第3話
泣き疲れたのか赤ん坊が眠りに付いた頃、ようやくサリアの涙も止まった。
それと同時に耐え難い怒りが湧いて来た。許せない。乙女心を弄んだだけでなく、実家にまで害を及ぼそうとしているあのクズ男が。
なんとしてでもこの屋敷を抜け出し、両親にこのことを知らせなければ。この子の、ステファニーのためにも。ステファニーにはなんの罪もないし、ここは赤ん坊を育てるには相応しくない場所だ。
学園を卒業仕立てでまだ18歳のサリアには、当然ながら子育てに関する知識が全くない。子育ての経験があるサリアの知り合いといえば自分の母親ぐらいのものである。
サリアは泣き疲れて眠るステファニーを優しく見詰めながら、実家に帰ろうと決意した。そして自分がこの子のママになろうと誓った。
ステファニーを起こさないようにゆっくりと歩きながら、サリアは屋敷の玄関の方に向かって行った。
「おいおい、こんな遅い時間にお出掛けかい? 止めときなって」
「大人しく部屋に戻んな。怪我したくねぇだろ?」
「寂しくて仕方ないなら俺らが相手してやってもいいぜぃ。ヒッヒッヒッ!」
玄関の扉の前にはデュランが雇ったという見張りが三人待ち構えていた。三人共どう見ても破落戸にしか見えない。
ニヤニヤとゲスい嗤いを浮かべながら近付いて来る。子守りを雇う金は無くても、こういった輩を雇う金はあるらしい。
「そこを退きなさい。私はこの屋敷を出て行きます」
「そいつぁ聞けねぇ相談だなぁ。ここの旦那からはお前さんを外に出すなって言われてんでなぁ」
「優しく言ってる内に退きなさい。さもないと痛い目を見ますよ?」
「ヘッヘッヘッ! どう痛い目を見せるっていうんだぁ!? 見せて貰いたいもんだぜぃ! あべしっ!」
「こ、この野郎! ふ、ふざけやがって! たわばっ!」
「て、てめえ! 一体何者だ!? ひでぶっ!」
三人がそれぞれ吹っ飛ばされた。サリアは構えていた右足をそっと下ろし、
「良く覚えておきなさい。子を守る母親はなによりも強い存在だってことを」
そう言ったが、見事にノビてしまった三人の耳には届いていないだろう。
デュランはサリアのことを良く知らなかった。サリアの実家である男爵家がどうやって財を成したかということについても。
実はサリアの実家である男爵家は、代々武に秀でた家系なのである。その特性を生かし、主に傭兵として各地に出向いては功を立てて来た。そうやって築き上げた財産なのであった。
そんな家に生まれたサリアは、女だてらに幼い頃から厳しい戦闘訓練を受けて来た。赤ん坊を抱いて両手が塞がっていたとしても、華麗なる足技を披露すればこんな破落戸共に遅れを取ることなどない。
サリアは悠々とした足取りで屋敷を後にした。
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