春の陽に うつらと揺れる 眠花(ねむりばな) 俯く花弁に 肩を寄せて

山から吹き下ろす風に

身を寄せ合って

左腕に温もりを感じていた日々も

潮の匂いを運ぶ風が訪れるようになると

その手は乱れた髪に夢中で

代わりに絡みつくのは粘りつくような六花の結晶ばかり


それでも

耳元から首筋あたりに手を添え

恥ずかしそうにしている君が愛おしくて

風ばかりが吹き抜けていく左腕のことなんて

忘れてもいいと思えた


高台の上に咲いた薄桜色に染まった枝は

風に吹かれるたびに

季節外れの雪を降らせては

地面を白く染め上げる


少し古ぼけたベンチに座って

並んで眺める春吹雪


不意に肩に重みを感じると

薄桜の可憐な花びらが

風に舞って寄り添っていた



(蛇足のような解説)

ほろ酔いになった楊貴妃が少し眠たそうになったのを見て、玄宗皇帝がその姿を海棠の花に喩えたことから、海棠は眠花とも呼ばれるそうです。

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