第9話 誤解を招いた男
次の日――学校。
「申し訳ございませんでした!!!」
朝から謝る男がいた。
周りから見ればプライドの欠片もなく一切の恥じらいもなくひんやりと冷えた床に頭を擦るように土下座をする蓮見がいた。
橘ゆかりが教室に顔を出すと同時に今日だけはいつもより早く登校した蓮見が先制攻撃にでたのだ。
「あら? 蓮見君じゃない? 朝から土下座とは私になにか後ろめたいことでもあるのかしら」
声のトーンが物凄く高いのは怒っているからだろうか?
それに君付けとは……嫌な予感しかしない蓮見は頭を上げたら負けると直感で察した。
「昨日は時間を考えずに電話をかけたばかりか、勢い余って余計なことを口走ってしまい申し訳ございませんでしたあああああ」
「ううん。私とても嬉しかったよ。まさかデートしてくださいって蓮見君から誘われるとは思いにもよらなかったわ」
「そ、その……お、怒っておられますか?」
「うん。とてもね☆」
少し間を開けて、土下座状態から動かない蓮見に向かって。
二人の会話を聞いていたクラスメイトがひそひそ話を始める。
「えっ? あの二人どういう関係?」
「さぁ?」
「ちょっと前まで全然話さなかったのにもうそういう関係ってこと?」
「幾らなんでも早すぎるでしょ?」
そんなクラスメイトたちに満面の笑みで視線を全体に泳がせる橘に周りがひそひそ話を止める。
その視線は蓮見が顔を上げなくてもわかるぐらいに、針に負けないぐらい突き刺さるような視線で向けれたら思わずゾッとするようなものだった。
「人が寝てる時間にわざと電話してきて寝起きで判断能力が鈍った私を落とすためにデートしてくださいって私をからかいたかったわけ?」
「いえ。そんなつもりは……ありませんでした!」
冷たい視線を向ける女の表情がニヤッと変化が現れる。
「言ったわね、【神災の神災者】の異名を持つく・れ・な・い・さ・ん」
背中がびしょびしょになった。
あれ……なんだろう。
とてつもなく嫌な予感がするし、冷や汗が止まらないのは。
「とりあえず顔上げて」
その言葉に顔を上げ見上げる蓮見に微笑む橘ゆかり。
「本当の意図をここで答えなさい。それを聞いてから必要なら返事をしてあげる」
「本当か!?」
「えぇ……私に変なことを言うってことは美紀絡みなんでしょ?」
流石美紀の親友だ。
蓮見が美紀のことでそれも学校の誰かに相談するなら美紀を誰よりも理解しているであろう彼女をおいて他にいないからだ。
この時、簡単なロジックではあるが蓮見はやっぱり橘も美紀並に頭いいなー、と心の底から感心していた。
さらに橘の理解力があってこそ生まれた弁解のチャンスに思わず蓮見の純粋な瞳がキラキラとしたものになり、真っ直ぐに下から見上げる蓮見は橘から見ると犬か猫のような愛くるしさを持っていた。
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