断ち切られた約束
一ノ瀬 彩音
第1話 美咲と悠人①
私は、小さい頃から、ずっと一緒だった幼馴染の悠人と付き合っている。
彼は、いつも優しくて、頼りになる存在だった。
そんな私たちは、お互いに惹かれあい、付き合うことになったんだ。
だけど、ある日、私が交通事故に遭って、記憶を失ってしまった。
それ以来、悠人のことがわからなくなってしまった。
彼との思い出や自分が誰であるかさえも何もかも忘れてしまった。
でも、そんな私を悠人が支えてくれた。
彼と一緒にいることで、私の心は少しずつ癒されていった。
そして、ついに事故に遭う前の私と悠人の関係を思い出した。
その真実を知った時、私は愕然とした。
まさか、自分が違う人と婚約していたなんて信じられなかった。
私は、どうすればいいのか分からず、悠人の前で泣いてしまった。
それでも彼は、私のことを優しく受け止めてくれた。
その後、私は、自分の本当の気持ちを確かめるためにある行動に出ることにした。
翌日、私は、そのことを彼に打ち明けることにした。
「ねえ、悠人」
私の呼びかけに彼が振り向く。
「……どうしたの?」
彼は、不思議そうな顔をしている。
私は、意を決して口を開いた。
「……あのね、あなたに聞いてほしいことがあるの……」
そうすると、彼は真剣な表情になった。
私も緊張しながら、話を続ける。
「……実は、私、思い出したの……あなたと付き合っていた時のこと、全部思い出しちゃったんだ……」
それを聞いた瞬間、彼の顔が凍りついたように見えた。
私は、続けて言う。
「……ごめんなさい、黙っていて、本当にごめんさない!
でも、これが本当のことなの!」
それから、しばらく沈黙が続いた後、彼が言った。
その言葉に、思わず耳を疑った。
「美咲、思い出してくれてありがとう。これで、僕たちはやり直せるよ」
それを聞いて、涙が出そうになった。
嬉しくてたまらなかったからだ。
しかし、私にはまだ解決しなければいけない問題があった。
そう、彼のことだ。
私は、思い切って聞いてみることにした。
「……それで、あなたはどうするの? やっぱり、別れたい……?」
そうすると、彼は驚いたような表情をした。
そして、すぐに優しい顔になった。
彼は、静かに首を横に振った。
それを見て、私は安心した。
良かった、別れなくて済むんだ、と思った。
それから、私たちは話し合いを始めた。
まず、お互いのことをよく知らなければならないと思い、自己紹介をすることに決めた。
まずは私から始めることにする。
「えっと、名前は佐藤美咲です。
年齢は25歳で、会社員をやっています。
趣味は読書で、特にミステリー小説が好きかなと思います。
あと、特技はピアノを弾くことです。よろしくお願いします」
そう言ってお辞儀をすると、彼も同じようにしてくれた。
次に、彼の番だ。
彼は、微笑みながら話し始めた。
「初めまして、僕は、鈴木悠人と言います。
歳は26歳で、IT系の会社に勤めています。
趣味とかは特にないけど、強いて言うなら、料理することかなぁ。
あとは、スポーツ観戦が好きだね。
あ、そうそう、僕も特技といえば、ピアノを弾くことができるんだ。
今度、聴かせてあげるよ。よろしくね。
それと僕の好きな色は、白と青なんだ。覚えておいてくれると嬉しいな」
そう言って、微笑んだ。
そんな彼を見て、胸がキュンとした。
「はい、楽しみにしてますね」
と言って、私も微笑み返した。
こうして、私たちの新たな生活が始まったのだった。
数日後、私たちは、デートに行くことになった。
場所は、遊園地にした。
久しぶりの外出だったので、とても楽しかった。
ジェットコースターに乗ったり、お化け屋敷に入ったりして、二人ではしゃぎ回った。
最後には観覧車に乗って、景色を楽しむことができた。
すごく幸せな気分だった。
帰り際、駅のホームで電車を待っている時に、悠人から話しかけられた。
「……あのさ、ちょっといいかな?」
私は、何だろうと思って、
「どうしたんですか?」
と答えた。
そうすると、彼は、少し恥ずかしそうにしながらこう言った。
「あの、僕たちって、付き合ってるんだよね?」
突然の質問に戸惑いつつも、私は答えた。
「え、ええ、そうですよ。それがどうかしたんですか?」
と言うと、彼は嬉しそうな顔をして、私の手を取ったかと思うとそのまま自分の方へと引き寄せた。
そして、私を抱きしめたの。
突然のことに、頭が真っ白になってしまった。
しばらくして、我に返ることができたが、心臓がバクバクしていた。
そんな私に構わず、彼は耳元で囁いた。
「好きだよ、美咲。愛してる」
その言葉を聞いた瞬間、顔が真っ赤になり、心臓の音がさらに大きくなったような気がした。
恥ずかしさのあまり、何も言えなくなってしまったが、心の中でこう思った。
(ああ、幸せだなぁ)
それからというもの、毎日のように愛し合った。
時には、激しく求め合うこともあったが、それでもお互いに満足していたと思う。
そんなある日、悠人がこんなことを言い出した。
「ねえ、美咲、お願いがあるんだけど、聞いてくれるかい?」
私は、なんだろうと思いつつ、聞き返した。
すると、彼は照れくさそうに笑いながら、
「実は、君にプレゼントがあるんだ」
と言った。
そう言われても、何のことかさっぱり分からなかったので、聞き返すことにした。
「どういうことですか?」
それに対して、悠人は答える。
「ほら、もうすぐ誕生日だろ? だから、何か贈りたいなぁって思ってさ。何がいい?」
私は、なるほどと思いながらも悩んだ末に、ある提案をした。
それは、一緒に旅行に行きたいというものだった。
せっかく恋人同士なのだから、思い出に残るような素敵な場所に行ってみたいと思ったの。
それを聞いた悠人は、嬉しそうに頷いてくれた。
そして、早速計画を立て始めた。
行き先は、北海道に決まった。
そこで2泊3日の予定だったけど、急遽1週間に変更したのにはびっくりしたわ。
いよいよ出発当日、私たちは、朝早くから空港に向かった。
飛行機に乗るのは初めてだったからドキドキしたけれど、無事に離陸することができた。
機内では映画を見たり、音楽を聴いたりして過ごしていた。
途中、悠人に手を握ってもらったりしたおかげで、安心して眠ることができたのはありがたかった。
そうして、数時間後、目的地に到着した私たちは、レンタカーを借りて、ホテルへと向かった。
部屋は広く、窓から見える景色も最高だった。
荷物を整理した後、さっそく街へ出かけることにした。
「わぁ、すごいですね!」
思わず声を上げてしまったほど、賑やかな街並みだった。
あちこちから、美味しそうな匂いが漂ってくる。
そんな中、私たちは、レストランで夕食を食べることにした。
メニューを見ながら、何を食べようか悩んでいたら、悠人が話しかけてきた。
「どうしたの? 迷ってるなら僕が決めてあげようか?」
と言われたので、お言葉に甘えて選んでもらうことにした。
しばらくすると、注文したものが届いたので食べ始めることにしたのだが、
どれもこれも美味しいものばかりで、ついつい夢中になってしまった。
食事を終えた後は、夜景を見に行ったりもしたが、それよりも疲れの方が勝ってしまい、
早めに寝ることになってしまった。
翌朝、目が覚めると、隣に悠人がいたのでドキッとしたが、
「おはようございます」
と言いながら頭を撫でてくれたので、嬉しくなった。
それから身支度を整えた後、朝食を食べて出発した。
今日は一日かけて観光する予定なので、気合いを入れて頑張らないといけないと思っているうちに最初の観光地に着いたようだ。
そこはガラス細工で有名なところで、たくさんのお店があった。
その中でも一番興味を持ったのは、宝石店である。
色とりどりの綺麗な石がたくさんあって見ているだけでも楽しい気分になれるの。
私がうっとりと眺めている横で、悠人はネックレスを買っていたようだった。
その後は、また別の場所に移動して、ショッピングをしたり食事を楽しんだりと充実した時間を過ごしていた。
あっという間に時間が過ぎていき、夕方になるとホテルへと向かうことになった。
「今日、楽しかったね」
そう言いながら、車を走らせる彼を見ていると、愛おしさがこみ上げてくるのを感じた。
そして、部屋に戻った私たちは、シャワーを浴びることにした。
先に浴びさせてもらった私は、ベッドで待っている間、期待に胸を膨らませながら悠人が来るのを待っていた。
やがてドアが開き、彼が入ってきた。
その瞬間、鼓動が激しくなるのが分かった。
これから起こるであろう出来事を想像してしまい、身体が熱くなるのを感じる。
彼はゆっくりと近づいてきて、私の横に座った。
そして、優しく抱きしめてくれる。
それだけで、幸せな気分になることができた。
しばらくそうしていると、不意に唇が重ねられた。
最初は軽く触れるだけのキスだったが、次第に深いものに変わっていく。
舌が絡み合い、唾液を交換しあう濃厚なものへと変わっていった。
息が苦しくなってきた頃、ようやく解放された。
はぁはぁという息遣いだけが聞こえてくる。
それから、私たちは見つめ合った後、もう一度キスをした。
今度は軽いものではなく、貪るような激しいものだった。
舌を差し込み、歯茎や上顎を舐め回すようにして蹂躙していく。
口の端からは涎が流れ出していたが、そんなことは気にならなかった。
むしろ、それすらも興奮材料になっていたからだ。
私は必死になってそれに応えようとするものの、上手くいかない。
逆に絡め取られてしまい、されるがままになってしまう始末だ。
それでも必死に応えようとしていると、突然、口を離された。
名残惜しそうな顔をする私に、彼は言った。
「まだキスしよう、美咲」
「はい、お願いします」
私は喜んで応じた。
再び唇を重ね合わせると、すぐに舌を絡めてきた。
お互いの口の中を探り合うようにしながら、何度も繰り返す。
「悠人……そろそろ寝ようよ、ね?」
「うん、そうだね」
と言って、電気を消すと、ベッドに入り、抱き合いながら眠りについた。
「おやすみ、悠人……」
そう言うと、彼も返事をしてくれた。
「んっ……あふっ……」
(あぁ、もう朝かぁ……)
カーテンの隙間から差し込む朝日を浴びて目を覚ますと、目の前には愛しい人の寝顔が見えた。
その安らかな表情を見つめながら、私はそっと手を伸ばす。
指先で頬に触れてみると、柔らかい感触が伝わってきた。
そのまま首筋を通って鎖骨を撫で下ろすと、
「んんっ」
とくすぐったそうに身じろぎする。
そんな仕草すら愛おしく思えてきて、つい笑みが溢れてしまう。
「ふふっ」
と笑っているうちに目が覚めてきて、ふと時計を見ると、時刻は午前7時を指していた。
「おはよう、悠人。今日はどうするの?」
「うーん、そうだなぁ……とりあえず朝ごはんを食べに行こう」
と言われ、二人で食堂へ向かったのだった。
(どうしようかしら……?)
そんなことを考えているうちに、料理が運ばれてきたため、食べることにする。
味はとても美味しかったけれど、それ以上に気になることがあったの。
それは、周りの人たちの視線だった。
みんなこちらを見てひそひそ話をしているように見えるし、中にはスマホを構えている人もいるみたい。
特に男性客が多い気がするんだけど気のせいだろうか。
まあ、いいかと思い直して食事を続けることにしたのだが、途中で声をかけられたことで中断せざるを得なくなったのである。
「あの、すみません」
声のした方を向くと、そこには若い男性が立っていて、こちらを見下ろしていた。
身長はかなり高く、180センチ近くあるのではないだろうか。
年齢は20代前半といったところだろう。
顔は整っており、いわゆるイケメンと呼ばれる類の人物であった。
服装もお洒落であり、いかにもモテそうな雰囲気を漂わせている。
そんな彼に対して警戒心を抱きつつも、私は平静を装って返事をした。
「……はい、なんでしょうか?」
すると、男性は爽やかな笑みを浮かべながらこう言ってきた。
「突然話しかけてしまって申し訳ありません。実は、あなたに一目惚れしてしまったんです!
もしよろしければ、連絡先を教えていただけませんか?」
それを聞いて、私は困惑した。
まさかこんな場所でナンパされるなんて思ってもみなかったからだ。
しかも相手はかなり格好良い青年だし、断る理由も見つからない。
どうしたものかと考えているうちに、悠人が助け舟を出してくれた。
「ちょっと、いきなり何なんですか? 失礼じゃないですか」
私は悠人の後ろに隠れるようにして、彼の服の裾を掴む。
それを見た青年は、少し残念そうな顔をしながら去っていった。
それを見てほっと胸を撫で下ろしていると、悠人から話しかけられた。
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