おにぎりくん2
ピザー
第1話 ノリ子さん
「おにぎり君、おにぎり君はどうして嫌われているの?」
おにぎり君は答えました。
「それはバランスを崩す者だから」
「おにぎりがバランスを崩す? 何の冗談?」
「僕は君が思っているより遥か沢山のおにぎりを用意できる」
「それじゃあ、おにぎり屋さんでもすればいいじゃない」
おにぎり君は少し考えてから答えました。
「僕はお金がなくてお腹が減っている人におにぎりをあげたいねん」
「沢山のおにぎりを無料で配る。私が想像できない程に沢山沢山。なるほど、それならバランスは崩れるね。単純に世の中のおにぎり屋さんがまず閉店だね」
おにぎり君はうなずいてから口を開きました。
「そう。それから、おにぎりに含まれている、そうやな、水分。雨になる。雨には決してならない水分ならば、それはこの世界の根本的な仕組みを無視していることになる。そう、僕は無視している。僕のおにぎりはカロリーにはなるけれど、便にはならない、など」
おにぎり君の話し相手をしているノリ子さんは少し考えました。ノリ子さんは12歳です。不思議なことを信じるには大人過ぎず子供過ぎず、そんな年齢でしょう。
「そんな仕組み、無視しちゃえばいいじゃない。海面が上昇しないようにとかその方が大事でしょ」
おにぎり君はまた考えてから口を開きました。
「エントロピー増大の法則。僕の作り出したカロリー、そうやな、エントロピーはやがてやがて宇宙に広がる。宇宙の熱的死、終わりを早める。何もないところから何かを作り出すこと、そのことについて僕は考える必要があるのかもしれへん。ちゃんと田んぼからお米を作らないとあかんのかもしれへん」
ノリ子さんはエントロピーという言葉を知りませんでしたが、何となくはまだ話を理解できています。
「じゃあ、田んぼから作ればいいじゃない。でも、土地がないか、お米を作る水も足りないか、沢山の水が必要だよね、海から簡単に持って来れるわけではない。おにぎり君は世界中から飢餓をなくしたいんだよね? そのゴールはあまりにも遠すぎるね」
おにぎり君はうなずいた。
「うん、アメリカがカリフォルニア米で日本を飲み込めない理由は、その水の足りなさにもある。アメリカ国内の米需要だけでいっぱいいっぱいなんじゃないかな。えっと、ここは地球だったかな」
ノリ子さんは笑った。
「ここは地球だよ。おにぎり君は宇宙人なの?」
「僕は、元々はこの世界にはいなかった。宇宙人、それが分かりやすい表現かもしれへんな。僕は宇宙全部におにぎりを配りたいねん」
「なるほど、それならそのエントロピー増大もすごいわけだ。田んぼに適した土地探し、惑星探しも大変だ」
「うん。僕は農耕の神様と呼ばれることもある。でも、この宇宙の理(ことわり)を無視して何でもできるわけじゃない」
ノリ子さんは笑った。
「でももういくらかしてるんでしょ。さっきもらって食べたおにぎり。今分かったよ、私の体の中で今エネルギーへと変わって行くのを感じた。便にはならないと思う。何もない空間から作り出したおにぎりなんでしょ? 宇宙中に行ける移動能力と、おにぎりを何もない空間から作る力を持ってるんだね、おにぎり君は。あと、まず不死身かな? 宇宙の全部に行けるんだから」
おにぎり君はうなずいた。
「僕がおにぎりを作らなくても、この地球には、地球の全員が飢えない量の食べ物が作られているねん。でも、無料で配れば経済が乱れる。経済が乱れたら、農地もいつかは荒れるだろう。色んな国家で相談し合って、最低限の食べ物を配れるお金システムを作ればどうなんやろう。いや、無理やな。難しすぎる経済バランスや。メシをお金で買う。これは経済の最大のポイントの一つや。経済こそが人の幸せの源なんや、この星では。そうやろう?」
ノリ子さんはこの公園にある時計を見ました。門限まではまだあるなと思いました。
「そうだね、車買うのもお金だし、ディズニーランドで遊ぶのにもお金だし、服を買うのもお金だし、好きな人に宝石を買うのだってお金、経済ね。プロのサッカー選手だって、サッカーが好きなだけでサッカー続けてるわけじゃないよね、お金がもらえるから。メシが食えて寝るところがあるなら0円でも構わないって人もいるかもしれないけど、もしかしたら。いないか」
おにぎり君はまた少し考えました。
「エントロピー増大の法則を何とかできるとしても、僕のおにぎりだらけになった宇宙は幸せではないのかもしれない。僕はどうしたらええんかな。ごめん、ノリ子ちゃん。答えはないよね。話し相手になってくれてありがとう。もうすぐ行方不明になってたノリ子ちゃんのお父さんが港に入るよ。気配を感じた。少し疲れてるけど、まぁ元気だよ。じゃあね」
ノリ子さんは少し大きな声を出しました。
「おにぎり君!もう会えないの!?」
おにぎり君はテレポーテーションしました。
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