20作品目「低予算映画」

連坂唯音

低予算映画

Aカメ 

 長い黒髪の人間が映っている。その人間の背後から太陽がさしこんでいる。

「ねえ、聞いているの! 私のこと愛しているの?」

「君のことは愛しているさ! でも、僕は明日にはアフリカへ飛行機でいかなければならないんだよ」

「私もついていく!」

「だめだ! 危険な仕事なんだ。君の命が危険にさらされることになる。君を失いたくない」

「だから私を見捨てるわけ?」

「そうは言っていないだろ! 君と離れ離れになって愛をがまんするくらいなら、君と別れたいんだ」

「つまり私のことを愛していないってわけね」

「違う! 愛しているさ! だからこそ、僕と君はここでけじめをつける必要があるんだ」

「あなたの言っていることは無茶苦茶だわ!」

「君のほうこそ、支離滅裂だ」

「あなたなんか、もう知らない! アフリカでもアマゾンでも行って、カバにでも食われてしまえばいいわ!」

「カバはアマゾンには生息していないよ!」

「知らないわよ! さよなら」

「あっ、待てよ汐里! どこへいくんだ!」

 黒髪の人間が消えた。どこかへ行ってしまったようだ。そこで声が入る。

「ハイ、カット!!」男の声が聞えた。

 長い黒髪の人間が再び現れた。笑顔で「お疲れ様でーす」と同じ声で白い歯を見せる。



Bカメ

 『I wish to be hippopotamus 』と書かれたTシャツを着た人間が映っている。顔から太陽光を浴びる。

「君に僕の気持ちなんて………………」

「ねえ、聞いているの! 私のこと愛しているの?」

「君のことは愛しているさ! でも、僕は明日にはアフリカへ飛行機でいかなければならないんだよ」

「私もついていく!」

「だめだ! 危険な仕事なんだ。君の命が危険にさらされることになる。君を失いたくない」

「だから私を見捨てるわけ?」

「そうは言っていないだろ! 君と離れ離れになって愛をがまんするくらいなら、君と別れたいんだ」

「つまり私のことを愛していないってわけね」

「違う! 愛しているさ! だからこそ、僕と君はここでけじめをつける必要があるんだ」

「あなたの言っていることは無茶苦茶だわ!」

「君のほうこそ、支離滅裂だ」

「あなたなんか、もう知らない! アフリカでもメキシコでも行って、カバにでも食われてしまえばいいわ!」

「カバはアマゾンには生息していないよ!」

「知らないわよ! さよなら」

「あっ、待てよ汐里! どこへいくんだ!」

 Tシャツの人間がカメラの前で叫ぶ。そして、

「ハイ、カット!」と手をたたく。男は背筋を伸ばして、

「いやー、台詞まちがえちゃったよ。もう一回取り直ししなきゃなあ」

 とこちらへ手を伸ばす。

「いや、少し変更して取り直した方がいいかな」

 と映る景色がよこにずれる。

 男が戻ってくる。手には黒髪のカツラがあった。それを頭に被せる。

 そして手をこちらへ向けて、

「よーい、アクション!」と手をたたいた。


Aカメ

 長い黒髪の人間が映っている。背後から太陽がさしこんでいる。

「ねえ、聞いているの! 私のこと愛しているの?」

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20作品目「低予算映画」 連坂唯音 @renzaka2023yuine

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