プロローグー② 言霊ラップ戦闘曲~阿吽の呼吸

しぶとい!


さすがは蜘蛛の化け物。

粘り強い性根しょうこんの持ち主だ。

でも、いくら(顔だけ)美人とはいえこんな化け物の餌になるのはまっぴらごめんだ。


こんな事態も想定して、さっきお前への弱化デバフとともに、僕自身には強化バフをかけたのさ!


さて、ここらへんでトドメといこうか!


〽「このうたは (あいとう)

まばゆい 

乱麻らんまを断つ 

これ 


(しでんいっせん)

 (じげん)

 

IKATZZI《イカズチ》ドロップ、 


【スキル発動・千鳥駆け《ちどりがけ》!】


アストラの足元が紫色の閃光を発し、さながら稲妻のような軌道を描き、中空に飛び上がった。

そして、瞬く間にそのイカズチはアラクネの脳天めがけ急降下した。


「ひぎゃあぁぁああぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」


アラクネの断末魔とともに、生贄候補たちを縛っていた蜘蛛の糸がはらはらと解けていく。


「わーん!アストラ~!」


チャラガが駆け寄ってきた。

そしてジャンプして抱きついてきた。


「うぐっ!」

僕は尻餅をついた。


「虫・い・や・ぁ~!!!」


「い、今更???…も、もう死んだから大丈夫だよ…。」


わらわらと生贄候補だった村人たちが集まってきた。

「あの…助けていただいてありがとうございました…!」


みな口々に感謝の念を伝えてきた。

なんだかんだでこのクエストも一件落着か。


僕は、村人たちをなだめるように言った。

「僕たちが来たからにはご安心を。帰路も楽々ですよ!」


さてと、帰りはアリアドネの糸を使って、元来た道を戻るだけ。


…?なんだ?

チャラガの表情がみるみる蒼褪あおざめていく。


「あ、アストラ…これ…」


チャラガの手にはズタズタに裂かれたアリアドネの糸の切れ端が。


そう、アリアドネの糸は、複雑な迷路でも来た道をそっくりそのまま辿ることができる、超絶便利なアイテムなのだ。

これさえあれば、いとも簡単に帰路につくことができ…


「ああああああああああああああああああああ!!!!!」


…なくなってんじゃねぇか!!!


アリアドネの糸が!


八つ裂きに!!


なんで!?

なんで!?


ハッ!!!?


さっき言霊ラップ詠唱の時にがっつり『乱麻らんまを断つ快刀』というワードを入れたのがバッチリとアリアドネの糸に効いちまったらしい。


終わった—————。

僕の目からス—————と涙が流れる。


「どうやってここから帰るんだーーーーー!!!」



*     *     *



これは前世ラッパーだった「俺」が、「僕」アストラとなって、この異世界を大冒険する物語である…。


まずはここまでの経緯いきさつを振り返るとしよう。


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