【書籍化】「雑魚スキル」と追放された紙使い、真の力が覚醒し世界最強に ~世界で僕だけユニークスキルを2つ持ってたので真の仲間と成り上がる~【コミカライズ】
桑野和明
第1話 プロローグ
緑色に発光する苔が照らす薄暗い洞窟の中。
僕は短剣を手に持ち、深く息を吸い込んだ。
落ち着け……落ち着いて、状況を確認するんだ。
場所は円形で広い。天井までの高さもある。奥には穴が二つ……か。
紫がかった黒い前髪を右手で払い、薄い唇を強く結ぶ。
「おいっ、ヤクモ。びびってんのか?」
隣にいたアルベルが僕の肩を叩いた。アルベルは僕と同じFランクの冒険者で年も
同じ十六歳だ。革製の鎧をつけていて、腰にはロングソードを提げている。
「たかが、ゴブリンの洞窟で緊張しすぎなんだよ」
「でも、この場所は広くて、ゴブリンの群れに取り囲まれると面倒だよ」
僕は周囲を見回す。
「ゴブリンは数体なら倒せるけど、十体以上いたら……」
「それでも余裕だろ。こっちは四人で戦うんだからな」
「そうね」
背後にいたカミラが口を開く。カミラは十七歳でウェーブのかかった赤い髪を肩まで伸ばしている。手には魔法の効果を上げるための杖を持っていた。
「私たちは一番下のFランク冒険者だけど、新進気鋭の『聖剣の団』のメンバーなんだから」
「ひひっ、その通りさ」とダズルが笑った。
ダズルは背丈が僕より低く、ひょろりとした体形だった。髪は黒く、ダークグレーの服を着ている。
「ゴブリンなんて、僕の投げナイフの的だよ」
ダズルは赤い刃のナイフを左右の手に二本ずつ持った。
その時――。
微かな音がして、奥の穴から数十体のゴブリンが姿を見せる。
背丈は十歳の人間の子供ぐらい。緑色の肌ににごった黄色の目、獣の毛皮を腰につけていて、人族から奪ったであろう武器を手にしていた。
ゴブリンたちは黄ばんだ歯をガチガチと鳴らして、僕たちに突っ込んできた。
「きたぞ!」
アルベルがロングソードを構える。
「速攻で終わらせるからなっ!」
僕たちの命を掛けた戦いが始まった。
「ギャギャッ!」
ゴブリンたちは鳴き声をあげながら、僕たちを取り囲もうとする。
「そうはさせるかよ!」
アルベルが僕たちの背後に回ろうとしていたゴブリンに突っ込み、ロングソードを振り下ろす。ゴブリンの腕が斬れて、赤黒い血が噴き出した。
「こっちもいくよ」
ダズルが左右の腕を胸元で交差させるように動かした。四本のナイフが太ったゴブリンに突き刺さる。さらにそのゴブリンがカミラの攻撃魔法で炎に包まれた。
「ギャ……ギャギャ!」
ゴブリンたちの鳴き声がダンジョンに響く。
みんな、すごいな。アルベルはパワーがあって、ゴブリンを一撃で倒せるし、ダズルは遠距離でも近距離でも戦える。カミラの火の魔法も詠唱のスピードが速くて、殺傷力が高い。
と……そんなことを考えてる場合じゃない。僕も自分にやれることをするんだ!
両手に短剣を持ったゴブリンが僕に飛びかかってきた。
僕はスキル【紙使い】の能力を使用する。
魔法文字と様々な図形を組み合わせた魔法を発動させる式――『魔式』を脳内でイメージする。
その魔式が黄金色に輝き、四十センチ四方の三枚の紙がゴブリンの顔の前に具現化した。ゴブリンの視界がさえぎられ、僕の姿を見失う。
その隙にゴブリンの側面に回り込み、短剣を突き出す。鋭い刃がゴブリンの首に突き刺さった。
「グギャ……」
ゴブリンは首を押さえたまま、横倒しになる。
この魔式は【紙使い】のスキルを持つ僕だけが使えるものだ。他人が脳内でイメージしても、魔法が発動することはない。ただの文字と図形の羅列だ。
まずは一体……次は……。
視線を動かすと、二体のゴブリンがアルベルを襲おうとしている。
まずい。アルベルは気づいてない。
僕は六枚の紙を具現化して、アルベルとゴブリンの間に紙の壁を作った。
ゴブリンはロングソードで壁を斬る。
その音でアルベルが背後にいたゴブリンに気づいた。
「舐めるなよ! 雑魚モンスターがっ!」
アルベルはロングソードを真横に振る。二体のゴブリンの首が同時に斬れた。
僕は素早く視線を動かして状況を確認する。
カミラは大丈夫だな。しっかりと距離を取って、火球の魔法でゴブリンを倒している。ダズルは……あ……。
ダズルは三体のゴブリンに囲まれていた。
僕はゴブリンに突っ込みながら、別の魔式を脳内でイメージする。
剣の形に加工された紙が具現化する。紙の剣の先端は尖っていて、厚みは一ミリもない。その剣が動き出し、ゴブリンの腕に刺さった。
「グギャ……」
ゴブリンは悲鳴をあげて、持っていた短剣を落とす。
「ひひっ、いいね」
ダズルはゴブリンに向かってナイフを投げた。そのナイフがゴブリンの胸元に突き刺さる。
「ギュ……グ……」
ゴブリンは前のめりに倒れながら、両手でダズルの足首を掴んだ。
「ちっ! 死に損ないめっ!」
ダズルはゴブリンの背中に短剣を突き刺す。
そこにハンマーを持った大柄のゴブリンが駆け寄ってくる。そのゴブリンは首に獣の爪の首飾りをしていて、黒い腕輪をはめていた。
リーダーっぽいな。それにあのハンマー……形がいびつで柄の部分に魔法文字が刻まれている。何かの効果があるのかもしれない。
ダズルを守らないと!
僕はダズルとゴブリンの間に割って入る。
「ギャギャ!」
ゴブリンがハンマーを振り上げると同時に僕は短剣を突き出す。ゴブリンの肩に刃が刺さり、赤黒い血が噴き出した。
「どいてろ! ヤクモ!」
背後にいたダズルが僕を押しのけて前に出た。
「とどめは僕が刺すから」
ダズルは視線を僕に向ける。
その瞬間、ゴブリンがダズルに向かってハンマーを投げた。
「危ないっ!」
僕は両手でダズルの肩を強く押した。投げられたハンマーが僕の側頭部に当たる。
強い衝撃を感じて、僕は片膝をついた。視界がぐにゃりと曲がり、女の悲鳴のような声が脳内に響く。
何だ……これは? 頭が何度も殴られているみたいに痛い。精神にダメージを与える……効果がついていたのか。
ダズルは僕を気にすることなく、素手になったゴブリンと戦っている。
「ギャギャッ!」
短剣を持った別のゴブリンが僕に飛び掛かってきた。
僕は転がりながら、ゴブリンの追撃を避ける。
基礎魔力の残りは……360マナか。ここは限界まで紙を出す!
頭の痛みに耐えながら、三枚の紙を具現化する。
宙に浮かんだ紙をゴブリンは左手の爪で破いた。
これでいい。少しの時間を稼げれば……。
「おらあああっ!」
アルベルが僕を攻撃していたゴブリンの背中にロングソードを突き刺した。
「ギィイイイ!」
ゴブリンは絶叫をあげて、僕の目の前に倒れる。
「おいおい、ゴブリンごときに何やってるんだ?」
アルベルは呆れた顔で倒れている僕を見下ろす。
「頭から血が出てるぞ」
「ハンマーが……当たって……」
僕は頭を押さえて立ち上がる。
「で、でも、大丈夫みたい……だ」
「当たり前だ。その程度のケガで回復薬なんて使えないからな」
そう言うと、アルベルは別のゴブリンに向かって突っ込んでいく。
そう……だよな。このぐらいのケガで休んでたら、強い冒険者になれない。
僕は痛みに顔を歪めながら、短剣を強く握り締めた。
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