第37話 シルフィールの実力

 その時――。


 左右の建物から、数十体の骸骨兵士が現れた。


「敵襲っ!」


 月光の団の団員が大きな声を出す。

 その声に反応して、他の団員たちが調査団の人たちを守るように円陣を組む。


「コリンヌっ! 守りはまかせたから」


 シルフィールはそう言うと、腰に提げていた銀色の小さな円柱を手に取る。その円柱が長く伸びて、両方の端から黄金色の刃が飛び出した。


「すぐに終わらせてあげる」


 シルフィールはツインテールの髪をなびかせて、右側にいた骸骨兵士たちに突っ込んだ。

 くるりと体を半回転させ、伸びた円柱で骸骨兵士の額を正確に突く。黄金色の刃が骸骨兵士の宝石を砕いた。


「カッ……カカ……」


 二体の骸骨兵士が左右からシルフィールに襲い掛かる。


 シルフィールは曲刀の攻撃を円柱で受けながら、呪文を唱える。骸骨兵士の真上に火球が出現し、真下に落ちる。骸骨兵士の体が一瞬で炎に包まれた。額の宝石が黒く変色し、二体の骸骨兵士が倒れる。


「カカ……カッカッ!」


 今度は六体の骸骨兵士が歯を鳴らしてシルフィールを取り囲む。


「無駄なことするのね」


 シルフィールは両足を軽く開いて、深く息を吸い込む。


 六体の骸骨兵士が同時に攻撃を仕掛けた。両手に握った曲刀を振り上げ、シルフィールに突っ込む。

 避けようがない攻撃だと思った瞬間、シルフィールの腕がぶれるように動いた。円柱の両端にある刃がきらめき、骸骨兵士たちの動きが止まる。


「『流星雨』!」


 シルフィールが技の名前を言い終えると同時に六体の骸骨兵士の体がばらばらに砕けた。


 速い! 一瞬で百回以上も骸骨兵士を斬った。こんな技があるのなら、シルフィールを取り囲んで攻撃しても無意味だろう。それにあの武器は……。


「あれが国宝武器『双頭光王』か」


 アルミーネがつぶやいた。


「双頭光王?」

「うん。シルフィールが災害クラスのモンスターを倒した時に国王からもらった光属性の武器よ。あの黄金色の刃は魔法鎧だって防ぐことができないんだって」

「……すごい武器だね」


 次々と骸骨兵士を倒すシルフィールを見て、僕の体が熱くなる。


 Sランクの冒険者が国宝武器を使えば、ここまで圧倒的に強さを発揮するのか。


「俺たちの出番はなさそうだな」


 キナコが言った。


「さすが十二英雄だ。余裕を持って戦っているのに圧倒的な強さがある」

「うん。すごいね」

 月光の団の団員たちも調査団の人たちを守りながら、近づいてくる骸骨兵士を確実に倒している。その動きに無駄がなく、しっかりと訓練されているのがわかった。


 これが月光の団か。レステ国で十本の指に入る団って言われてるだけはあるな。


結局、僕たちが戦うことはなく、骸骨兵士たちは数分で全滅した。


「ケガ人はいる?」


 シルフィールがコリンヌに声をかけた。


「四人ケガをしましたが、回復魔法で治せるレベルです。問題ありません」

「そう。それならいいわ。ケガを治したら、すぐに移動するから」

「わかりました」


 コリンヌは腕から血を流している団員に回復魔法をかける。


「私も手伝ってくるね」


 アルミーネがケガをしている団員に駆け寄る。


「回復魔法か……」


 僕は回復魔法を使用しているアルミーネを見つめる。

 アルミーネは素材を利用して回復魔法を使用することができる。これは錬金術師しかできないやり方だ。普通は回復系のスキルを持っていないとできないことだから。


「どうした? 暗い顔をして」


 キナコが肉球で僕のおしりを叩いた。


「いや、僕も回復魔法が使えたらって思って。今の僕は【魔力極大】があるから、何百人だって、ケガ人を治すことができるのに」

「そんなことを考えていたのか」


 キナコは呆れた顔で僕を見上げる。


「回復魔法は素質が重要だぞ。努力でどうにかなるものではない」

「うん、わかってる。でも、せっかく基礎魔力が730万マナもあるのに、その魔力を紙の具現化だけにしか使えないのが悔しくて」

「ふっ、真面目なお前らしい考えだが、無意味なことだ。そんなことを考えるぐらいなら、自分にできることをやるんだな」

「できること?」

「ああ。【紙使い】の能力を極めて、お前自身が強くなることだ。お前が強くなればなるほど、仲間がケガをすることはなくなるからな」

「……そう……だね」


 僕はキナコの肩に触れる。


「ありがとう、キナコ。気が楽になったよ」

「礼はナバイ産のチュル酒でいいぞ」

「キナコはお酒の飲み過ぎだから、ミルクをおごるよ」


 そう言って、僕は頬を緩めた。

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