第36話 十二英雄シルフィール

 アルミーネは調査団の人たちの首輪を次々と外した。


 全員の首輪を外すと、僕たちは隠し部屋を出て神殿の一階に下りる。

 巨大な像の前で、僕たちは月光の団の団員二十八人と合流した。


 アルミーネが状況をシルフィールに説明する。


「わかった。じゃあ、月光の団が調査団を地上まで連れていくから。いいわね?」

「はい。そのほうが安全だと思うし、問題ありません」

「ふーん。わかってるじゃない」


 シルフィールは隣にいた黒髪の女性の上着を掴んだ。


「コリンヌ、あなたが指揮を取って」

「えっ? 私ですか?」


 コリンヌが驚いた顔をした。


「そうよ。団員も全員使っていいわ。調査団の救出が最優先だから」

「では、シルフィール様は?」

「私は魔族を殺しておくから。追ってこられても面倒だしね」

「えっ? 一人でですか?」

「問題ないでしょ。別に相手が六魔星ってわけでもないし」


 シルフィールは銀色の髪をかき上げる。


「たかが一体の魔族ぐらい、瞬殺だから」

「待ってください! ダグルードの強さは未知数です。それに強化された骸骨兵士の数もわかりません」


「五百体以上らしい」


 キナコが言った。


「さすがのお前でも一人で戦うのは厳しいんじゃないのか?」

「ふんっ、私は十二英雄なの。雑魚モンスターが何百体いても関係ないから」


 シルフィールはキナコをにらみつける。


「とにかく、魔族は私が倒す……」

「シルフィール様」


 ミルファがシルフィールに駆け寄った。


「今、地上から連絡が入りました。聖剣の団が魔族に襲われ、ほぼ全滅したそうです!」


 その言葉を聞いて、周囲の空気が一瞬で冷えた。


「……ほぼ全滅って、何人殺されたの?」

「二十八人が殺され、生き残ったのはリーダーのガルディとBランクの冒険者が一人だそうです」

「何やってるんだか」


 シルフィールは舌打ちをした。


「実力ある団って聞いてたけど、話にならないわね」


 二十八人も殺されるなんて……。


 僕の額に冷たい汗が滲んだ。


 聖剣の団は実力のある団員が多かった。Cランクのウーゴとラモンは戦闘経験も多かったのに。


「シルフィール様」


 コリンヌが口を開く。


「どうやら、ダグルードの強さは私たちの想定より上のようです。こうなったら、いっしょに行動したほうがいいと思います」

「……しょうがないわね」


 シルフィールの視線が僕に向いた。


「あなたたちもついてきなさい。私が守ってあげる」

「いいんですか?」

「弱者を守るのも英雄の仕事だからね」


 そう言って、シルフィールは胸を張った。


 僕たちは全員で北に向かった。そっちに大きな通路があり、そこから、上層階に行けるらしい。


 しんと静まり返った町を進み続けると大通りに出た。道の左右には四階建ての建物が並んでいて、その一部が崩れている。


 僕は先頭を歩いているシルフィールに視線を向ける。

 シルフィールは周囲を警戒することなく、散歩をしてるかのように歩いている。


「ヤクモ!」


 ピルンが僕に体を寄せた。


「シルフィールは本当に強いのか?」

「んっ? シルフィールさんはSランクで十二英雄の一人だよ」

「でも、あまり強そうでないのだ。身長はピルンより低いし、胸だってピルンのほうが圧倒的に勝ってるのだ」

「胸は強さに関係ないし。しかも、圧倒的に勝ってないよ」


 僕はピルンに突っ込みを入れる。


「シルフィールさんは強いよ。さっきの攻撃魔法も正確で威力があったし、今も隙が全くないし」

「そんな風には見えないのだ」


 ピルンは首をかしげる。


「シルフィールは後ろを全然見てないし、たまにあくびもしてるのだ。戦場で油断すると、すぐに死んでしまうのだ」

「油断はしてないと思うよ。さっきも調査団の人が転んだら、すぐに足を止めたし。目だけじゃなくて、他の何かで周囲の状況を知っているんだと思う」

「他の何って、何なのだ?」

「それは僕にもわからないよ。何かのスキルかもしれないし、戦闘経験でわかるのかもしれない。キナコも勘が鋭いし」

「ピルンはそんなことできないのだ」

「僕も無理だよ」


 僕はふっと息を吐き出す。

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