第34話 ガルディvsダグルード

 ガルディの表情が強張った。


「ちっ! こんなにいやがったのか」

「ガ、ガルディさん」


 アドルが震え声で周囲を見回す。


「マズイです。この数じゃ、勝てるわけ……」

「三分だ! 三分だけ骸骨兵士を止めておけ! その間に俺がダグルードを倒す!」


 ガルディは喋り終えると同時にダグルードに突っ込んだ。


「死ねっ! 魔族めっ!」


 右足を強く蹴って、赤い刃の短剣を突く。


「無駄なことを」


 ダグルードの前に半透明の壁が現れた。その壁が短剣の刃を弾く。


「この程度の壁でっ!」


 ガルディは左手で半透明の壁に触れた。魔法解除の呪文を唱えると、壁が消滅した。


「残念だったなっ! 俺は魔法戦士なんだ!」


 ガルディの短剣の先端がダグルードの胸に触れた。同時にダグルードは刃を右手で掴む。

 短剣を押し込もうとしたガルディの動きが止まった。


「くっ……何だ……動かな……い」

「この程度の力なのか?」


 ダグルードは首を右に傾ける。


「平均的な人族とあまり変わらない気がするが」

「舐めるなっ!」


 ガルディは短剣から手を離して、呪文を唱える。

 ガルディの胸元に直径十センチの黒い球体が具現化する。


「この距離なら、避けられない……だろっ!」


 黒い球体が動き出し、ダグルードの胸元で爆発した。


「はっ! バカがっ! 闇魔球をまともに食らいやが……あぁ?」


 平然と立っているダグルードを見て、ガルディの両目が大きく開いた。


「ふむ。試しに受けてみたが、なかなかの威力だな」


 ダグルードはキズ一つない黒い服に触れる。


「さて、そっちの防御力はどの程度なのか」


 ダグルードは腰に提げていた細身の剣を引き抜くと同時に前に出た。呆然としていたガルディの反応が遅れる。細身の剣の先端がガルディの肩に突き刺さった。


「ぐあっ……」


 ガルディは苦痛で顔を歪めながら、ダグルードから距離を取る。


「ふむ。服は魔法素材でできていて物理耐性があるようだが、体の強化はなしか。補助魔法は使えないタイプのようだな。これは困ったな」

「こ、困ったって何だよ?」

「これでは、さっき手に入れたポルタ文明の武器を試す意味がなさそうでな」


 ダグルードは細身の剣を足元に落とし、新たに黄金色の剣を具現化した。その剣は柄の部分に魔法文字が刻まれていて、刃がいびつに歪んでいた。


「まあ、使ってみるか。頼むから、すぐに死なないでくれ」


 ダグルードの目が針のように細くなった。


「くっ、くそっ!」


 ガルディは肩の傷を押さえながら、ゆっくりと後ずさりする。


既に周囲にいた聖剣の団の団員たちは半分以上が骸骨兵士に倒されていた。

 ガルディの耳に悲鳴と怒声が届く。


「ダメだ! ガルディさん!」


 アドルが体をガルディに寄せる。


「ウーゴとラモンがやられた!」

「何人残ってる?」

「七……いや、六人です」

「ぐっ……」


 ガルディは骸骨兵士に囲まれている団員たちを見回す。


「……アドル! 俺についてこい!」


 そう言うと、ガルディは黒い球体を具現化し、右側にいる骸骨兵士にぶつけた。爆発音がして、白い骨が飛び散る。


 ガルディとアドルは周囲にいる骸骨兵士を倒しながら、その包囲を突破した。建物の間の細い階段を上ると、アドルが大剣で建物の壁を崩す。

 砕けた壁が階段に積み上がり、追ってきた骸骨兵士の足を止めた。


「よし! これでなんとか……」


 ガルディは腰に提げていた魔法のポーチから回復薬を取り出し、一気に飲み干す。肩から流れていた血が止まり、傷口が塞がった。


「ガルディさん」


 アドルが骸骨兵士に囲まれて倒されていく聖剣の団の団員を指さす。


「どうします? このままじゃ、あいつら……」

「どうにもならねぇよ!」


 ガルディがこぶしで壁を叩いた。


「ここで戻ったら、俺たちも殺される。骸骨兵士はどうにかなっても、あの魔族は無理だ。Sランクの冒険者でも倒せないだろう」

「で、でも、それじゃあ、仲間を見殺しに……」

「しょうがないだろ! 現実を受け入れろ!」


 ガルディはアドルの肩を掴んだ。


「ここから俺たちが戻って何ができる? 最大級の闇魔球でも、あの魔族は倒せないはずだ。どうにもならないんだよ!」

「じゃあ、俺たちはどうすれば?」

「……地上に戻るしかない。二人じゃ、何もできないからな」


 ガルディは、骸骨兵士たちに斬り刻まれている団員たちに背を向けて唇を強く結んだ。

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