はじまりのばしょ、エスペランザ
ひつじの外は朝日と共に始まります。今日は旅の1日目、陽光眩しく肌熱く、欠片雲も見えない晴れ。まさしく私の旅路を照らすかのよう、実際素晴らしく気分が上がってきます。
先日から楽しみでしたもの、いつもの景色も輝いて見えますね、隣のお花屋さんの花束がとってもきれいです。
私は振り返り、主人様の家をもう一度目に覚えます。この家、ひいてはエスペランザという町は私として生家生まれの地と申し上げても過言でなく。何せ奴隷であった私を秘書として取り立ててくれたのですから恩義も計り知れないといった所。
キャリーバックをガタゴトと言わせて歩きますと、パン屋さんがあります。ガラスの向こうにびっしりと丸いのが並んでいるのって、かわいいと思うのですがどうでしょう。
お気に入りの白パンが見えます、美味しさが詰まったモチモチの、私の大好きな一品です。柔らかな小麦味に大きくて、さらに安いときては旅に丁度良く、けれども扉が閉まっていますので残念。まだ時間にして早朝もいいとこ、しかたのないことですね。
それからほんの少し商店街を過ぎますと、小さな屋根が見えてきます。ほどなく着きました、先日新しくできた電気鉄道の新駅です。
屋根の下に改札の人がいるだけの実に簡素な小駅、そこには不釣り合いな大きさの電気列車が既に居ます。乗り込み口が重々しく開けていて、冒険の始まりを恭しく告げていて。
ホームの長椅子に何か人影。手を振ってくれました、あれは主人様、見送りにしても何であそこにいるのです。まあいいや嬉しいなと私も手を振り返し、一歩を踏み出し……列車に乗りまして息を吸い込みます、決断的な一歩です。
チケットを頼りに指定の席に座り、大きなガラス窓から見ると見慣れた景色も一風変わっていて。ゆっくりと動き、駅を過ぎると町が景色となって流れていきます。どうにも寂しい気持ちが湧いてきます。
早10年の付き合いになるのでしょうか?都会過ぎず田舎過ぎないとの文言がこれ程似合う場所もないでしょう。
そして今日、長く親しんだこの場所を一時とはいえ離れることになります。さて、この町は見送ってくれるのでしょうか?
……果たして、遠くの方が眩しいですね。行ってらっしゃいと言ってくれたようです。
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