第20話 非公認ギルド「ツンフト」へようこそ!~ボドバイの町

さて夕暮れ近くになり、チルドコリンの町から西方へしばらく歩くと、悪名高さノトーリアスで有名なボドバイの町である。


なんでも、山賊やら海賊やらが根城ねじろに使うような治安の悪い町らしい。


しかし、こんな町にもギルドはあるとのことで、旅費を稼がないとどうにも動けないし、飢え死にしてしまうので、さっそく僕らは向かった。


着いてみると、そこにはボロくてデカい建物があり、看板にはカタカナで『ツンフト』と書いてある。このギルドの名称だろうか。建物の外には酔っ払いが爆睡していた。


きしむ扉を開けると、薄暗い室内だった。

受付にはクジャクの尾羽おはみたいな睫毛まつげの品のない姉御みたいな人が、受付台に両足を乗せて、不味そうなスープご飯っぽい何かをくちゃくちゃ食っていた。


僕は恐る恐る尋ねた。

「あ、あの~…ここがギルドでしょうか」


姉御は目も合わせず口に物を含んだ状態で答えた。

「そ。非公認ギルドのツンフト。よろ。なに?案件ほしいの?壁に貼ってあるから適当に選んで持ってきて。よろ」


「は、はぁ…」


壁の張り紙を見る。


『タマとり仕事! 対象:某ギャング』


『タタキ 対象:行商 または 都市の宝石屋』


『ガジリ 対象:下級貴族(指定あり)』


『海戦 長期(夏) 募集8名 対象:敵国船 特筆事項:奇襲』


う~ん、なんか隠語スラングっぽくてよく意味はわからんけど、ものすごい物騒な気配はプンプンと臭ってくる。


チャラガが僕の服を引いて言った。

「アストラ、なんか面白そうな案件がいっぱいあるね!」


—————どこがだよ!


「そ、そうかな???でも初めての受注だから簡単そうなものを選ぼうよ、とりあえずの旅費を稼ごう」


「あっこれ!」


チャラガが指差した張り紙にはこう書いてあった。


『初心者歓迎! 害虫駆除クエスト!


討伐対象:蜘蛛の化け物


実施場所:迷いの森


募集人数:最大5名


詳細:経験が浅い冒険者でも安心です!

熟達の戦士たちがあなたたちとともにクエストに挑みます。

あなたたちはクエストの援助だけしていれば大丈夫!


こんなあなたにおすすめ:右も左もわからない!という冒険者の方


待遇:当ツンフトで貴重品は厳重にお預かりするので魔法鞄をお持ちでない方も紛失の恐れがございません。


優遇スキル:とくになし


「なるほど!これなら簡単そうかも?害虫駆除クエストってなんだか雑用みたいだけど、初めてだし仕方ないか。」


「アストラ、さっそく受付に持ってってみよう!」



*     *     *


こうして、僕らは初仕事を受注した。


そして、組まされる相手が決まった。


見るからに屈強!といった体つきの筋骨隆々な戦士3人であった。

「俺らは迷牛頭まいごず。このツンフトの看板登録者さ。よろしくな!」


「よ、よろしくお願いします!」


「まっ、戦闘は俺らに任せてよォ、君たちはいろいろな援助、頼むわ!」

戦士たちはみな、見かけによらず爽やかに笑った。


出発は明朝、クエストの受注者は宿にも泊まれるということで、なんとか今日は屋根を確保した。っていうか、戦闘って言ってるけど、どうやら害虫駆除ではなさそうだ。なんだか胸騒ぎがする。


さて、僕たちはツンフトの隣の宿に宿泊することになった。

この宿もツンフトに負けず劣らずのボロ小屋具合だ。

しかも、鍵無し。


………そして、幸か不幸か、チャラガと同部屋である。


軋む床、曇りきった窓、引き裂かれたカーテンの狭い部屋にベッドがひとつ。


「あ、あのさ、チャラガ、僕は床で寝るからベッドで寝ていいよ」


「アタシと寝るの…いや?」


「えっ!そ、そんなわけないけど!その…ね。」


「いいよ!一緒に寝よう!!」


僕は唖然とした。

いくらなんでもガードが緩すぎる。


「あのさ、警戒とかしないの…?男とふたりきりなんだよ?」


「警戒?一緒に寝たほうが安全じゃん」


—————ピュアか?ピュアなのか?


「はやく来て、寝よう」


僕は生唾をごきゅんと呑んだ。

チャラガの隣に入る。

チャラガの左脚が僕の右足に密着する。


—————うおおおおおおおおおお!!!無理だこれ!!!!!!!!!!!!なんかめっちゃ良い匂いする!!!!!!!!!!!!!好きです!!!!!!!!!!!!!!!!


ふいに、チャラガが僕を抱きしめてきた。


—————そういうことね?そういうことでいいのね??!


しかし、ここで僕は異変に気付いた。


勃ってない。


なんだ、これは?

こんなにドキドキするのに身体の成長が追い付いていないのか、反応していなかった

この甘酸っぱい感じは、大人になって忘れてしまった感覚だった。


—————俺、いや、僕もピュアじゃねえか!


チャラガの頭が僕の胸元に転がった。


—————えええええ!なにがはじまるんです?!


「や…」


—————なんか言ってる!


「焼き鳥」

気づくとチャラガは僕を抱き枕にして眠っていた。

そして、寝言でも焼き鳥に言及していた。


ほどなくして、僕の胸元にチャラガの唾液が染み込んできた。


「うええ…ムード台無しだ………。」

急激に呆れ、僕にも眠気がどっと押し寄せたので、気絶するように寝入った。

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