第9話 神への供物~五鬼継誉

空韻雷夢そらおとらいむを射撃し、逃亡した五鬼継ごきつぐことWAR-Rockウォーロック以下、外道ラップクルー、誤認愚魅ごにんぐみ

彼らは、隠れ家にしている廃ビルの一室に身を潜めていた。


五鬼継は手下の4人を別室に潜ませ、自身は一人で部屋に鍵をかけ、沈思黙考ちんしもっこうした。


—————くそっ、頭に血が上ってあのクソ野郎を撃ち殺しちまった。

もうネットニュースにも上がってる。

畜生、あとの取り巻きも撃ち殺しておくべきだったか…?

アイツらが目ェ覚ましたら俺らのことチクるかもしれねぇ。

よりによっての悪手あくしゅばかりだ…。


くそっ、IKATZZIイカズチのクソ野郎が俺に素直に負けてればこんなことにはならなかったんだ、俺はなんにも悪くねぇ、全部あいつのせいだ!


くそくそくそくそくそくそくそくそ!!!


メンバーの中にはすでにビビっちまってる奴もいる。

コイツらの誰がいつ自首してゲロッちまうかもわからねえ。


どうすれば逃げおおせるか。


それともアイツら4人、全員口封じに…

いや、落ち着け、それはさすがに…


『ひゃぐふふふふふ!』


その時、食道を逆なでするような、不気味な笑い声が五鬼継の脳内に響いた。


『それ、最適解では?』


「だ、誰だ!??!………ってか鍵閉めたハズ……はァ?!」


五鬼継ごきつぐほまれどの…ですな…』


「ああ!?なんだッ!?幻聴まで!??!くそっ、落ち着け…さっきキメた錠剤が効きすぎたか!?」


『ひゃぐふふふ。幻聴ではありませんよ、五鬼継どの。お迎えに伺ったのです、我が主よ。』


「あ…??主?なんだおめー。」


『私はオセ。貴殿きでんを王座へと君臨させる—————異世界の神です。』


「ハハハ…俺ァやっぱりイカれちまったらしいな…ところでおめー…すげぇ顔してるな…」


暗闇から浮かび上がってきたその顔は、動物のヒョウそのものだ。

中世の王族のような衣装に、豹の顔。

身のこなしにはどこか気品がある。


『驚かれるのにも無理ありませんね。で・す・が、あまり時間がありません。貴殿が王になるためにはいくつかの犠牲が必要です。あっ…と…。』

オセは、にやりと微笑した。

『これは比喩ではありません。本来の意味の「犠牲」です』


「へ……?」


『そこに拳銃がありますね』


「は…?」


『そして別室には貴殿の手下がいる、そうですね』


「………まさか」


『ド正解です!さすがは優れた野生の勘をお持ちだ。そして、アタクシの話していることが荒唐無稽な嘘っぱちではないことも直感で見抜いておられるハズです、違いますか?』


「………」


『貴殿の部下4人、その拳銃でチャチャッと供物にしてくださいな。ひゃぐふふふふふ。』


まるでとっておきの冗談でも披露するかのような軽やかなトーンで、オセは続けた。


『…どの道、この世にいての貴殿の人生は終わりです。だが、貴殿はこの先の人生、賤民せんみんむさぼるような臭~い飯を搔っ込み、薄暗い部屋の堅ァいベッドで寝転び、鉄格子からご卒業されてからも日陰者ひかげものとなりコソコソと生きていくような…そんなもったいない生き方をされるようなお方ではない…貴殿こそ…異世界の王にふさわしい…!』


五鬼継の目の色は次第にエメラルドグリーンに輝きを蓄えていった。

「俺が……王………」


『さぁ…その拳銃、装填そうてん数は5発だ…。手下を全員捧げ終わりましたら…最後の一発は貴殿の顳顬こめかみに撃ち込みなさい。なぁに、ご心配は無用、ワタクシがすぐに異世界あのよへと導いて差し上げます、我が王よ…』


「トーゼンだ…」


五鬼継は拳銃を握りしめ、部屋を後にした。


丑三つ時の暗闇の中の廃ビルで、銃声が5つ、鳴り響いた。

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