第21話

公園に着くとちょうど凌がリョウを連れて散歩しているところだった。他に人が居ないこともあり凌はリードを外してリョウを自由に遊ばせていた。


「ワンワンワンワンワンワン」 真っ先に気付いたリョウが俺に吠えながら駆け寄ってくる。この図体のデカいバカ犬にしてみればただじゃれているだけかもしれないが、毎度々々飛び付かれてマウントポジションを取られた挙げ句に玩具のように扱われる俺にすればたまったものじゃない。


「あっ! 凌ちゃん、こんにちわ」 芽衣の挨拶に凌は頷くこともしない、他人には全く興味がないのだろうか。


「ムキッ、ちょっと達哉! いったい私はあと何度この屈辱を体験すればいいのかしら? あなたの可愛い妹でしょ、しっかり教育しといてよね」


「知らねえよ!そこは女同士、なんかこう上手いことやれよ上辺だけでも、得意だろ? 女って」


「ひっどーい、ちょっと聞いた? 川澄さん、こういう所なのよ。達哉の無神経さがよく分かるでしょ? 」


「瀬野君今のはちょっと…… 」 芽衣と川澄が、そして凌までも、三人が俺の事を蔑んだ目で見ているのがする犬のリョウ越しにひしひしと伝わってくる。


「リョウ、あっち行くぞ」 凌は俺にのし掛かったリョウを呼ぶと広場の方へと一人先に歩いて行った。


「川澄さん、達哉みたいな馬鹿が隣に引っ越して来て迷惑でしょ? 無視しといたらいいからね、あと家中のカーテン閉めておかなきゃダメよ! コイツきっと良からぬことを考えるから」


「なんだよって、する訳ねえだろ! だいたい芽衣おまえが近所に居た時にそんなことしたことあったか? 一度でも」


「そりゃ私が気付いてなかっただけでバレないように上手くしてたかも分かんないじゃん」


「興味ねえよお前の私生活なんか」


「…… 」


芽衣が何も言い返して来なくて 言った俺もそれ以上の言葉に詰まってしまい妙な空気になってしまった。


「ほんと仲いいよね二人って」


「別に良く

「別に良く


ほんの一瞬出来た沈黙にすかさず川澄がフォローを入れてくれたおかげで何事も無かったかのように話は続いたけど、こういう所なんだろう、デリカシーに欠ける俺のダメな所って。


「そういえば瀬野君、上杉先生って以前三沢学園で中等部を教えてたの?」


「ん? それは知らないけどウチの学校に来る前はしばらく塾の講師をしてたって聞いたよ、なんで? 」


「三沢学園の知合いの子がもしかしたら「上杉先生かも」って」


? もしかして問題教師とか? 」


「それがね…… 」


川澄はじっくりともったいぶりなかなか続きを言い出さない、光彦先生はあんな優しそうな顔をしているのに実は暴力教師なのか?それとももしかして教え子の女子中学生に手を出すようなロリコン教師なのか、どちらにしても今の光彦先生からは想像のつかない姿だ。けどそういうことなら凌が心にあんな風に闇を持っていることも頷ける、実の父親が暴力教師か変態ロリコン教師で学校を首になったというのなら。


「それが? …… 」


「すっごく熱心でめちゃめちゃ生徒達に人気があったんだって、だからその知合いの子が羨ましがっていたの、上杉先生に教えてもらえるなんてって」


川澄の言葉に肩透かしを食らったけど正直安心した、一応俺の父親でもある訳だからやっぱり変態ロリコン野郎は嫌だ。けどそれなら凌の心の闇はいったい何が原因なのだろうか? あんな奴でも俺の妹には違いないんだから兄として少しは気にしてやろうと、遠くでリョウと遊んでいるアイツを見ながら思った。

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