第53話 ガルディとアドル

 ダンジョンの入り口の近くにあるテントの中で、聖剣の団のアドルがガルディに声をかけた。

「荷物の整理が終わりました。これでいつでも出発できます」

「……そうか」


 ガルディの口から暗い声が漏れた。


「じゃあ、タンサの町に戻るぞ」

「ガルディさん。キルサスさんにどう報告するんですか?」

「正直に話すしかないだろ。俺たち以外の団員は全員魔族にやられたってな」

「しかし、それでは俺たちの評価が……」

「落ちねぇよ!」


 ガルディの口調が強くなった。


「どうせ、月光の団の奴らもあの魔族に殺されるだろうからな」

「十二英雄のシルフィールもですか?」

「ああ。シルフィールでも、あの魔族には勝てない」


 ガルディの体が一瞬震えた。


「ダグルードと戦って、俺はわかったんだ。奴の強さは別格だ。もしかしたら、六魔星に近いレベルかもしれない」

「六魔星って、魔王の幹部の?」

「ああ。Sランクが複数いても、奴は倒せないだろう」

「それじゃあ、この依頼は月光の団も失敗するんですね?」


 アドルの質問にガルディは首を縦に動かした。


「その可能性は高い。強化された骸骨兵士の数も多かったからな」

「そうなったら、俺たちの評価は落ちませんね」

「あの月光の団も失敗したとなればな」


 ガルディは頬を引きつらせるようにして笑った。


「理想はシルフィールが死ぬことだ。十二英雄が殺されるレベルの魔族なら、むしろ、俺たちだけでも生き残ったことが逆に評価されるかもしれない」

「たしかにそれは理想ですね。キルサスさんも仕方ないと思ってくれるでしょう」


 アドルはふっと息を吐く。


「どうせなら、ヤクモたちのパーティーも全滅してくれればいいんですが」

「ふん。あいつらがダグルードに出会ったら、すぐに殺されるだろうさ。キナコが強くても、他の三人はたいしたことないだろうしな」


 ガルディは頭部の狼の耳をかいた。


「まあ、あいつらも運が悪かった。こんな危険な依頼を受けてしまうとは」


 その時、テントの外が騒がしくなった。


「ん? 何だ?」


 ガルディとアドルはテントの外に出た。視線をダンジョンの入り口に向けると、そこには月光の団の団員たちと調査団のメンバーがいた。


 ガルディとアドルの両目が大きく開く。


「あいつら……どうやって調査団を救出したんだ? ダグルードに捕まっていたはずだぞ」

「わ、わかりません」


 アドルが口をぱくぱくと動かした。


「ですが、戻ってきたってことは……あ……」


 アドルはシルフィールの近くにいるヤクモを指さした。


「ヤクモたちだ。あいつらも月光の団といっしょに行動してたのか」


 冒険者ギルドの職員たちの声が聞こえてきた。


「さすが月光の団だ。魔族を倒して調査団を救出するとは」

「ああ。聖剣の団がやられたから、救出作戦は失敗すると思ってたが」

「やっぱり、シルフィール様は最強だよ。まさに人族の希望だな」


「そんなバカな……」


 ガルディの体が小刻みに震え出した。

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