第4話
「なあ、やっぱり俺も居なくちゃダメ? 」
母ちゃんから結婚すると告げられて2週間、結婚相手の家族を紹介するからと連れられて街のはずれにある市民公園にやって来た。
「当たり前でしょ、アンタに会わせるのが目的なんだから」
別にどんな奴が相手でも反対なんかしないのに、俺は俺、母ちゃんは母ちゃんなんだから。 俺ももう大人だよ、と何事にも熱くなったりせず誰にも干渉しないことが格好良いことだと思っていた。
「母ちゃん、今まで育ててくれてサンキュー、これからはアンタの好きなように生きなよ、俺は俺で好きな…… 」
「バウッワウワウワウワウッ」
「うわっ! なっ!? やめっ! ふげぇ、た、助けてぇ」
せっかく俺がどこまでもクールに母ちゃんを祝福してやろうと思っていた所にいきなりデカイ犬が飛びついて来やがった。
ペロペロペロペロペロッ
「ちょ…… ちょ…… タンマ…… 待っ…… 」
「リョウ! やめろ」 飼い主と思しき少年が制止したがそのバカ犬は全く聞く耳を持たずに倒れた俺の顔を舐め回している。
「大丈夫よ達哉、リョウちゃんは咬んだりしないから」 どうやら母ちゃんとこのバカ犬は知合いらしい、ん? 『リョウ』? もしかして結婚相手の子供ってこのバカデカ犬のことなのか?
「リョウ! そんな汚ないモノいつまでも舐めてたら病気になるぞ」
深々と黒いキャップを被った小学生くらいのクソ生意気なガキは普段の俺よりももっと冷めきった声でバカ犬に話し掛ける。
「誰が汚ないんだよ! おいガキ! お前飼い主なんだろ!? さっさとなんとかしろ! 」
「ナオミさん、お待たせ」
バカ犬とクソガキから遅れてやって来てナオミ という母ちゃんの名前を呼んだのは、車椅子の婆さんを後ろで介助するヒョロガリで黒縁メガネのいかにも頼りなさそうな男だった。
「こんにちわミツヒコさん、お義母さん」
「こんにちわナオミさん、天気が良くて嬉しいわ、久々よ、こうやって日光浴をするのも」
車椅子の婆さんはバカ犬の頭を撫でながらそう言うと遊歩道に覆いかぶさる木々から漏れた陽の光をありがたそうに受けていた。
「ホントね、でもこれからは好きな時にいつでも出来るんだからね」
「ナオミさん、あなたはやりたいことをやってればいいのよ、私の介護をする為に結婚する訳じゃないんだから」
「いいの! これからは本当の娘になるんだから遠慮なんてしないで! 」
他愛ない会話は途切れることなく、けれど一つの話題を深く掘り起こすことも無く、次から次へと話を変えながら散歩の間中 母ちゃんと婆さんとで繰り広げられていた。
※※※※※
「改めて紹介します、これがウチの達哉です。今、高校2年生」
ファミレスに場所を変えて六人掛けの席に俺と母ちゃん、メガネの男性とクソガキが座る。婆さんの席は通路に車椅子のままテーブルに向けるように店員がセッティングしてくれた。
「達哉、この人が私が結婚することになった上杉光彦さん、それからお義母さんの富江さんと、あなたの妹になる
母ちゃんは俺たちが入ったファミレスの外に繋がれたさっきのバカ犬を指して言った。
「へ? リョウ? こっちもリョウ? 」
「別に難しく考えなくていいの、そうよ、凌ちゃんとリョウちゃん」
「へ? 妹!? おん…… 痛っ! 」
テーブルの下で俺のスネを蹴る奴がいた。角度からして正面に座るこのクソガキだ。相変わらず深く被ったキャップの下の顔はほとんど見えず、ただ確かに女の子だと言われて見るとそう見えるし「小学生くらいか?」と思ったのは華奢な体つきだったからだ。しかし態度といい足癖といい、口の悪さといい女と呼べるところなんてあるのか? っていうかこいつが俺の妹になるって言うのか?
思ってたのと違う!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます