第40話 最速を持って


 そして変化が起きる。

 人類を含む多くの生態系が歴史を生きる中でその時々の環境に合わせて進化してきたとも言える。

 例えるなら人類の祖先は猿と言う一説がある。

 もっと言えば人類以外にも進化の過程と呼ばれるものがあっても何ら不思議ではない。多くの生命体はその時々に合わせた最良の進化を遺伝子レベルで行い、今の環境に適応して生きていると言ってもあながち間違ってはいないと思う。

 そう考えると――神災もその世界に合わせて適時適応して進化し続けても可笑しくはないのかもしれない。

 所詮神災と言ってもそれを作り出しているのは人間。

 だったらその可能性は十分にある……、はずである。


「進化した俺様の姿見せてやるぜ!」


 メールの背中から叫ぶ紅の声に合わせて本人と海を泳ぐ紅たちの背中から六枚の薄い羽根が生える。

 メールの背中に乗った紅は生えたばかりの羽を使いバランスを取り始める。

 その羽は水中でもしっかり機能し分身たちの機動力を大幅に進化させる能力も持っている。ただし一般的に汎用性がある羽とは違い最高速度が十%ダウンのデメリット付きで多くのプレイヤーはそこに活路をあまり見出していなかった。そもそもこの世界でも水中戦は迫力がなくどちらかと言えば不人気。そのため紅は大衆の視線をいとも簡単に集めることに成功し本来の目的の一つも同時に達成していく。


「水中戦にはそれ専用の地味なスキルと高価な特殊装備品が一般的だぁ!? そんなもの安物の海パン一丁で万事解決な所見せてやるぜ」


 AGIにステータスの大半を割いている男にとって一割減しても周りと比べると大抵自分の方がかなり速いのでそこまで気にするデメリットではなかった。


「俺様大隊攻撃開始だ!」


 空から狙われないようにアレンの動きと視線に注意しながら海上を自由に動き回るメールを避けて潜った分身たちによる攻撃が開始される。

 鏡面の短剣を弓に変形させて同じく矢も同時に生成して攻撃。

 海の中から放たれた水の矢がアレンを襲う。


「なるほど。防具を身に纏うことで防御が上がっても機動性が僅かにだが落ちることを考慮してのその恰好と言うわけか」


 大きな盾と剣を使い飛んで来る矢を的確に捌いて行くアレンの動きは素人目から見た紅にもすぐにわかった。


「とんでもねぇぐらい、無駄がない」


「舞え烈風」


 剣から発生した風がアレンに向かって飛ぶ矢を一気に吹き飛ばす。


「次は俺の番だ。真空烈風十字斬り!」


 十字架を刻まれた風が本体となる紅とメールに向かって一直線に飛んでいく。


 だけどそれは別の場所から飛んできた水の矢によって撃ち落とされる。


「本体だけでなく分身も噂の眼を持っているのか……ならば、」


 紅の視線の先にはアレンがいて、アレンの視線の先には紅とメールがいる。

 アレンを撃ち落とすために分身たちによる攻撃が再開されるが、アレンは先ほどと同じように的確に矢を対処して剣先を二人へ向ける。


「神風煌めく時、世界の風が俺に従う。暴風烈風斬!」


 巨大な力が振り下ろされる。

 空気を切り裂く音を携えたソレはKillヒットによる迎撃を許さない。

 矢が近づけないほどの暴風となった剣圧は広範囲攻撃を可能としている。


 近づく危険に紅とメールが一瞬のアイコンで意思疎通を交わす。




 

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