第43話 白黒カラフル

 巨大なのでゆっくりにも見えるが、実際にはそれなりにスピードのある「魔王」の拳を躱し、俺たち4人はファンシーな色をした脚へと駆け出してゆく。



「ゴロロンパ!!!!!」



魔法に長けたツリーフ先輩が雷の上級攻撃魔法を繰り出す。「魔王」の頭上に灰色の雲が現れて、そこから重い紫の稲妻がハンマーのように叩きつけられた。雷の衝撃、熱さ、痺れに襲われた「魔王」は片膝をつく。



「あーしもマジガンバるよ~」



身体能力の高いドゴー先輩は「魔王」の足首へ横方向の斬撃を入れる。重く鋭い一太刀は、前から4分の1ほどを裂き、「魔王」は踏ん張ることができなくなって、うつ伏せに倒れた。



「いくわよ!!ア……アリサ………!!!」


「うんっ!!サキノ!!!!!」



俺とサキノは飛び上がり、「魔王」の首筋、人間ならば頸椎と呼べる箇所の真上に到達する。そしてサキノは剣で斬撃を、俺は木の棒で打撃を、2種類の攻撃を真下へ振り下ろす。



「ガアァァァァァアアア!!!!!」



 地鳴りを起こしながら「魔王」が今までとは異なる悲鳴を上げ、俺たちは手ごたえを感じる。さらに俺たちは今ダメージを加えた「魔王」の首筋に着地して、もう一度同様の攻撃を、今度は足を踏んばってさらに力を込め、食らわせる。





ズンッッッ!!!!!





 鈍く生々しい音と共に「魔王」の首は2つに分かれ、抵抗を試みていた腕や脚の動きは停止した。場は静かになった。





「……………倒したのですか?」


「おおっ!!!すごいじゃないか!!お前たち!!!」



 少し離れたところへ移動していたミホリー先生やカリーナ先生、それとサイカ、ルルップ、メイたち女子中高生が、事態をじっと見守っていた。



「生まれてからの17年間ずっと『勇者』でしたけど……魔王なんて初めてですわ……」


「ツリーフパイセンマヂまほ~ヤバかったっす~。そんけ~い」


「ドゴーさんも素晴らしい剣捌きでしたよ。あなたほど剣の扱いに長けた人は珍しいですわ」


「そんかわりまほ~ニガテなんですけどね~。でも褒められてブチ上げ~。ありがとうございま~す」


「あら、人が集まってきたみたいですわ」



 ツリーフ先輩とドゴー先輩がそんな話をしていると、遠くから「魔王」が見えた学園中の生徒らが、もっと近くで見ようと集まってきた。そして倒された「魔王」を見て、驚き興奮した様子と共に、もっと動いているところを見たかったというような、無責任な不満を点在させた。身勝手だなぁとも思ったが、こんな変な色をした巨大生物に好奇心が刺激される気持ちは分からないでもなかった。



「さぁアリサ。勝鬨を上げ、皆を安心させるのも勇者の役目だ。大衆のところへ行こう」


「あ……うん……そうだね、サキノ………」




 しかし知らない女子高生が大勢集まっている前に出るのは、魔王に突然掴まれて、ピンのように、ズボッと地面へ刺さされるよりも恐ろしい。俺は真っ白になりながら、サキノに連れられてツリーフ先輩とドゴー先輩の待つ人だかりの前に歩いて行った。




「あれ!?スイカ事件のときのアリサちゃんじゃない!?」


「すごい!!スイカだけじゃなくて、こんな巨大なモンスターまで倒しちゃったんだ!!!」


「カッコいいーーー!!!私にもあんな力があったらなーーー!!!」


「お肌も白くて羨ましーーーい!!!」




ほわぁーーーーー!!!!!認知されてしまっているーーーーー!!!!????




顔も頭も真っ白になった俺は、白目を剥きながら皆の前に立ち、白星を宣言した。




「まひょー!!!うひほった李ーーー!!!!!(魔王!!!打ち取ったりーーー!!!」





………………………………




場はシラけた。







ズボッ!!!!!



 次の瞬間、カラフルで巨大な手が放心状態の俺を掴み上げ、固い地面へピンのように突き刺した。俺は何の抵抗もないまま、顔だけが地上に出た状態になった。顔面は未だ白かった。



「何ごとだ!?『魔王』は倒した筈だろ!?!?」



 しかしそう叫んだサキノやこの場にいた全員の認識は誤っていた。首を真っ二つにされ、頭側は既に蒸発し消えていたにもかかわらず、「魔王」は胴体と手足のみを残した状態で動き出しており、俺を襲っていた。元がスライムであることを考えると、特別予測不能な事態というわけでもないかもしれないと、俺は薄っすらとした意識の中で考えた。



「皆さん逃げてください!!!再度私たちが討伐しますから!!!」



 ツリーフ先輩の指示よりも先に、群衆はパニックになって走り出していた。立ち上がった「首なし魔王」は両手を組んで大きく振りかぶり、蟻のように足元で蠢く女子中学生や女子高生たちを叩き潰そうとした。ドゴー先輩が与えた手と足首の傷は、いつの間にか消えていた。



「まーぢ、無敵ぢゃんあいつー!!!!!」



 ドゴー先輩が垂直に落下する両拳の真下に滑り込み、上方向へ何度も剣を斬りつけた。それは「首なし魔王」の拳をズタズタにして、原形から崩してしまおうという刃であったが、斬られた箇所はその都度回復し、両指の絡まったゲンコツの形は維持されたまま、ドゴー先輩や逃げきれていない女子中高生たちに降りかかった。



「危ない!!!エアレーレ!!!!!」



 ツリーフ先輩による風の上級攻撃魔法は、ドゴー先輩たちのいるもとへ急速に吹き込んで、「首なし魔王」の拳の下から人々を払いのけた。吹き飛ばされたドゴー先輩たちは、反対側にある森の木々に激突し、痛そうではあったが、地面に激突した巨大な拳に潰されるよりはましだった。ただ地鳴りだけが響いた。



「パイセン、マヂ命のおんじ~ん。ありがとうございま~す」


「ドゴーさん!!!無茶しないでください!!!!!」


「すみませ~ん。でもやっぱ『勇者』なんで体が先に動いちゃガフッ!!!!!」


「ドゴーさゴフッ!!!!!」



 「首なし魔王」と同じ色をしたファンシーな球体が、ツリーフ先輩とドゴー先輩の腹に命中した。「首なし魔王」の身体のどこから発射されたかは分からないが、不意の弾丸は2人の「勇者」に再起不能のダメージを与え、気絶させた。



「ツリーフ先輩!!!ドゴー先輩!!!この化け物め!!!!!」



 残されたサキノが「首なし魔王」に立ち向かってゆく。サイカ、メイ、ルルップたち戦える女子中高生たちもサキノを援護する。ミホリー先生やカリーナ先生、そしてようやく合流した他の教師や職員たちもサポートに回る。



しかし3分後のBBQ場にいたのは、全て負傷者だった。

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