第94話 キナコと仲間たち

 僕は驚いているキナコに歩み寄った。


「どこに行くの?」

「……いや、酔い覚ましにゴブリンでも倒して小銭でも稼ごうと思ってな」

「ウソが下手だね」


 僕はじっとキナコを見つめる。


「ゼルディアを倒しに行こうと思ってるんだろ?」

「どうして、それを知ってる?」

「メルトさんに聞いたんだよ。キナコが無茶なことを考えてるってね」

「……メルトめ」


 キナコが尖った牙を鳴らした。


「キナコ……」


 僕は片膝をついて、キナコと視線を合わせた。


「僕たちは仲間だろ? どうして、ひとりでゼルディアを倒しに行こうとしてるんだよ?」

「……もう決めたことだ」


 キナコは視線を僕からそらした。


「俺はひとりでゼルディアを倒す。お前たちの助けは必要ない」

「僕たちのことを心配してるんだね」

「……お前たちは、まだ未熟だからな」

「それでも、僕はキナコについていくよ」


 僕はきっぱりと言った。


「六魔星のゼルディアを倒せば、国から報奨金も出るみたいだしね。僕も分け前が欲しいし、名声も手に入れたいから」

「ウソをつけ!」


 キナコが肉球で僕を叩いた。


「お前が名声など気にするはずがない。もうちょっとバレないウソにしろ!」

「あ、でも、お金は欲しいよ。孤児院への寄付を増やしたいし」

「……はぁ」


 キナコは大きなため息をついた。


「お前、わかってるのか? ゼルディアは多くの町や村を滅ぼした魔族だぞ。Sランクの冒険者も奴に殺されている」

「もちろん、わかってるよ。六魔星の強さは魔族の中でも別格だって」

「それなのにゼルディアと戦うと言うのか?」

「うん。キナコを助けたいから」


 僕は即答した。


「ピルンたちもなのだーっ!」


 ピルンがキナコの背後から現れた。ピルンの隣にはアルミーネもいる。


「ごめん。遅くなって」


 アルミーネが僕に声をかけた。


「いろいろ準備に時間がかかって」

「大丈夫だよ。この通り、足止めしておいたから」

「アルミーネ、ピルン」


 キナコの目が丸くなる。


「お前たちもいっしょに来るつもりなのか?」

「当然でしょ」


 アルミーネが言った。


「私たちは同じパーティーの仲間なんだから。それに六魔星を倒せば、『混沌の大迷宮』に入れる許可を国からもらえるかもしれないし」

「死ぬかもしれないんだぞ」

「弱いモンスターと戦う時だってそうでしょ。ゴブリンに殺された冒険者だって、いっぱいいるから」

「……はぁ」


 キナコは白い爪で頭をかいた。


「バカな奴らだ。俺につき合う必要などないのに」


 月光に照らされたキナコの瞳が僅かに潤んだ。


「……わかった。俺たちでゼルディアを倒して、報奨金を手に入れるぞ!」

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