アイドルと女プロデューサー〜ねぇ、私達のこれからも一緒にプロデュースしてくれる?〜

路地裏の本棚

これから、ずっとずっと一緒だよっ!

 私、小鳥遊たかなし瑠璃るりは今年で20歳のアイドル。都内の芸能事務所に5年前にスカウトされてデビューしてから地道に活動を続けた努力が報われ、瞬く間に人気になった。


 これは私1人の実力じゃない。私を応援してくれてるファンの皆、ライブの時に準備してくれるメイクさんや衣装係といった裏方の皆さんの力あってこそ。


 そして何より、デビューしてからずっと私を支えてくれてるの献身が大きな原動力になった。


「瑠璃ちゃ〜ん‼︎」

「真昼ちゃん、どうしたの?」


 バタンっ‼︎ と事務所の打ち合わせ室のドアを開けて入ってきた小柄で童顔な私のプロデューサーの小此木おこのぎ真昼まひるちゃんは、カバンから一束の書類を渡してくれた。


「……これって……‼︎」

「そう。半年後に東京ドームのライブ決定よっ‼︎」

「と、東京ドームっ⁉︎」


 突然のことに飛び上がった私。真昼ちゃんは大きくて丸い目を輝かせながら私を見つめる。


「それだけじゃないわ。今回に合わせて新曲を作るんだけど、作詞をしてみないって話もあるの」

「作詞……私の歌詞を使った新曲が世に出るのねっ⁉︎」

「そうよっ。やってみない?」

「やるっ‼︎ やってみたいですっ‼︎」


「ここが瑠璃ちゃんのこれまでの活動の集大成で、新しいアイドル人生のスタート地点になるわよっ‼︎」

「うんっ! 俄然やる気になったわっ‼︎ 私、頑張るわっ‼︎」

「私も精一杯、力になるわっ‼︎」

「愛してる❤️ 真昼ちゃん❤️」

「私も愛してるわ❤️」


 真昼ちゃんと私は嬉しさの強く思いっきり抱き合った。そう。実は私と真昼ちゃんは付き合ってるの。



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 確か私が真昼ちゃんに好意を持ったきっかけは、デビューして1年が経とうとしてた頃かな。その時から真昼ちゃんの私推しが凄かったけど、私にとってはあくまでも「プロデューサーさん」という関係性を超えるものじゃなかった。


 でもずっと私を支えてくれて、どんなことがあっても励ましたり、時には私を気遣って大人な対応もしてくれる、一番身近で私を応援してくれる素敵な人だ。一見小柄で童顔だからそう見えないっていう人もいるけど、アイドルに憧れていた私をスカウトしたのも、ここまで引っ張ってくれたのも真昼ちゃんあってこそ。だから感謝しても仕切れないわ。


 そんな時だっけ。今日と同じように打ち合わせ室で真昼ちゃんがこんな提案をしてきたの。


「動画サイトに新曲PVを上げるんですか?」

「うんっ! 今度の新曲は瑠璃ちゃんの魅力を最大限に引き出すことをコンセプトにしてるのっ。PVもそれに合わせたものになるわっ‼︎」

「私の魅力を、最大限に引き出す新曲とPVですか……」


 この時の私は、小規模なライブハウスや地域まつりのミニライブに出続け、ネット上でそこそこの認知度を獲得し始めてた。でも収入で言えばそこまでいいものじゃない。


 今でこそ私以外に12人の後輩がソロアイドルとしてデビューもしてるし、社員も40名を超えてるけど、当時の事務所は小規模、というより所属アイドルが私だけで、社長は真昼ちゃんのお姉さんがやっていて、それ以外で社員は真昼ちゃんだけ。


 それもあって経営は厳しかった。だから今回のPVと新曲にかける真昼ちゃんの意気込みはこれまで以上に熱がこもってた。背水の陣ってつもりだったと思う。それはあの時の私にもはっきりと分かった。


「……このPVが、新曲がいい再生回数に行かなかったら、どうなるの?」

「いい再生回数にして見せるわっ! だって瑠璃ちゃんがこんなに可愛くてバスト98cmの巨乳で背も高くてスタイル抜群でダンスも歌も上手で、何より声も綺麗なんだもんっ‼︎」

「ちょ、小此木さん、早口アンド大声でちょっと耳が……」

「むぐぐ……」


 真昼ちゃんの口を押さえてボリュームを下げようとする私。そういえばスタイルがらみで当時から今に至るまで、真昼ちゃんにはお触りされまくってたっけ。彼女曰く「衣装サイズを正確に伝えるには日々確認しないとっ❤️」って鼻息荒くして、ね。


 思えば当時から真昼ちゃんの人となりはこんな感じだった。私を輝かすって情熱は本当に熱くて激しい。ちょっと引くこともあったけど、私の認知度を上げる為に奔走して実現し続けた原動力でもあるから、とても感謝してる。


「でも、それには瑠璃ちゃんに確認しとかなきゃいけないことがあるの」

「そ、それは?」

「あのね……」


 周囲を確認し、私の耳元でその提案を話してくれた真昼ちゃん。けど内容を聞いた途端、私は耳から全身まで火照った。


「そ、それって、その、あの……」

「無理ならコンセプトを変えるわ。真昼ちゃんの魅力を伝えるのに、真昼ちゃんが嫌なことなんてできないものっ!」


 正直、超恥ずかしい。でも真昼ちゃんは私の魅力を誰よりも知っている。


「それで、挑戦してみる?」

「……やります。ここで全力を出し切って、絶対に次に繋げて見せます」


 私を応援してくれるファンの為に今持てる全てをぶつける。そんな思いが私を突き動かした。そして次の日になってPV撮影は1ヶ月半後に決まったと真昼ちゃんから説明を受け、今後のレッスンスケジュールの確認を行った。



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 そして迎えた撮影日。スタジオの控え室に用意された衣装を着た私は、鏡の前で自分の姿を確認して改めて火照った。


(ううっ。やっぱり恥ずかしい/////)


 私に用意された衣装は、赤と白を基調としたフリル付きのチアガールコスチューム。同じカラーリングのニーソとスニーカーも特徴的だ。


 でも問題はその丈。上は下乳が丸出しになる程短く、スカートも膝上25cmの超ミニ。色々見えちゃってる。一応下に白ビキニを着ているから完全なるポロリは避けられるけど、それでも際どすぎる。


『着替え終わった〜?』


 外で待ってる真昼ちゃんが声をかけた。


「は、はいっ。いいですよ」


 私がOKを出すて真昼ちゃんが入ってくるや否や、彼女の目はハートマークになってた。


『うんうんっ‼︎ これこれっ‼︎ これこそ瑠璃ちゃんの魅力っ‼︎」

「あ、ありがとう、ございます」


 この間時真昼ちゃんが耳元で言ったPVの内容、それは間違いなくこの身体を最大限魅せること。


「瑠璃ちゃんの歌やダンスのレベルは高いわ。多分、第一級の実力がある。でもそれだけだと普通の上手なアイドルで終わっちゃう。それは瑠璃ちゃんも嫌でしょ?」

「え、ええ」

「だからまずはこのPVで真昼ちゃんの一番目立つ魅力を見せつけるのっ! ダンスで盛大に揺れる巨乳を、適度な太さで触りたくなる太ももを、縦長のおへそと細い腰を、全世界へねっ‼︎」

「ま、真昼さん、恥ずかしい/////」


 熱弁する真昼ちゃんの勢いに戸惑う私。でもそうの言葉は真剣そのもの。多少の邪念がない訳じゃないけど。


「で、でも、改めて考えても私の身体を前面に押し出すのって、真昼さんも大胆ですよね」

「時には思い切ったプロデュースの方法も必要と思ったからよ。それに瑠璃ちゃんは決めたんでしょ?」

「……はいっ。より自分をアイドルの高みに行くなら、ここで恥ずかしさに負けないようにしなきゃ」

「……やっぱり私、瑠璃ちゃんをスカウトして正解だったって思うわ。その真っすぐさが私の心を動かしたんだもの」


 しみじみと語る真昼ちゃん。スカウトされた時は確かに戸惑ったけど、元々アイドルが大好きだっただけに凄く嬉しかったし、パパもママも私がアイドルになることには全面的に賛成して応援してくれてる。だからやるからには徹底的にやる抜きって決めてた。


「あと15分で撮影開始よ。緊張は大丈夫?」

「ちょ、ちょっとだけ、かな?」

「じゃあ、真昼ちゃんパワーを注入するわっ!」

「えっ? きゃ!」


 急に真昼ちゃんが私の胸や太ももに手を這わせてきた。


「ちょ、真昼さん?」

「うんうん。やっぱり瑠璃ちゃんは可愛いなぁ❤️」


 そう言いながら私の下乳を揉んだり撫でたりする真昼ちゃん。


「ず、随分胸を撫でてますけど、これって……?」

「PVにダンスで盛大に揺れる胸に活力を与えてぇ、次は綺麗ですべすべなお腹を触ってぇ、そしてこのいい太さの太ももにもスリスリとぉ❤️」


 夢中になって今まで以上にお触りをする真昼ちゃん。この時のねっとりした触り方は今思い出してもちょっとエッチだなぁ、って思った。


「どう?」

「う〜ん……くすぐったかったけど、不思議です。今までよりも安心するっていうか……」

「でしょ? これこそ真昼ちゃんパワー❤」

「ふふっ、真昼さんって時々不思議なことをするけど、いつも私に勇気と癒しを与えてくれますよね」


 にっこり微笑みながら真昼ちゃんにそう言うと、彼女は満面の笑みで目に涙を浮かべた。その可愛らしさに思わずドキッとした。


「ううっ、嬉しいっ!」

「真昼さん……」

「私ね、瑠璃ちゃんのプロデューサーとして頑張ってきてよかったって思ってるのっ! こんなに素敵な子をアイドルとして成長していくのを間近で見守り続けてきたんだものっ」


 涙を拭いながら私に語る真昼ちゃん。確かにデビューしてからこの時までの2年間で、認知度はそこそこだけど、実力を身に付けさせてくれたのは間違いなく真昼ちゃんのプロデュース能力が大きい。有名なダンストレーナーさんやボイストレーナーさんとのレッスンだって、真昼ちゃんの交渉力あってこそ実現したもの。


 それを思い出すと、急に真昼ちゃんを見る目が変わってきた。それは確かに「恋」と呼べるものを初めて彼女に抱いた瞬間だったかも。


「本当はここで抱き着きたいんだけど、私の涙で衣装を汚すわけにはいかないわっ!真昼ちゃんパワーは送れるだけ送ったわっ! 瑠璃ちゃん、頑張ってねっ!」

「真昼さん……はいっ‼ 見ててくださいっ!」


 真昼ちゃんに見送られながら、私はスタジオに向かった。



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 結果としてPVはSNSで話題になり、公開してから2か月で300万再生をされる大ヒットとなったわ。ネット上では「巨乳アイドル現るっ!」とか「これは興奮するぞっ!」とか「同性でも見とれちゃう身体だよっ!」と、第一に身体の感想が目立った。


 それでもやがて「この子の歌とダンスって凄い上手じゃない?」っていう、ダンスや歌に関する感想も次々とされるようになった。


 この後も私の新曲は動画サイトにアップする方向で出し続けて、いずれも200万再生を突破した。その上で音楽アプリでも必ずトップ10に入るくらいになった。社長を務める真昼ちゃんのお姉さんにも「遂にうちの事務所から人気アイドルが出てきて、私としても鼻が高いわ」とお褒めの言葉もいただいた。


 そして最初のPVの再生回数は、公開してから半年後の8月には1000万再生を叩き出していた。


「瑠璃ちゃんっ‼」

「真昼さん……」

「やったねっ‼ ついにここまで来たねっ‼」


 真昼ちゃんは私に思いっきり抱き着いた。


「はいっ。私も嬉しいですっ! 自分のPVがここまで再生されるなんて……正直、最初は自分の身体の魅力だけしか見られないって思ってましたけど、まさか歌とダンスにも注目されるなんて……」

「ファンになる入り口がどうであれ、そこからその人の別の魅力を見出すことが出来れば、それは間違いなくこれからの瑠璃ちゃんの人気を生み出す大きな原動力になるわっ‼」

「真昼さん……ううん。ありがとう、真昼ちゃん」

「えっ?」


 急に私にちゃん付けされてポカンとする真昼ちゃん。


「その、これまでもPV撮影の時に私のことを色々と勇気づけてくれたでしょ? それに真昼ちゃんパワーもあれからずっと貰ってきて、貰いっぱなしってのもどうかなって思って、単なるアイドルとプロデューサーって関係性だけじゃ収まらない気持ちもあるって言うか……」

「それって、つ、つまり……/////」

「……アイドルとしてこんなことを言うのはダメなのは分かる。分かるんだけど言わせて」


 一回深呼吸して、真っすぐに真昼ちゃんを見つめる私。


「……これからも、ずっと私と一緒にいて欲しいの。プロデューサーとしてだけじゃなくて、恋人として」

「えっ、えっ、えぇ~~~~⁉」


 突然の告白に仰天して目を丸くする真昼ちゃん。


「そそそ、それは私としても嬉しい限りだけど、その、アイドルとプロデューサーって前に、女の子同士でって……」

「ダ、ダメ?」


 目をウルウルさせて真昼ちゃんを見つめる私に、彼女は身体を震わせつつも声を絞り出した。


「……ふ、2人だけの秘密、だよ?」

「ありがとう、真昼ちゃん❤️」


 そう言いながら、私は真昼ちゃんとキスをした。



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 あれから4年。テレビの音楽番組やバラエティ番組への出演や、アイドル達が毎年夏に出演する大きなイベントにも呼ばれたりと大忙しになった。後輩達も出来て、事務所を背負うアイドルとしての責任も重くなった。


 時には挫けそうになることもあったけど、いつでも私を真っ先に励ましてくれたのは真昼ちゃんだった。真昼ちゃんの存在無しに、今のアイドルとしての私はあり得ない。


 それこそ今日のように。東京ドームでのライブをするなんて夢物語になってたと思う。


「遂にここまで来たわね、瑠璃ちゃん」

「うん。こんなに私を応援してくれるファンがいてくれて嬉しいわ。メイクさんとヘアメイクさんも私を素敵にしてくれたし」

「この衣装も本当に可愛いわよ❤️」


 ステージの袖で多くのファンの姿を見ながら話す私と真昼ちゃん。彼女が言った私の衣装は全部で6着用意されてるけど、今着てるのはピンクをメインにフリルをあしらったワンピース衣装。お嬢様結びの髪と大きなピンクのリボンも特徴的だ。


 この衣装を着て最初に歌う曲は、私が作詞した新曲だ。それは恋愛ソングで、真昼ちゃんへの想いを歌詞に込めたものだ。


「瑠璃さんっ! そろそろお願いしますっ!」

「はいっ! じゃあ真昼ちゃん、行ってくるわっ!」

「うんっ、頑張ってね、瑠璃ちゃんっ!」


 真昼ちゃんからのエールを受けて私はステージに立った。真昼ちゃん。これからもずっとずっと一緒だよっ!私のことをアイドルとしても、人生のパートナーとしてもプロデュースし続けてねっ❤️

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アイドルと女プロデューサー〜ねぇ、私達のこれからも一緒にプロデュースしてくれる?〜 路地裏の本棚 @gonsuke2001

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