第15話
真っ白になった視界が、色を取り戻していく。
そうすると、周囲の景色は一変していた。
そこは広い空間だった。体育館よりもずっと広いその場所には、ツルハシみたいな形をしたものがいくつも並んでいる。車輪が付いていて、ツルハシの頭の部分の両端は、まるで鳥の翼のよう。
「自動制御型の戦闘機ですね」
「戦闘機……」
「この船のAIはすでに機能を停止していますから、動き出すことはありません」
戦闘機のおなかには、わたしなんか木っ端みじんにできてしまいそうな、物々しい兵器がぶら下がっているような気がしてならなかったから、ちょっとだけ安心。
ハルミちゃんは、扉を開けて、通路へと出る。その手には、あの巨大な銃が握られている。名前は確か、ジャイアントキリングって言ったっけ。あんなのを撃ったら、ハルミちゃんの小さな体なんて、簡単に吹き飛んでしまいそう。
わたしも、銃を構えることにする。見れば見るほどおもちゃっぽくて、頼りないけれど、ないよりはましだと思いたい。
「どこへ向かってるの?」
「操舵室――船を動かすための場所ですね。おそらくはそこに、セキアさんと少年はいます」
「ほかに敵とかいないよね」
「不明。しかし、ガードロボットが巡回していないことから、セキュリティは働いていないと考えられます」
「それっていいこと?」
「はい」
静かな通路を慎重に、でも急いでわたしたちは進んでいく。
まもなく、扉が見えてきた。スライド式の扉には、月見基地と同じような印象を受ける。たぶん、これを真似してつくられたのだろう。ってことは、ハルミちゃんが触れるだけで、開くのかもしれない。
扉の前に立ったハルミちゃんが、わたしを見てくる。
「準備はよろしいでしょうか」
「うん。大丈夫」
「では行きますよ」
ハルミちゃんの口から、10、9、8……とカウントダウンが始まる。減っていく数とは反対に、胸が脈打つペースが速くなっていく。
そして0になる。ハルミちゃんが手を振れると、扉が開いた。わたしたちは突入する。
戦闘機が置かれていた部屋よりかは小さな部屋に、セキアとスバル君はいた。
扉が開いたことに――そこからわたしとハルミちゃんがやってきたことに、二人は驚いていたけども、すぐに動き始める。セキアは、スバル君へと掴みかかり、スバル君は手にしていた銃をセキアへと向ける。セキアは体を低くした直後、光がセキアの赤い髪を貫いていく。じゅっとタンパク質が焦げる匂いが漂ったけれども、気に留めているのはわたしくらいかも。ハルミちゃんはなんとかして、照準を合わせようとしていたし、セキアはスバル君の腕に体を絡みつかせ、銃をもぎとる。
「ハルミ――!」
セキアは、背負い投げに似たフォームで、スバル君を放り投げる。
次の瞬間、稲光が走った。
それは、宇宙船から掃射されていたあの太いビームとほとんど遜色ないもの。ハルミちゃんを反動で不飛ばしてしまうほどの威力を持った一撃は、スバル君に命中――することはなく、正面の窓を打ち破った。
「掴まれ!」
ガラスが割れた時のような音とともに、風が巻き起こる。真空の宇宙へと、空気が流れだしていっているのだ。それはまもなく暴風となって、わたしたちを宇宙のチリにしようと、吸い込もうとしてくる。
わたしは近いところにあった手すりに抱きついた。吸い込む力はすさまじい。立ってはいられない。セキアが言ってくれなかったら、わたしは外へと放り出されていたかもしれない。
力に抗いながらも、わたしはセキアとハルミちゃんの姿を探す。すぐに見つかった。二人は手近なものに抱きついていた。
でも、スバル君は。
――いた。先ほどの一撃によって開いた穴のヘリにしがみついていた。
その瞳と、わたしはかちあう。助けて、と求めている風ではなく、むしろ、わたしたちへと憎しみの感情がそこにはありありと浮かんでいた。
わたしが心地よいと思っていた男の子の姿は、そこにはなかった。
わたしは、銃を構える。
撃った。
ソーダ色の光線が、冷気を飛び散らしながら、空間を貫いていく。見よう見まねで撃ってみたけれど、スバル君に命中することはなかった。
スバル君が掴んでいた窓の近くに命中し、透明な素材を凍てつかせていった。
手の近くの窓は、寒さにやられたのかボロボロになってやがて砕けた。
支えを失ったスバル君は、宇宙の闇へと吸い込まれて消えていった。
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