第2話 肝試し(1)


「案外、簡単に潜入できたな♪」


 と雷翔。まるで極秘任務を遂行しているかのように楽しそうだ。

 俺としては、別に雷翔のことが心配でついてきたワケではない。


 真っ暗な夜の博物館。懐中電灯の明かりだけが頼りだ。

 足元を照らし、周囲を警戒する。そんな中、


「ねぇ、大丈夫なの?」


 と不安そうな声音で俺を盾にしながら、後ろに隠れているのは同級生の女の子『風花ふうか』だ。シャツが伸びるので、あまり引っ張らないで欲しい。


 どうやら、小学生の弟が『子供たちだけで肝試しをする』そうだ。

 俺たちは『その現場を押さえに来た』といった状況である。


 部屋でゲームをしていたのだが、俺の台詞セリフ流石さすがの雷翔もゲームをする気ががれたようだ。


 やっと勉強する気になったのか?――と思いきや、そんなことはなかった。

 あの後、俺は雷翔から強制的に『幽霊が出る』といううわさの洋館へ連行される。


 日中ということもあり『幽霊なんか出ない』というのが雷翔の理屈らしい。

 俺が警戒しているのは、不審者などの生きている人間の存在だ。


 生憎あいにくと幽霊のたぐいは信じていない。

 洋館の正門にはくさりかれ、入れないようになっていた。


 監視カメラはないようだ。すぐに帰るのもそんをした気分になるので、俺は――うわさの原因となる痕跡こんせきはないか?――と周囲を探索する。


 そして偶然、出会ったのが彼女である。


「もしかして、白夜くん?」


 お願い、助けて――と頼られてしまったワケだ。

 ずかしながら小学生の頃、少年探偵団を結成していた過去がある。


 それが理由で、たまに依頼を受けることがあった。

 基本は無報酬の慈善活動ボランティア


 同級生の女子から俺に対しての相談だったのだが、


「任せておけ!」


 と何故なぜか雷翔が了承する。

 思えば昔から、こういう事に首を突っ込みたがる性分しょうぶんだった。


 学校や親に言って、めさせるのがすじなのだろう。

 だが、その場合、イジメに発展する可能性もある。


 自分たちだけの秘密の計画。それがアイツの所為せいで中止になった。

 そうなれば、うわさだけが独り歩きするだろう。


 教師や保護者から――もう洋館には近づくな!――と言われた。

 そんな結果になってしまえば、風花の弟が、皆から責められる可能性は高い。


 ちょっとしたことがけで孤立するのは、よくあることだ。

 そもそも風花の話によると、その友人は夜中に家を抜け出しても、親にバレないような人物ときている。


 親が夜遅くまで働いているか、夜に親がいないのだろう。

 人様の家の事情をとやかく言いたくはないが、育ちはあまり良くなさそうだ。


 大事にならないよう穏便おんびんに済ませる方がいいだろう。

 小学生の人間関係は学校が基本である。


 少なくとも高校生になるまでは学校の交友関係から逃げることが出来ない。

 俺たちの勝手な正義感の結果から、周囲から孤立してしまっては罪悪感が残る。


 正しいことが必ずしも、良い結果を生むとは限らない。

 かつて名探偵に憧れていた俺が知ったことだ。


 師匠は言っていた――探偵は解決するだけだ――と。

 本当の意味で人を助けることが出来るのは、人間だけである。


 今の俺は、その時の経験をかして、行動しているに過ぎない。

 人を助けるためには、悪になることも必要だ。


 ただ、俺がそう考えてしまったことが、アイツとの決別になってしまう。

 結局、俺の『不完全せいぎ』が探偵団を壊してしまった。


 性格がひねくれてしまったのも、俺が多くの他人の不幸を見てきた結果といえる。

 探偵とは、依頼の数だけ、不幸にたずさわる仕事だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る