足踏みをするのが癖で手放したけれども僕は変わっていくよ

足踏みをするのが癖で手放したけれども僕は変わっていくよ


【足踏み】

 幼い頃から足踏みをしてしまうのが癖だった。分からないことに対して挑戦するのが非常に怖かった。故に僕は小さい頃から経験するチャンスを手放してきた。


 僕はいつもの大きな木の下にあるベンチに座りながらおにぎりを小さな口で食べていく。柔らかなお米と甘さを持った卵が僕の味覚を刺激していく。けれど、僕の表情は何時もよりも固かった。


 たまには学校の学食で食べてみるべきだろうか。いや、人と喋ることが苦手である以上行かない方が良いだろう。僕はそんな風に言い聞かせながらおにぎりをまた食べ始める。


「隣、良いかな?」

「はい」


 制服を着た女性が隣に座ってきた。お弁当を膝に置き蓋を開ける。中にはおにぎりが二つ入っていた。おにぎりなんだと思いながら眺めていると女性が口を開く。


「おにぎりってさ。その人が愛情込めて握ったって分かる気がするからいいよね」

「えっ、あっ、はい。そうですね」


 いきなり話しかけられた。僕は何を言えばいいか分からずどもりながらも返答する。女性が「そんなに慌てなくていいよ」と笑いながら言う。風が吹く。僕たちの身体を優しく撫でながら風は通り過ぎていく。


「君も食べる?」

「え、良いんですか?」

「うん。どうぞ」


 僕はその女性からラップに包まれているおにぎりを受けとった。一度膝上に置き、両手を合わせながら「いただきます」と発話した後でラップを外し海苔に包まれたおにぎりに噛みついた。途端に口内へほのかな酸っぱさがある何かが広がった。


「それ、ひじきだよ」

「そうなんですか。ひじき、中々に合いますね」

「そうだよね! 合うよねぇ――」


 その女性は僕の顔を見ながら笑みを浮かべた。

 風がそよそよと吹き木々の音を鳴らしていく。


「ご馳走様でした」

「お粗末様でした」


 僕とその女性は同じぐらいの時間で食べ終えた。僕が持ち帰ってごみを捨てようとする中、「別にいいよ。私が捨てておくから」と言いながらラップの入ったお弁当箱を見せてくる。


「いいんですか?」

「うん! それに、ちょっと楽しかったしね」


 女性は明るい声色で言いながらピンクのお弁当箱を見せてくる。よく見ると至る所が白くなっている。古くから使い込んでいるのだろうと僕は思った。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 僕はラップを小さく包み、お弁当箱の中にしまった。女性は僕が閉まったことを確認してからお弁当箱のふたを閉めて目を見てくる。


「今日はありがとう。一緒に食べれて嬉しかった! また今度ね!」


 女性は僕の前から走り去っていった。

 そよそよと吹いていた風が止み音が消える。

 顔を上げると快晴の青空が映る。


「僕も、もう少し色々な事経験してみようかな」


 僕はそんなことを思いながら教室へと戻っていく。

 平凡な普通の学生のたった一つの場面。


 それが僕にとっての宝物だ。

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