第75話 洞窟2

 一時間以上歩き続けていると、ふいに視界が広がった。

 その場所は円形で壁に三十以上の穴が開いていた。


 この穴……奥が見えないな。一つ一つを調べていくと時間がかかりそうだ。


「どうやら、ピルンの能力が役に立つ時がきたのだ」


ピルンがカラフルなハンマー――マジカルハンマーを取り出し、地面に立てた。マジカルハンマーがゆらりと傾いて倒れる。

 マジカルハンマーの頭の先にある穴をピルンは指さす。


「この穴の先にドールズ教の神殿があるのだ!」

「また、それ?」


 僕はため息をついた。


「それって、運で決めてるだけだろ」

「ピルンは運がいいから、大丈夫なのだ」

「まあ、運はよさそうだけど……」


 その時――。


 ドンと大きな音がして、地面が大きく揺れた。


「なっ、何だ?」


 視線を動かすと頭上から岩が落ちてくる。

 僕は近くにいたピルンの腕を掴み、岩を避けた。

 他の冒険者たちも慌てて岩を避ける。


 数十秒後、揺れが収まった。


「アルミーネ、キナコ!」

「私たちは大丈夫だよ」


 僕の言葉にアルミーネが反応する。


「でも、入り口が……」


 アルミーネが指さした入り口は、無数の岩が積み重なっていた。


「これじゃあ、外に出られないよ」

「運が悪いね。こんなにしっかりと入り口を塞がれるなんて」


「いや……」


 キナコが口を開いた。


「この崩れ方はおかしい。入り口を塞ぐために何か仕掛けをしていたのかもしれない」

「それって、ドールズ教の信者が?」


 僕の質問にキナコがうなずく。


「どうやら、これは……」


 突然、頭上に巨大な半透明の板が現れた。


 魔法攻撃かっ!


 僕はアルミーネを守るように前に立つ。

 周囲にいた冒険者たちも素早く戦闘態勢を取った。


 しかし、頭上の板からの攻撃はなかった。


 やがて、板に黒いローブを着た白髪の男が映し出された。

 男は五十代ぐらいの見た目で、赤黒い首飾りをつけていた。


 あの板は映像送信用か。


「ふっ、ふふふっ」


 板から男の笑い声が聞こえてきた。


「愚かな冒険者たちよ。罠にかかってくれて感謝する」


「罠だと?」


 メルトが板に映る男に向かって叫んだ。


「お前は誰だっ?」

「私はルーガル。ドールズ教の司教だよ」


 男――ルーガルは唇の両端を吊り上げた。


「メルトよ。お前に真実を伝えてやろう。この洞窟に神殿などない」

「神殿がないだと?」

「そうだ。お前たちをおびき寄せるために、わざと神殿がここにあるような会話を信者にやらせたのだ。間抜けな冒険者の前でな」


 その言葉を聞いて、ダズルの目と口が大きく開いた。


「そして、お前たちはのこのことやってきたわけだ。自分の死に場所とも知らずに」

「舐めるなよっ!」


 メルトがルーガルをにらみつける。


「たかが入り口を塞がれただけで、私たちが死ぬとでも思っているのか」

「入り口を塞いだのはお前たちが逃げられぬようにしただけだ」


 ルーガルは目を細めて微笑する。


「メルト。お前たち炎龍の団は多くの信者を捕らえ、殺した。その報いを受けてもらう」

「何を言ってる? お前たちこそ、多くの者を自分の欲のために殺してきた狂信者ではないか!」

「それは私たちの特権だ。ドールズ様が許されているからな。信者以外の者は自由に殺していいと。ふふふっ」

「ぐっ……」


 怒りのためか、メルトの体が小刻みに震え出した。


 その姿が見えているのか、ルーガルの口角がさらに吊り上がる。


「本当の恐怖はこれから始まる。楽しみにしておくといい」


 ルーガルは両手を左右に広げて、胸元で両手の指を奇妙な形に絡ませる。


「邪神ドールズ様、愚かな冒険者たちの命をあなたに捧げましょう」


 そう言うと同時に頭上に浮かんでいた板が消えた。


「やられたな」


 キナコが白い爪で頭をかいた。


「どうやら、こっちの動きが漏れていたようだ。しかも、ずいぶん前から」

「みたいだね。この仕掛けは速攻で作れるようなものじゃないし」


 僕は入り口を塞いでいる積み重なった岩を見る。


 炎龍の団はレステ国からドーズル教の信者を捕らえる仕事を多く請け負っていた。そのために狙われたんだろう。ガホンの森に神殿があるという情報を流して、ここにおびき寄せたんだ。


「炎龍の団の実績は認めるが、今回は後手に回ってるな。まあ、お前の元パーティー仲間のミスのせいだが」


 キナコは体を震わせているダズルを見つめる。


「この手の罠に引っかかる冒険者は多い。お前も気をつけろよ」

「……うん」


 僕は唇を強く噛んだ。


 


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