円環世界の星霊使い

神霊刃シン

円環世界(リングテイル)の星霊使い(ウロボロス)

現代

第1話 日常


 梅雨つゆも明け、夏休みが近づいたある日

 俺たちは、今日も部屋でゲームをしていた。


 別に時間を無為むいに使っているワケでも、浪費ろうひしているワケでもない。

 まだ子供である俺たちにとっては、こういった遊びも必要なのだ。


 そもそも、男子中学生の日常など、こんなモノだろう。


「なあ、『白夜びゃくや』」


 とゲーム機を操作しながら、友人である『雷翔らいと』がたずねてくる。

 部屋には俺たち二人しかいない。


 また、脈絡みゃくらくのない思い付きで質問をするのだろう。床に寝転がったまま、クッションを枕替まくらがわりにして、だらしない姿勢をとっている。


 俺も自分の寝台ベッドの上で、仰向あおむけになった姿勢でいるため似たようなモノだ。

 面倒だと思いつつも、


なんだ?」


 聞いてやるから、言ってみろ――そんな意味合いニュアンスで俺が返答すると、


「どうしてオレたちは、いつも部屋でゲームをしているんだろうな?」


 案の定、くだらない質問をしてきた。

 いや、もしかして哲学だろうか?


 『なんのために人は生きるのか』『どうして人は死ぬのか』など、中学生なら一度は考える。思春期特有の精神状態だ。


 しかし、雷翔に限っては、そのような考え方を持つハズもない。


「貧乏だからだ」


 と俺は即答する。

 もちろん『公園で遊ぶ』だの『図書館で勉強をする』という選択肢もあった。


 だが、そうなってしまう原因は、お金がないからだ。

 よって、貧乏が正解だろう。


 お金さえあれば『映画』や『ゲームセンター』、『カラオケ』に『ボーリング』など、出来ることが増える。


「貧乏じゃなければ、もっと別のことをしているだろ?」


 と言って、俺は自分の回答に対して補足をした。

 なるほど!――と納得する雷翔。


「確かにかねがあれば、ゲーム会社を買収して、オレの好きなRPGの続編を作らせることが出来る!」


 などとスケールの大きなことを言い出す。

 バカなのか天才なのか、いまいち分からない発言だ。


 それは結局『ゲームをする』ということにつながると思うのだが――

 余計なことを言わず、俺は黙ることにした。


「でも、なんで貧乏なんだ?」


 再び、雷翔が聞いてくる。そんなことは、お前の父親に聞け――と言いたい所だが、俺はえて答えることにした。


 結局、俺もひまなのだろう。


「日本人が貧乏なので、俺たちは普通だ」


 つまり皆が貧乏になった――そんな風に説明をしてみる。

 丁度、ゲームもきていたので、気分転換も兼ねて、俺は上半身を起こした。


 一方で雷翔は納得していないようだ。

 まあ、自分で『貧乏だ』と言うのはいいが、他人ヒトから言われると気分は良くない。


 なので俺は、


「今は年収が五百万あれば中流階級だからな」


 共働きして、それくらい収入があればいい方だ――と答える。

 勿論もちろん、雷翔の家の年収など、俺は知らない。


「だから、六百万以上年収があると『自分は上流階級だ』と勘違いするらしいな」


 勘違いした親が子供に習い事をさせて、そこで周りと違うことに初めて気が付く場合ケースがあるみたいだ――と俺はそんな話をして、論点ろんてんをズラす。


 自分たちが『なぜ貧乏なのか?』そんな話をしてもむなしいだけである。


「俺たちの世代なら、結婚だけは早めにして、夫婦でお金をめるのが賢い遣り方なんじゃないのか?」


 そう言って立ち上がると、俺は身体を伸ばし、ストレッチを始めた。

 二人で暮らせば、家賃や生活費の負担が減るだろうし、家事も分担できる。


 都会であるのなら、実家暮らしも手だが、逆に家から出ていく機会を見失いそうだ。


 ――などとネットで見た情報を、それっぽく言ってみる。


「二人で働けば、一千万くらいならめられるハズだ」


 子供を育てるのは、お金も労力も必要だから、作るのはそれからだろう。

 逆に貯められないのなら、子供を育てるのは難しいかもしれない。


 離婚する可能性や、結婚してから相手が豹変ひょうへんする場合もある。結婚が必ずしも幸せになれるモノではないことは、今の時代、子供でも知っていることだ。


 少子化だと騒いでいるが、ずっと前から分かっていたことである。

 核家族が普通になったので、孤独に耐性のある大人が多いのも要因だろう。


 ネットがあれば、一人でも平気なようだ。

 よって、結婚はデメリットの方が多い印象になってしまった。


「今の時代、中間層は大企業のエリートやホワイトカラーの人たちだからな」


 これだけ伝えれば、雷翔も勉強する気になるだろうか?

 直接、勉強しろと言っても、本人にヤル気がなければ意味はない。


「じゃあ、金持ちになるには、どうすればいい?」


 と雷翔。もっともな質問である。

 女性の場合は、金持ちと結婚する方法があるだろう。


 だが、俺たちは男だ。


「弱いヤツをみ台にして、上の連中を引きり下ろすしかないな……」


 それと一緒だ――とゲームのランキング画面をながめていた雷翔に、俺は告げる。


世知辛せちがらいな」


 とつぶやく雷翔。俺は鼻から息をいた後、


「ああ、世知辛せちがらい」


 そう言って、同意する。

 なにやら話が辛気臭しんきくさくなってしまった。


 雷翔は、そんな空気が嫌だったようで、


「そういや、うわさで聞いたんだが――」


 と別の話を始める。

 これだけ話をして『勉強しよう』と思わないのは、ある意味、尊敬そんけいに値する。


 雷翔の話によると、どうやら山の中にある古びた洋館――元博物館――に幽霊が出ると、小学生たちの間でうわさになっているようだ。

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