結婚記念日

ぴろわんこ

第1話

おれと妻は結婚して十年目になる。その記念として、国内一周の船旅に出ていた。

飛行機や列車とは違う趣きがあり、いろいろな名所旧跡も回ることができ、景色も綺麗で本当に計画してよかったと思った。


だが旅の途中で突如天候が悪くなり、船は沈没してしまった。船は大破した。

不幸中の幸いと言うべきなのか、船の板切れが海に投げ出されたおれの所に流れてきた。おれは無我夢中でそれにしがみついた。


妻もその板切れにしがみついてきた。おれは妻を突き飛ばした。二人だと落ちてしまうような小さな板だったからだ。緊急避難としての仕方のない対応とも言えた。


おれだって若い頃は愛する人のために命を捧げたい、言うことは何だって聞くという愛の美学を持っていた。

しかし結婚して十年にもなると、愛も冷めてきて相手の嫌な面もいろいろ見えてくる。

二人には子どももいない。後で弔ってやるからと、妻に犠牲になってもらうことにした。


だが他の板切れに捕まって妻もどうにか助かった。ああよかったね、きみなら何とか自分の力で助かるだろうと信じていたよと取り繕ったが、妻からは冷たい目で睨まれただけであった。

結婚記念日が離婚記念日になった。


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結婚記念日 ぴろわんこ @pirobigdog

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