第3話 捨てられた紙使い

 薄暗い夕刻の森の中を、僕はひとりで歩いていた。


 黄緑色の羽虫が僕の周囲を飛び回っている。その羽虫を手の甲で払いのけながら、僕は深くため息をついた。


「追放か……」


 どうして、こんなことに……。


 いや、【紙使い】の能力が認められなかったからか。


【紙使い】は魔力で紙を具現化し、操作するスキルだ。

 具現化時間や紙の強度は注ぎ込んだ魔力の量で変えられるけど、自分の基礎魔力は多くない。人族の平均の2000マナ以下の1800マナ程度だ。これだと具現化時間が短い紙を数十枚出すのが精一杯だ。


 基礎魔力が多ければ、いろんな性質の紙を具現化できるのに。防炎性のある紙とか粘着性のある紙とか。属性を付与した紙だって、もっといっぱい具現化できる。


 僕は両手のこぶしを強く握り締めた。


 基礎魔力の使い道が紙だけなのが問題なんだ。魔力効率のいい火球や光矢の魔法を使えたらよかったのに。


 この世界には地、火、水、風、光、闇の六つの属性の魔法がある。魔法は体内にある基礎魔力を利用して使用することができる。生活に役立つ魔法や戦いの場で相手を倒す魔法など、いろんなところで使われている。特に攻撃魔法はモンスターと戦うことが多い冒険者にとって、覚えておきたい魔法だった。


 だけど、僕の攻撃魔法は戦闘で使えるレベルにはならなかった。どうやら、【紙使い】のスキルのせいで、通常の魔法を使用する時に悪影響を及ぼしているようだ。呪文を詠唱する時、脳内に紙を具現化する魔式の一部が無意識に浮かび上がる。その影響で攻撃魔法の発動が遅くなり、威力も減ってしまう。


「【紙使い】じゃなくて、魔法を強化するスキルだったらなぁ。そうすれば魔道師や魔法戦士になれる可能性もあるのに」


 目頭が熱くなり、周囲の景色がぼやけた。


 キルサスに見捨てられたのも仕方のないことなのか。

 それとも、アルベルたちをサポートする戦い方をしていたのが間違いだったのかな? 

 少しでも多くのモンスターを自分が率先して倒す戦い方をしていれば、キルサスの判断も違っていたかもしれない。


 でも、そんなことをしていたら、アルベルたちが死ぬ可能性があった。三人とも自分の視界に入っている敵を倒すことしか考えてないから。


 その時――。


 ズキンと頭に痛みを感じた。


「……いっ、くっ……」


 僕は頭を押さえて、奥歯を強く噛んだ。


 さっき、ハンマーが頭に当たったせいか。精神にダメージを与える効果がまだ残ってるのかもしれない。


 額に手を当てると、普段より熱があるように感じた。


「魔法医に診てもらったほうがいいのかな」


 いや、痛みは軽いし、このぐらいで魔法医にかかってたら、お金がなくなってしまう。


 聖剣の団を追放されたから、次の給料はもらえないし、持ってるお金は大銀貨二枚と銅貨が三枚だけだ。これだと十日分の食費にしかならない。


 深呼吸を繰り返していると、痛みが消えた。


「……よかった。なんとかなりそうだ」


 とにかく、タンサの町に戻ろう。基礎魔力を限界まで使って、少し体が重いし。


 僕は頭を押さえながら、森の中を歩き出した。

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