元社畜オッサン、異世界でペガサスライダーになる。強敵も多いが生き残ってみせる 

スィグ・トーネ

第1話 オッサン、自分も死ぬということを知る

 ああ……これは即死だな。

 車に跳ね飛ばされて路肩に叩きつけられたとき、俺の脳みそは他人事のようにそう呟いていた。

 腕があり得ない角度に曲がっているし、身体が全然動かないし、痛みさえも感じていない。3連続夜勤明けの疲労とかの影響もあるだろうけど、それ以上に俺はまさに今終わった感が満載だ。


 だけど悔いはないさ。こんなしがない俺でも、最後に車に引かれそうになっていた子供を助けることができたんだ。

 運転手は慌てた様子で出てくると、まずは子供に駆け寄って無事を確認し、今度は俺に駆け寄ってきた。

 絶望的な顔をしてるな。だけどこんな見通しの悪い道を、あんな速度で飛ばしてたお前にも責任があるんだぞ……ん、何だか、目の前がぼや……けて……き……


…………

…………


 ん、今誰か……話しかけてきたような。

 いや、気のせいか。


…………

…………


 気のせいではないようだ。これは……先ほどの子供の声か。お前もこれに懲りたらもう道に飛び出したりするんじゃねーぞ。まったく。

 まあ、終わったことを今さらどうこう言っても仕方ないか。さて俺は天国に行くのかな。それとも地獄だろうか。さて……


『目を覚ましてください。フツダカズジさん!』

 俺はぎょっとして飛び起きた。

「お前、どうして俺の名前を知ってるんだよ?」

「ああ、よかった……魂はまだ召される前だったのですね」

 幼いクセにはっきりした言葉を使う子供だ。そう思っていたが、よく見ると子供の姿が外国人……というよりもどこか人間離れしているように感じた。


「お前、どこの国の人間だ?」

『異世界からやってきた者です。日本で価値ある魂を探そうとしていたのですが……右も左もわからなくて……大変ご迷惑をおかけしました』

「事前調査くらいしとけ!」

 叱り飛ばすと、その不思議な幼子はしゅんと項垂れた。

『本当にごめんなさい。せめてもの罪滅ぼしに、貴方の身体は回収して修復しようと思います』

「そんなことできるのか!?」


 そう聞き返すと、不思議な幼子は頷いた。

『ええ。ですが……僕はごらんの通り霊力は強くありません。ですから貴方の……日本人の肉体は、最も霊力が上がる日に修復することにします』

「それは何日かかる?」

『366日後に作業ができますが、いつまでもこの空間にいては貴方の魂が持ちません。ですからその間は……僕の故郷にいる適合者の肉体に入ってもらいます』



 なるほど。臓器や血液の提供にも、適不適があるのだから、魂だって合う人間と合わない人間もいるだろう。

「俺としては助かるが、元の持ち主もいるだろう……そいつはどうなった?」

『ベースとなった方は、亡くなって天に召されています』


「なるほど。つまり俺は一時的だが、異世界転生することになるワケだな」

 不思議な幼子は頷いた。

『お手数をおかけします。せめて快適に異世界を過ごして欲しいので……僕からささやかながら贈り物をしたいと思います』


 その言葉を聞いて、俺は思わず身を引いた。

 異世界転生と言えばチート能力を貰えるのはお約束となっているが、大それた力を持てば、転生先世界の権力者や実力者に目を付けられるだろう。

 規模は小さい話になるが、俺の務めていたブラック企業では、できると思われる者から上司や先輩からいびられて退職に追い込まれることが多い。



 不思議な幼子は、俺の胸中の不安を見透かしたらしく、微笑みながら言った。

『ご心配には及びません。贈り物は転移先でも目立たないモノですよ』

「そ、そうか……どんな能力だ?」

『簡単に言えばベテラン傭兵ポニージャヴェックの記憶です。もうあまり時間はないので……詳しくは現地で確認してください』

 詳しく説明して欲しかったが、どうやらそう都合よくはいかないようだ。

『では!』

 不思議な幼子は、小さな手のひらを俺の額につけると、俺の意識は溶けるようになくなっていく。


――――――――

――――

――


「おい、大丈夫かオッサン!?」

 声と共に揺すられ、俺はゆっくりと意識を戻した。

 何だか身体中が海水で濡れているらしくベタベタと気持ちが悪い。ゆっくりと目を開けると、3・4人の若者が俺を見下ろしており、ほっとした様子で笑っていた。

「よかった。意識が戻ったよ!」

「いくら敵を撃墜できるからって、深追いしすぎだよ!」


 一体何の話だと思いながら起き上がると、俺は茫然としながら辺りを見回していた。


 いま俺がいるのは、大きな船の甲板の上だ。

 しかもただの蒸気船ではない。滑走路のような設備がついており、そこをいま……翼の生えたウマと乗り手が駆け上がりながら、上空へと飛び立っていく。


 まさかここは……そう思っていたら、近くにいる若者が言った。

「無事に天馬母艦に……ミシェル・ノルディ号に戻って来れたんだよ! オッサン!!」

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