!」


「帰路もガルバンゾ~☆」


なんだか、仲間ができたみたいで嬉しかった。

僕らはツンフト目指して帰路についた。

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