第24話 危険な依頼2
「最近、西の森に新しいダンジョンが見つかったの」
アルミーネは部屋の真ん中にあるテーブルの上にタンサの町周辺の地図を広げた。
「場所は……この辺で中は相当広いみたい」
「そのダンジョンの探索を頼まれたの?」
僕の質問にアルミーネは首を横に振る。
「ダンジョンの探索はレステ国の調査団がやってる……いや、やってたかな」
「やってた?」
「うん。今は行方不明。その調査団を救出するのが仕事なの」
そう言って、アルミーネは白いカップに入った紅茶を口にする。
「……んっ、美味しい。いい茶葉を使っただけはあるかな」
「紅茶の感想より、話を進めろ」
キナコがじろりとアルミーネを見る。
「ごめんごめん。で、調査団の人数は三十人。それに護衛の冒険者のパーティーが十人」
「四十人全員が行方不明か?」
「そうみたい」
一瞬、部屋の中の空気が冷えたような気がした。
「何かの事故か、危険なモンスターに遭遇したか……」
キナコは左右にぴんと伸びた白いひげをぴくぴくと動かす。
「しかし、その規模の行方不明者を捜すのに俺たちのパーティーだけなのか?」
「ううん。私たち以外に二つの団が参加するみたい」
「二つの団?」
「一つは月光の団ね。タンサの町で一番実力がある団よ」
「Sランクのハイエルフがリーダーをやってる団か?」
「そう。十二英雄の『銀月のシルフィール』ね。彼女の強さは他国にも広まっているし、吟遊詩人が彼女を称える歌をいっぱい作ってるわ」
十二英雄のシルフィールか。
十二英雄はSランク冒険者の中で最強と言われている十二人の人族のことだ。彼らは災害クラスのモンスターや魔族の軍隊と戦い、多くの人々を救ってきた。その功績から、彼らを十二英雄と呼ぶようになった。その実力は武装した兵士千人分と言われている。
「そして、もう一つの団は……」
アルミーネは視線を僕に向けた。
「聖剣の団よ」
「えっ? 聖剣の団?」
思わず、僕はイスから立ち上がった。
「リーダーのキルサスは参加しないみたいだけどね」
「そう……なんだ」
僕の脳裏に聖剣の団の冒険者たちの姿が浮かび上がる。
聖剣の団には八十人以上の団員がいる。Dランクが一番多いけど、幹部の三人はAランクでBランクも七人いる。今回の仕事は危険度が高そうだし、Cランク以上の団員でパーティーを組むんだろう。
「それにしても、どうして僕たちが冒険者ギルドから依頼されたの? 僕たちだけ、団じゃなくてパーティーなんだけど?」
「予算の問題よ」
アルミーネが答えた。
「月光の団と聖剣の団に依頼して、少しだけ予算が余った。ならば、Aランクがいるパーティーにも依頼して、救出の確率を少しでも上げようって思ったみたい」
「つまり、俺たちはおまけってことか」
キナコがため息をついた。
「あまり期待されてなさそうだな」
「そうね。でも、ここで私たちが活躍すれば名声を上げることができる。当然、依頼も増えるし、報酬も高くなる。そうなれば貴重なレア素材を揃えることができて、私の魔法が強力になる。みんなのサポートも今以上にやれるようになるよ」
「それは悪くないな」
「ええ。六魔星ゼルディアと戦う時にもね」
「……ゼルディアと戦う時か」
キナコの金色の瞳の瞳孔が縦に細くなった。
「じゃあ、ピルンにも連絡しておくね。出発は二日後だから」
アルミーネは僕のベルトにはめ込まれた黄土色のプレートを指さした。
「しっかり準備しててね。Eランクになったヤクモくん」
「うん。今のうちに、いろんなタイプの紙をストックしておくよ」
僕は唇を強く結んで、右手で胸元のポケットに触れた。
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