第15話 冒険者ギルドにて
二日後、僕たちはタンサの町に戻ってきた。
町の大通りを進み、四階建ての冒険者ギルドに入る。
「じゃあ、依頼完了の報告をしてくるから」
アルミーネは鉱山の所有者からサインをもらった紙を持って受付に向かった。
僕はピルンとキナコから離れて、壁際に置かれた長イスに座る。
これで、大金貨二枚が手に入るか。
その中で僕の取り分は、金貨四枚ぐらいになるらしい。アルミーネが魔法で使った素材や移動の馬車代、食費などの経費を除いた分を四等分にした金額だ。
さらに水晶ドラゴンの素材が売れたら、それも四等分されることになっている。アルミーネの予想では大金貨十五枚を越えるみたいだ。となると、僕の取り分は大金貨三枚以上か。
節約すれば一年は何もせずに暮らせる額だ。
自分のノドが大きく動いた。
こんなにもらえるなんて、聖剣の団にいた頃とは大違いだ。聖剣の団も働いた分だけ、お金をもらえたけど、団の運営費とか、いろいろ引かれるものも多かった。新人のFランクだから、一つの仕事で手に入れた報酬も最大で大銀貨二枚だったし。
「おっ、ヤクモじゃねぇか」
突然、誰かが僕の名を呼んだ。
視線を上げると、アルベルとダズルがいた。
アルベルは白い歯を見せて、僕の肩を叩く。
「相変わらず、暗い顔してんな。仕事が見つからなかったのか?」
「……いや。今日は休む予定だから」
僕はアルベルと視線を合わせる。
「君たちは?」
「俺たちは依頼が終わったので、報酬を受け取りにきたところさ。オーガ退治のな」
「オーガ? 君たちがオーガ退治の依頼を受けられたの?」
「今回はガルディさんがパーティーに入ってくれたからさ」
「ガルディって?」
「お前の代わりに聖剣の団に入ったAランクの冒険者だよ」
アルベルが答えた。
「さすがAランクだったぜ。パワーもスピードもそこらへんの冒険者とは段違いだ。しかもガルディさんは闇属性の攻撃魔法まで使えるからな」
「魔法戦士なんだ?」
「ああ。おかげで楽に大銀貨四枚ゲットできたぜ」
「大銀貨四枚か……」
食事付きの宿屋に四日ぐらいは泊まれる金額だから、一日で終わる仕事なら、悪くない稼ぎだ。
「で、お前はどうなんだ? この前は薬草採取の仕事を受けてたみたいだが」
「それは聞いたら、ダメだって」
ダズルが笑いながら言った。
「Fランクのソロの仕事なんて、依頼料は高くても大銀貨一枚以下だよ」
「あーっ、そうだろうな。まっ、報酬が少なくても団やパーティーと違って好きに休むことができるし、自由なのはいいことかもしれないな」
「たしかにそうだね。ひひっ」
「いや、今はソロじゃないんだ」
僕は長イスから立ち上がった。
「四人パーティーでやってるよ」
「四人パーティー?」
アルベルの茶色の眉がぴくりと動いた。
「……へーっ、お前をパーティーに入れてくれる物好きがいたとはね。よかったじゃねぇか」
「うん。危険度は人数の多い団に比べて高いけど、その分、もらえる報酬も増えるから」
「はっ、Fランク同士のパーティーじゃ、報酬なんて、たいしたことねぇだろ」
「いや、Fランクは僕だけだよ。リーダーはCランクだし」
僕は淡々とした口調で言った。
「みんな強いし、信頼できる仲間だと思うよ」
「信頼できる仲間?」
「うん。うちのリーダーが言ってたけど、それが強さより大事なんだってさ。僕も最近そう思うようになったかな」
「ふん。信頼できても、弱けりゃ意味ねぇよ」
アルベルはバカにするような顔をして、肩をすくめる。
その時、受付の近くにいた冒険者たちが騒ぎ始めた。
「んっ? 何かあったのか?」
アルベルが視線を受付に向ける。
冒険者たちの声が聞こえてきた。
「おいっ、水晶ドラゴンを倒したパーティーがいるらしいぜ」
「えっ? 団じゃなくて、パーティーで倒したのか?」
「しかも、四人パーティーだとよ」
「四人っ? そりゃすげぇな。誰のパーティーだ?」
「リーダーは知らないが、仲間にAランクのキナコがいるようだ」
「なるほど。Aランク混じりのパーティーか」
「魔族殺しのキナコか」
アルベルがキナコの二つ名を口にした。
「キナコを知ってるの?」
僕の質問にアルベルはうなずく。
「猫人族でAランクはキナコしかいないからな。奴は【無手強化】ってユニークスキルを持ってたはずだ」
「そんなことまで知ってるんだ?」
「タンサの町の周辺で活動してるAランクとSランクの情報ぐらいは頭に入れとかねぇとな」
アルベルが人差し指で自分の頭を叩く。
「俺もランクを上げて、今以上に稼いでやる……んっ?」
アルベルの視線が、こっちに歩いてくるキナコに向けられた。
キナコはアルベルの横をすり抜け、僕の前に立った。
「おい、ヤクモ。水晶ドラゴンの素材を売りに行くぞ」
「わかった。ピルンは?」
「ピルンはもう外にいる。さっさと報酬を山分けして、酒場で祝勝会をやりたいそうだ」
「キナコも参加するの?」
「酒が飲めるからな」
「ほどほどにしておいたほうがいいよ。酒の飲み過ぎは体に悪いから」
僕は呆然としているアルベルに向かって声をかけた。
「じゃあ、また」
「……お、おいっ!」
アルベルが僕の上着を掴む。
「おっ……お……お前、キナコのパーティーに入ってるのか?」
「うん。リーダーは別にいるけど」
「じゃあ……水晶ドラゴンを倒したパーティーは……」
「僕たちのパーティーだよ」
その言葉にアルベルの両目が大きく開いた。隣にいるダズルも驚いた顔で僕を凝視している。
銅像のように固まっているアルベルとダズルに背を向けて、僕はキナコと歩き出した。
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