第18話 昇級試験2

「では、五分後に昇級試験を開始します」


 ランドンの声が聞こえた。


「金貨一枚以上の素材を手に入れた方は、この場所に戻ってきてください。また、ケガなどでリタイアされる方は森の中にいる職員に伝えてください。魔法医を手配していますから」


 その言葉を聞いて、冒険者たちは表情を引き締める。


 僕は頭を下げて、アルミーネが作ってくれた特別製の服を見る。魔法のポケットには、いろいろなタイプの紙が入っていて、これを状況に応じて使えば、基礎魔力を温存することが可能だ。


 これでEランクになれなかったら、僕がダメってことだ。

 絶対に昇級試験をクリアしないと!


 ◇ ◇ ◇


 試験開始の合図とともに、百人以上の冒険者たちが一斉に動き出した。

 僕は少し遅れて、南に向かって歩き出す。


 この森の周辺の地図は試験会場がここってわかった時に買ってある。南には水場が多いし、そこにモンスターがいる可能性は高い。

 同じように考えているのか、数人の冒険者が僕を追い抜いていく。

 モンスターは最初に攻撃を仕掛けた冒険者のターゲットになる。近くにいるモンスターは取り合いになるはずだ。


 僕は木々の間をすり抜けて、落ち葉が積もった斜面を登る。

 数十分後、広大な南の森が見渡せる場所に出た。

 右側に川が流れていて、左側には小さな湖が見える。


「さて、どっちに行くべきか」


 僕は腕を組んで考え込む。


 あの湖だと他の冒険者と出会う可能性が高くなるか。川のほうがよさそうだ。


 その時、茂みの上に森クラゲが浮かんでいるのが見えた。

 森クラゲは体長が三十センチぐらいで全身が青白く発光していた。

 森クラゲは森に生息するクラゲだ。無害なモンスターで素材は手に入らない。


「見た目はキレイなんだけどなぁ」


 人差し指で森クラゲを突く。森クラゲはふわふわと宙を漂いながら、僕から離れていった。


「よし! 行くか」


 僕は魔喰いの短剣を握り締め、細い獣道を走り出した。


 木の枝から垂れた草のつるをかき分けながら進んでいると、川辺で白銀狼と戦っている冒険者の少女の姿が見えた。


 少女は十代半ばぐらいで、華奢な体格をしていた。髪は青色のショートで頭部にウサギの耳が生えている。どうやら、亜人のようだ。

 少女は白銀狼の突進を避けながら、短剣を突いた。銀色の刃が白銀狼の胸元に刺さる。しかし、白銀狼はダメージを感じていないのか、少女への攻撃を続けている。


 白銀狼か。あれを倒して毛皮を剥ぎ取れば、金貨二枚以上の素材になる。それで試験クリアになるけど、問題は倒せるかどうかだ。白銀狼は素早いし、前脚の爪は長くて鋭い。


「ウォオオオーン」


 白銀狼は全身の毛を逆立てて、少女に飛びかかる。少女はその攻撃を避け損なった。青い爪が少女の肩を裂き、緑色の服が赤く染まる。


 まずい! このままじゃ、あの子が殺されてしまう。 

 この距離ではまだ無理か……もう少しだけ近づいて……。


 白銀狼が前脚を振り下ろす。少女の短剣が青い爪に当たり、弾き飛ばされた。


「ウォオオオーン!」


 白銀狼は青ざめた顔をした少女に向かってジャンプした。


「『魔防壁強度三』!」


 具現化した白い紙が三枚重ねになって壁を作る。その壁が白銀狼の攻撃を止めた。


「今のうちに短剣を拾って!」


 僕の声が聞こえたのか、少女は慌てて短剣を拾い上げ、白銀狼の側面に回り込む。

 そして、体ごとぶつかるように短剣を白銀狼の首に突き刺す。


「ウォ……オオ……」


 それでも白銀狼は大きく口を開けて、少女を噛もうとした。上下の白い牙がカチカチと音を立てる。

 少女は白銀狼の頭を左手で押さえながら、右手に持った短剣を強く押し込んだ。

 数秒後、白銀狼の動きが止まった。ぐらりと体が傾き横倒しになる。


 よし! 倒せたみたいだな。


 僕は少女に歩み寄った。


「回復薬は持ってる?」

「あ、う、うん」


 少女は腰につけていたポーチから回復薬を取り出し、一気に飲み干した。肩の傷がゆっくりと塞がり血が止まる。


 なかなか、グレードの高い回復薬を持ってるな。短剣も魔法武器みたいだし、Fランクにしては珍しい。


 と、これなら問題なさそうだ。僕も素材になるモンスターを探さないと。


「じゃあね」


 僕が歩き出すと、少女が僕の腕を掴んだ。


「待って!」

「ん? どうしたの?」

「これ、私がもらっていいの?」


 少女は倒れている白銀狼を指さした。


「もちろんだよ。戦っていたのは君だから」

「でも、私はあなたに助けられなければ死んでたし」

「ちょっと手伝っただけだよ」


 僕は少女を視線を合わせる。


「白銀狼を倒したのは君だから」

「……ありがとう。私はミルファ。あなたの名前は?」

「僕はヤクモだよ」

「ヤクモか。あなた、ユニークスキル持ち?」

「うん。紙を操る能力かな」

「へーっ、紙か。面白い能力だね」


 ミルファは青色の瞳で僕を見つめる。


「頑張ってね。あなたの昇級を祈ってるから」

「君も毛皮剥ぎ、頑張って」


 そう言って、僕は上流に向かって走り出した。

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