第22話

「よくマンガとかでさ、「あら!裏のおばあちゃん」とか言うじゃん? 」


冬ももう間近となり登校時には制服の上にアウターも必要となりだしたこの頃、俺達は今日も学校の屋上で光合成という名目のサボリ中だった。

今までと変わった事と言えばいつものメンバー俺と上田とヒロトと川澄、そこにいつの間にか芽衣が当たり前のように居る様になったということ。


は聞かないけどあるのはあるよね、あの日曜日の夕方のアニメ限定かな、で? 今日のテーマは裏のおばあちゃん? いいよ続けて瀬野っち」


上田はいつも俺のとりとめのない一言をこういう風に分かりやすく周りに居る奴らにも伝わるように拡げてくれる。


「上田君って毎回達哉の呼び方違うよね? 瀬野とか瀬野君とか瀬野っちとか」


もう八年も親友やってると当人としては呼び方なんて何でも良かった。ただ会話のリズムを良くする為に付けてるようなもので、上田やヒロトに今更どう呼ばれようと気にする事でも無かったが芽衣はそんな事までいつも気にしていたのだろうか?


「そう? 全然意識したことはないけど。 そう言えば瀬野ッピーは苗字変わんないの? 」


「なんだよ瀬野ッピーって! 意識しなくちゃ出ねーだろ」


さすがに俺でもセノッピーには反応する。


「セノセノセノッピー…… 」


「…… 」

「…… 」

「…… 」


「ヒロト、照れるくらいなら言わなくていいから」


ヒロトは決して前へ前へ出るタイプではないが、たまにこうやって口から漏れるように思い付いた事を呟いてしまう事がある。きっと自分の中のを我慢出来ないんだろう。


「で? 何の話だっけ?」


「達哉のお母さんが再婚したけど苗字が変わらないのかって話じゃなかった?」


「再婚じゃなくて初婚なんだけどな一応、母ちゃんの名誉の為に言っとく」


「上杉先生と結婚したんだから上杉…… 達哉…… はっ! タッちゃん! 」


「連れてかねーよ! 甲子園」


「な~んだよノリ悪いなは」


「違うでしょ、マンガに出てくる裏のおばあちゃんの話でしょ」 川澄が呆れたように笑いながら言った。


「そうだよ! 上田が余計な事ばっかり言うから忘れてたじゃねえか、裏のおばあちゃんの話だよ、あのなマンガとかに出てくる「あら! 裏のおばあちゃん」って声の掛け方だけどな」


「あれ? 俺ワルモノにされた? よーし、ならここまで引っ張ったんだからきっと大爆笑取れる話してくれるんだよな? ちょっと引っ張り過ぎたんじゃないの? これよっぽどのネタじゃないとスベること間違いなしの雰囲気だぞ? ヤメといた方が良くないか? 」


「瀬野っち、僕もそう思う」 上田とヒロトが言うように随分とハードルが上がってしまっていることは俺も薄々感付いてはいた。 だがもう引き返せない。


「いいか? マンガに出てくる裏のおばあちゃんって声の掛け方な 」


「達哉、もう…… ヤメよう…… 見たくないよ、達哉のダダスベリ」


「瀬野君…… ヤメて! 」


「いいからっ! 裏のおばあちゃんって声の掛け方、アレって主人公達にしてみれば確かにかも知れないけど、呼ばれたおばあちゃんにしてみれば「アンタ達が裏だろ」って話じゃん、「私の人生ではいつも私は表だよ、堂々とお天道様の下を歩いてるんだよ 勝手に人を裏へと追いやるんじゃないよ」っておばあちゃんは思ってるよな? 」


「…… 」

「…… 」

「…… 」

「…… 」

「…… 」


「明日晴れるかなぁ? 」


「こんなに澄んだ青空なら大丈夫じゃない? 」


「見て! ひこうき雲」


「本当だ、綺麗な青空にひこうき雲も見れて有意義な時間だったね、授業も終わるし教室に戻ろうか? 」


「そうね、行きましょう」


「……………… 」





おばあちゃん、こんなに空が青いんだぜ。


アンタだって表に出て来たいよな。




「達哉ー! 次の授業始まるよー」

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