第17話 昇級試験
数日後、僕はタンサの町の南にある森の中にいた。
周囲には白色のプレートをつけたFランクの冒険者たちが百人以上集まっていた。
十代半ばの冒険者が多く、昇級試験に備えて、武器や防具のチェックをしている。
やっぱり試験は緊張するな。
僕は胸に手を当てて、深く息を吸い込む。
アルミーネは、『今のあなたならEランクへの昇級試験なんて楽勝だよ』って言ってたけど、逆にプレッシャーがかかったな。
パーティーは少人数だから、Fランクがいると信用が落ちる。なんとか昇級してEランクになっておかないと……あ。
数十メートル先に、アルベルとダズル、カミラの姿があった。
アルベルたちも試験を受けるのか。
アルベルたちが僕に気づいて近づいてきた。
「よぉ、ヤクモ」
アルベルが冷たい視線を僕に向けた。
「お前も昇級試験を受けにきたのか?」
「ちょうどパーティーの仕事もなかったから」
「パーティーの仕事……ね」
アルベルは短く舌打ちをする。
「お前、どうやって、キナコのパーティーに入ったんだ?」
「リーダーの錬金術師から勧誘されたんだ」
「お前が勧誘された?」
「うん。僕のユニークスキルを認めてくれて」
「はっ、紙を出すだけのスキルをか? そりゃ、目が曇ってるリーダーだな」
アルベルは唇を歪めて笑った。
「パーティーの中にAランクのキナコがいるから、運よく水晶ドラゴンを倒せたみたいだが、その程度のリーダーがまとめてるパーティーなら、すぐに命を失うことになるぜ」
「そうならないように気をつけるよ」
「おいっ、ヤクモ!」
ダズルが僕の肩を掴む。
「お前、水晶ドラゴン討伐の報酬、いくらもらったんだ?」
「大金貨三枚とちょっとかな」
「大金貨三枚っ?」
カミラが大きく口を開けた。
「何それ。一年近くは暮らせる額じゃない。そんなにもらえたの?」
「うん。リーダーが巨大なモンスターも収納できるアイテムを持っていたからね。水晶ドラゴンを丸ごとアイテム屋に売れたんだ」
「そんなにもらえるなんて……」
カミラのノドが動いた。
「ほんと、お前って運がいいよな」
アルベルが眉を吊り上げる。
「だが、昇級試験は一人で受けるものだぜ。ここではAランクのキナコが助けてくれることもないからな」
木の板で組まれた台の上に五十代ぐらいの男が立った。
男は茶髪のオールバックで赤いネクタイをつけている。
「Fランク冒険者の皆さん、お待たせしました」
低く柔らかな声が森の中に響いた。どうやら、声を大きくする魔法を使っているようだ。
「私は試験を担当する冒険者ギルドの職員のランドンです。それでは、Eランクへの昇級試験の内容を説明します」
冒険者たちの視線がランドンに注がれる。
「今回の試験は、この森の中にいるモンスターの素材の調達です。市場価格で金貨一枚以上の素材を二十四時間以内に手に入れてください。それでEランクへの昇級を認めます」
二十四時間で金貨一枚以上の素材か。なかなか厳しい条件だ。
僕はこぶしを口元に寄せて考え込む。
素材にならないゴブリンを倒しても意味がない。かといって、スライムを倒して『スライムの欠片』を狙うのも効率が悪いな。『スライムの欠片』は絶対に手に入る素材じゃないし、手に入れても一つ銀貨三枚ってところだ。
つまり、三十四個手に入れなければ、金貨一枚以上にならない。
となると、『飛行亀の甲羅』あたりか。あれなら、二つで金貨一枚を超えるはずだ。しかも、そんなに強くないし。
周囲にいた冒険者たちの声が耳に届く。
「今回はわかりやすいルールだな」
「ああ。だが、それなりに厳しい試験かもしれん。モンスターの取り合いになるからな」
「理想は、弱いが手に入る素材は高いモンスターを倒すことだな。『虹色鳥』とか。あれなら、一羽捕まえれば、羽の素材だけで金貨一枚以上だ」
「『白銀狼』でもいいな。あれの毛皮は金貨二枚を超える」
「ドラゴンを倒せば、大金貨十枚以上になるぜ」
「バカかっ! Fランクの俺たちがドラゴンなんか倒せるわけねぇだろ。つーか、この森にドラゴンなんていねぇよ」
「ふん、楽勝な試験だな」
アルベルが鼻で笑った。
「これなら、二十四時間もいらないぜ。さっさとモンスターを倒して、試験を終わらせてやる」
「そうだね」とダズルが同意した。
「僕たちは聖剣の団に選ばれた有望な冒険者だ。ここにいる才能のない連中とは違う」
「ああ、キルサスさんに恥をかかすわけにもいかないしな。圧倒的な差を見せつけてやる!」
アルベルは右手をこぶしの形に変える。
「ヤクモっ! お前に教えておいてやる」
「え? 何を?」
「俺たちとお前の実力の違いをだよ」
アルベルは僕の顔を指さす。
「お前は運よく強いパーティーに入ることができて、運よく水晶ドラゴンを倒せた。でも、幸運は長くは続かない。ちょっとしたきっかけて不運になることもあるんだ」
「不運か……」
「ああ。昇級試験で死んだ冒険者もいるからな」
アルベルは敵意を感じる視線を僕に向けた。
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